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【特別養子縁組】どこでマッチングされても同じ質と量の支援が必要

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
養子縁組家庭の親子が安定した関係性を築いていくためには何が必要か?(写真:イメージマート)

 日本財団は4月4日「養子の日」に「養子縁組記録に関する提言報告会」(座長:林浩康日本女子大教授)を開き、養子の「出自を知る権利」を保障するために「記録を一元管理する中央機関と専門職による支援が必要」と提言した。続いて養親や養子、関係者らは情報の取得・保管・開示についての対応に差があり、不安を抱える当事者もいると発言。「特別養子縁組は、どこであっせんを受けても同じ質と量の支援が必要」と理解を求めた。

 日本財団は提言を取りまとめるため、2021年10月に研究者・養子・養親・あっせん団体・自治体関係者などによる「養子縁組記録の適切な取得・管理及びアクセス支援に関する研究会」を立ち上げ、6回に渡って検討会を開いて論議を重ねてきた。報告会では座長の林さんが提言内容を報告した後、当事者として検討に加わってきた委員4人が意見を伝えた。

※参考

・【特別養子縁組】「出自を知る権利」記録を一元管理する中央機関と専門職の支援が必要

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20220420-00292230

養子「生い立ちを受け止め、ありのまま生きよう」

 養子の竹野ゆり香さんは育ての親への感謝と、10代半ばから小遣いを貯めて交通費を捻出し、独力でルーツ探しをした経験を語った。続いて、養子それぞれの考えや価値観があるので一概には言えないと前置きした上で「どこに住んでいてもアクセスできるよう、情報が一元化されることを望む。自然災害が多い日本だからこそバックアップも必要。養子は自分の生い立ちを受け止めることで『これからの未来は、ありのまま生きよう』と思うことができる。大切な命を生み出してくれた父や母、その命を預かることを待っていてくれた養親ら、皆が夢や希望を持って生きられる社会になってほしい」と思いを伝えた。

 養親で弁護士の橘高真佐美さんは過去6回の検討会で、法律家としての知見を伝えてきた。個人情報の開示請求にあたっては「未成年者でも可能。大人が子どもの権利を妨げてはいけない」と強調するなど、出自を知る権利の保障を第一とする姿勢が一貫して見て取れた。この日は養親として子どもを迎えた喜びの気持ちを語る一方、生みの親との離別を経験した子どもの心情に思いを寄せ、「出自を知る仕組みがないことが課題であり、まずは適切な情報を集めることが大事。開示にあたっては支援が必要である。特別養子縁組の出自の問題を取り上げ、そこに焦点を当てて検討する機会を設けられたことに感謝したい」と述べた。

養親「記録にアクセスできる仕組みは養育者にとっても安心」

 養親・里親の石井敦さんは妻の佐智子さんとともに養子・里子・実子を育ててきた。「全員、産んだ人が異なる」という家族にあって、研究会への参加を通じ「出自を知る権利とともに意見表明権も重要であると実感した」と述べた。提言については「養子にとって真実告知は大前提で、情報を取得・管理しアクセス支援する制度が必要。養子の誰もが記録にアクセスできる仕組みは、養育者の安心にもつながる。当事者をはじめ関係者の心のケアに配慮しながら必要な策を国として講じてほしい」と述べ、養子に対しては「変えられない過去と向き合って、生まれてきたことを肯定し、自らの力で人生を生き抜いてほしい」と語った。

 養子縁組家庭支援団体「Origin」代表理事のみそぎさん(仮名)は欠席のため、メッセージが代読された。「特別養子縁組は新たな局面を迎えていると思う。当事者が声を上げるようになったからである。特別養子縁組が家庭の中で完結され、苦しみを感じるのではなく、子どもが声を上げて、生の声を発信することで制度を動かす力になっている。力を合わせてより良い制度になるよう貢献したいと思う」との内容だった。

韓国は中央機関、法律によって「知る権利」保障

 続いてほかの委員2人から海外・国内の事例が報告された。目白大学人間学部准教授の姜恩和さんは韓国の養子縁組制度について紹介。韓国は2013年までに海外への養子が16万人、国内では10万人が縁組されており、当事者が声を上げたことが制度改革の原動力になっている。

 中央機関の児童権利保障院(旧中央養子縁組)が中心となり、「入養特例法」という法律の下、情報管理や海外養子のルーツ探し支援、データベース化、調査研究を担っている。民間のあっせん団体による記録は永年保存され、中央機関とあっせん団体の両方が保管し、当事者はIDとパスワードで検索できるようになっている。入養特例法は2021年に改正案が出されるなど、実態や当事者ニーズに合わせて改正することで国が「出自を知る権利」を長期にわたって保障している。

韓国における養子縁組の実態を解説する姜さん(筆者撮影)
韓国における養子縁組の実態を解説する姜さん(筆者撮影)

 姜さんは3人の養子当事者の声も紹介した。

「自分に愛情を持っていても、誰も自分の出生に関する記録を持っていないことに違和感を覚える」

「養子の人生は、始まって15分過ぎた段階から映画を見るようなもの」

「自分を手放す決断をした母親を当時、なぜ誰も助けてくれなかったのか」

 その上で、記録に誰もがアクセスでき、当事者の知る権利が保障され、政策によって守られ、当事者が情報を得るにあたっては方法を選択できることが重要であると強調した。

すべてのあっせん事業者が認識・実践の共有を

 社会福祉法人日本国際社会事業団(ISSJ)の常務理事を務める石川美絵子さんは国内の事例と課題について語った。同事業団では2012年12月に相談窓口のウェブサイトを開設、2021年度は25件の相談が寄せられた。相談者は 20代から60代までと幅広く、養子が16人、養親3人、養子の子3人、実家族2人、その他1人で、国内10件に対し、国外からが15件だった。

 養子に対してはルーツ探しを行う上での長所と短所に関する情報を提供、記録の種類や取得方法を教えている。養親には実親との交流範囲について整理した上で伝え、情報の取得方法を伝え、真実告知や子育てカウンセリングを行っている。実家族については養子の現在の生活を想像してもらうための働きかけを行った。

日本国際社会事業団が設けた相談窓口について紹介する石川さん(筆者撮影)
日本国際社会事業団が設けた相談窓口について紹介する石川さん(筆者撮影)

 石川さんは考察と課題について言及。海外からの問い合わせが多かったことについては「英語で対応をしていることもあるが、海外ではルーツ探しが当たり前のこととして定着しているから」と考えている。また、記録へのアクセスは本人にしかできない制限があり、やってみないと何を得られるか分からない実情があると紹介した。そこで、「あっせんに関わるすべての事業者が出自を知る権利の保障についての認識と実践を共通化すべきであり、記録の消失を防ぐことが急務。どこであっせんされても同じ質・量の支援が得られるようにすべき」と提言した。

     ◇     ◇

 特別養子縁組についてこのような研究会が設けられた背景には、児童養護施設や里親家庭で育つ子どもたちとは異なる「真実告知」(生い立ちや実親の情報を子どもに語ること)が行われる背景がある。児童養護施設や里親家庭にいる子どもは児相の職員や施設職員、里親らが成長に寄り添って関わり、生みの親との交流が途切れていたとしても実親の情報や生い立ちの記録を共有しながら、子どもの「知りたい」という要望に対応している。しかし、特別養子縁組が成立すると子どもは社会的養護の対象でなくなり、児相や施設職員との接点が薄れ、養親と築く家族の一員となる。すると、真実告知をするかどうかの判断は主に養親に委ねられることになる。

「養子縁組と里親制度の違い」(日本財団のホームページより)
「養子縁組と里親制度の違い」(日本財団のホームページより)

 養親の多くは里親登録をし、地域の里親会での研修・交流などを通じて真実告知の重要性に理解を深めているが、いざ告知するとなった場合、マイナスの情報があると「子どもが不安を覚えるかも」と真実告知そのものを避けてしまうケースもある。あっせん事業者の多くは子育てサロンなどで里親会のような研修・交流をしており、養親の葛藤を和らげる役割を果たしている。真実告知は親子の関係性を左右する出来事ともなり得るから支援が必要だが、交流の場から離れてしまうと養子・養親は家族内で葛藤を抱えることになりかねない。

命を授けてくれた親の存在を無視はできない

 検討会において養子当事者は「育ての親に遠慮して(生みの親は誰?などと)聞けないこともある」と述べた。養子の心情は複雑だ。生みの親は法律上では親権を手放し、養育を他者に委ねる決断をしているが、子どもがアイデンティティを確立し、成長していく過程で「命を授けてくれた親の存在を無視はできない」と思う養子もいる。考え方は多様であり、1人の養子の人生においても変化する。過去6回の検討会を傍聴しながら、どんな記録を残すのかなどについては一律にルールを決められない難しさもあると感じた。

 とはいえ、「現状では子どもの知る権利が保障されていない」という委員の見解は一致している。とりわけ、養親から「知りたい。子どもが望む情報を残してほしい」という要望が強かった。一般的には古くから「生みの親より育ての親」と言われる。養子当事者も、その思いを実感している人は多いだろう。養親との信頼関係や感謝の気持ちがあっても、それとは別に「生物として命の根源を知りたい」という気持ちが抑えがたくあるように思われる。

 日本財団は今後「養子縁組記録に関する提言書」を関係省庁や議員などと共有し、日本財団のホームページでも公開する方針である。養子・養親ら当事者の思いが込められた提言が反映された制度の構築を願ってやまない。

※参考

・日本財団ホームページより「子どもたちに家庭をプロジェクト」

https://nf-kodomokatei.jp/about/

・社会福祉法人日本国際社会事業団ホームページより養子縁組について

https://www.issj.org/adoption

・【特別養子縁組】養子がひとりで悩まず「生みの親は誰?」と聞ける仕組みづくりを ルーツ探し支援へ研究会

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20211021-00264097

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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