【野球】6月2日、富山で「伊藤智仁VS篠塚和典」伝説の対決を25年ぶり再現!
BCリーグ・富山GRNサンダーバーズで今季から元ヤクルト投手の伊藤智仁監督(47)が指揮を執っている。この伊藤監督、営業・広報にも積極的に参加し、次々と新たなアイデアを打ち出している。例えば、伊藤智仁といえば「高速スライダー」。代名詞を冠した「高速スライダー応援バスツアー~下道では低速ですけどなにか~」を立案した。
その内容は、6月2日に富山市の県営富山球場で行われる信濃グランセローズ戦を前に元巨人の篠塚和典さん(60)を招き、1打席限りのイベントとして、1993年6月9日の対決を再現するというもの。伊藤監督にとってはソロ本塁打を浴びた苦い思い出だが、野球ファンにとっては「伝説のサヨナラ」として記憶に残る。どんな内容だったのか?
25年前の見出しは「伊藤、たった1球の失投」
25年前の読売新聞の見出しには、こうあった。
「篠塚 精魂の一振り/巨人救うサヨナラ弾」
「伊藤セ・リーグタイ 16奪三振もフイ/たった1球の失投」
金沢市の石川県立野球場で行われた巨人戦に先発した伊藤は九回2死、走者なしの場面で代打・篠塚を迎える。それまではセ・リーグタイ記録となる16奪三振を記録していたが、援護なく0-0。投じた初球をライトスタンドへ運ばれた。伊藤のコメントは「(打たれたのは)真っ直ぐ。仕方ないです。三振の数は関係ないです」。
記事には「伊藤は、打たれた瞬間、マウンドでガクッとひざをついた」とある。
篠塚は勝負球を「カーブかスライダー」と想定し、投球練習を始めた味方投手の変化球で目を慣らしてから打席に立った。しかし、投じられたのは直球。ベテラン・篠塚は予想外の球をジャストミートし、「きっちり仕事をした」という印象を残した。当時、新人王の最右翼とされた伊藤の、たった1球の失投を見逃さなかったのだ。
東京-富山のルート、スライダーの軌道に似ている
5月3日に砺波市野球場で行われた福井ミラクルエレファンツ戦の後、伊藤監督に当時の思い出を聞いてみた。
「あの試合は、チームに認めてもらおうと、チャンスをつかもうと、必死でしたね。1年目でしたから」
現役時代を懐かしむコメントに、ファンとして「ワクワク感」は高まるばかりだ。6月2、3日に予定しているツアーの名称は、東京から富山までのバスのルートが、スライダーの軌道に似ていることから名付けたそう。なじみの深い東京のファンに「富山へ一度、遊びに来てほしい」と願っての企画である。伊藤監督は、指揮官の顔に戻ってリーグや、選手への期待を語った。
「独立リーグは、社会人野球が衰退する傾向にある現状としては素晴らしい組織です。でも、もっと盛り上げねば。いろんなことを仕掛けていかないといけません。また、プレーの質を高めてコンテンツそのものを充実させていくつもりです。富山には楽しみな選手がいますから、経験を積んで上(NPB:日本プロ野球機構)を目指してほしいのです」
スライダー「リリースの瞬間に、たたくイメージで」
選手らに、伊藤監督の指導について聞いてみた。まずは「伝説の魔球・高速スライダー」を伝授された左腕・吉田凌太投手。外国人など長距離打者に対し、変化球が高めに抜けて痛打されるという課題を抱えている。球の握り方や、「リリースの瞬間に、たたくイメージで」などと助言を受けたとのこと。この日の福井戦では敗戦投手となったが、レベルアップしている手応えはあるようだ。
「リリースポイントを上げ、ベースにたたきつけるイメージで投げると、スライダーの変化の量が大きくなり、しかも打者の近くで変化するようになりました。また、自分はクイック(モーションで投げること)が得意ではなかったけれど、走者との駆け引きを教えてもらい、勉強になりました。具体的に数字を挙げての指導なので、分かりやすいです」
伊藤監督は地元の指導者にも、自身の経験と知識を惜しみなく伝授している。シーズン開幕前に開かれた研修会を見学した。座学では、NPBの選手と日本人メジャーリーガーの投球の回転数を比較した数値やけん制にかかる秒数など、プレーに関する詳細な数字をホワイトボードにどんどん書いた後、論理的にプレーのスピードアップと合理化のノウハウを提言していく。受講者は必死でノートを取っていた。まるで、数学か物理の授業のようだ。
学童野球の指導者のほとんどは、「熱心なプロ野球ファン」でもある。「あのスライダーはどうやって投げるのか」という質問は研修会のたび、必ず出てくる。伊藤監督は実技を交えて詳細に答えている。高校・大学時代に投手経験がある30代後半の男性は感激した様子でこう話した。
「教わっても、あのスライダーを投げられないのは分かっています。でも、聞いてみたい。ボールを手放す感覚について自分は『切る』というイメージで投げていたけれど、伊藤さんは『たたく』と言う。独特の表現ですね。面白い。もう、嬉しくて、たまりません。憧れていましたから……」
グッズ開発、イベント運営でもアイデア提言
ヤクルト時代の経験を生かし、営業・広報担当としても球団スタッフへ積極的に助言している。広報担当の中村もとさん(22)は、湧き出てくる伊藤監督のアイデアに感心しきりの様子だ。
「話を聞いていて面白いです。伊藤監督は、いろんな顔を持っている。『NPBはこうやっているよ』などと教えてくれるので、とても参考になります」
中村さんによると、伊藤監督のアイデアを取り入れたイラストがプリントされているトートバッグや、「若い人に喜んでほしいから」と発案した迷彩柄のTシャツを販売、人気を集めているそうだ。伊藤監督はイベントなどで気づいた改善点を随時、伝えている。
6月2日、伝説の対決で「伊藤」は「篠塚」に雪辱を果たすのか。チームは首位に浮上できるか。「伊藤ファン」がどれだけBCリーグの野球に関心を持ち、球場に足を運んでくれるのか……。
富山GRNサンダーバーズ・伊藤監督のシーズンは始まったばかり。思い出の地・北陸を戦いの場に選んだ新監督の、いろいろな挑戦に注目していきたい。
※写真/筆者撮影
※BCリーグ・富山GRNサンダーバーズの公式ホームページ。試合日程やイベント情報などを随時、発信
※「高速スライダー号応援バスツアー」の詳細はこちら
http://travel.willer.co.jp/st/3/ja/pc/tour/package/?mcid=31382
※ルートインBCリーグの公式ホームページ