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立山黒部アルペンルート4月15日全線開通 「ずっと見ていたい」と思う雄大な風景

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
加藤祐希さんが昨年夏に撮影したみくりが池の写真(Facebookより)

「立山黒部アルペンルート」の営業に合わせて「立山の住人」となる女性がいる。室堂(むろどう・標高2450メートル)周辺のホテルに勤務する元アルペンスキー選手の加藤祐希さん(45)だ。今年も4月上旬、15日の全線営業再開を前に北海道からやってきた。「今年の積雪は、ちょっと少なめ」とのこと。毎年、春から秋まで滞在し、北アルプスの美しい風景をSNSで紹介している。競技者だったころ、国内外の山岳地帯を巡って豊かな自然に触れてきた加藤さんだからこそ、聞いてみたい。立山黒部の魅力とは?

立山黒部アルペンルートの概要。「富山県立山町」のホームページより
立山黒部アルペンルートの概要。「富山県立山町」のホームページより
黒部ダム
黒部ダム
雪の大谷
雪の大谷

 

 3000メートル級の北アルプスを貫く立山黒部アルペンルートは、富山県立山町の立山駅と、長野県大町市の扇沢駅を結ぶ総延長37.2キロメートルの交通路。電車、ケーブルカー、バス、トローリーバス、ロープウエーなどを乗り継いで移動する。立山駅から東へ30.5キロメートル、扇沢駅から西へ6.1キロメートルの位置に黒部ダムがあり、同ダムを造るために築いたルートを、山岳観光用に整備したものである。

 立山黒部アルペンルートは冬の間、深い雪に覆われている。現在、同ルートの最高地点である室堂周辺は除雪作業の真っ最中。「積雪は少なめ」といっても、約7メートルもある。立山駅(475メートル)から弥陀ケ原(みだがはら・1930メートル)までの区間が4月10日から5日間、部分開通され、全線営業期間は4月15日から11月30日までとなっている。

立山に来るたび「険しい山に、すごいものを造ったなぁ」と

 加藤さんは昨年、富山県側から室堂入りしたが、今年は3日に長野県側から入った。4月になってからは暖かかったので雪解けが進み、雪崩も多く発生しているそう。6日には売店で売るトラック3台分の土産物の商品を、長野県側から運び入れた。ケーブルカーやロープウエーで運ぶ際には、商品を手作業で載せ替えた。なかなかの重労働である。5カ月ぶりに立山へ「帰って」きて、何を思うのか。

「ここに来るたび『険しい山に、すごいものを造ったなぁ』と感じます。立山黒部アルペンルートがあり、山岳観光地として立山黒部が整備されたおかげで、山登りに慣れた人でなくても、この景色を見ることができるようになったのですからね」

 加藤さんは北海道伊達市の出身で、現在の居住地は札幌市である。小樽双葉高(北海道)と筑波大の在学中に合わせて4度、全日本スキー選手権の滑降やスーパー大回転などの種目で優勝した実力選手だった。25歳から27歳までは2000年とやま国体に向けて強化を進めていた富山県の選手として富山市内に住み、競技に打ち込んだ。同国体が終了した後は現役を引退して故郷にUターン、就職した。

加藤さん、休日は富山・長野両県の友人・知人と交流

 富山・長野両県にスキー関係の友人・知人がいるので、ホテルの勤務が休みの日は山を下り、旧交を温めている。また、ホテルの周辺を散策したり、登山を楽しんだりして、立山黒部アルペンルート周辺の自然を堪能し、風景や高山植物などを撮影してFacebookやInstagramに投稿している。

奥大日岳から剱岳を望む加藤さん
奥大日岳から剱岳を望む加藤さん

 加藤さんの「お勧めの風景」は室堂平(むろどうだいら・2450メートル)から見る夕焼けと、剱岳(つるぎだけ・2999メートル)である。剱岳はどこから見ても美しく、剱岳へ向かう通過ポイントとなる分岐点・別山乗越(べっさんのこし・2750メートル)や、奥大日岳(おくだいにちだけ・2611メートル)から望む雄姿を、「ずっと見ていたい」と思うそうだ。

「山に惹かれるからこそ毎年、立山に来て、住み込みで働きたいと思うのです。登山客としても充分、美しい風景は楽しめますが、住めば毎日、この風景を見ることができる。一方で、雪の壁の間をバスが通ることで知られる『雪の大谷』は1度しか見たことがありません。今年は、ちゃんと観光スポットも押さえておこうと思っています」

観光客へ「服装を万全にして来てください」

 立山黒部アルペンルートは、全区間が中部山岳国立公園内にある。交通網が整備されることによって、登山の経験が少ない人でも安全に登ることができる場所になった。しかし、標高が高いので気象条件は厳しい。加藤さんは「服装を万全にして来てください」と観光客に向けて助言を送る。

「履き慣れた靴で来てください。新品の靴は足が痛くなります。一方、古い靴だと途中で不都合が生じて歩けなくなる場合もあります。素晴らしい自然を自分の足で歩いて確かめられないのは、とても残念ですよ。また、山の気温は低く、寒いです。夏にTシャツだけの方もいますが、上着は必ず持ってきてください。山には天気の良い日もあれば、悪い日もあります」

 春を迎え、変化に富んだ自然を楽しめる立山黒部アルペンルートをぜひ訪ねてみてほしい。寒さや安全への対策を十分にして、雄大な風景を心ゆくまでどうぞ。

※写真/加藤さんは本人、黒部ダムと雪の大谷は(公社)とやま観光推進機構提供

※以下の写真は加藤さんが立山に滞在中に撮影した昨シーズンの風景。本人の許可を得てFacebookから転載。

▲2017年8月2日/夕焼け
▲2017年8月2日/夕焼け
▲2017年8月3日/チングルマ
▲2017年8月3日/チングルマ
▲2017年8月3日/一の越から雄山を見上げる、人だらけで渋滞。雄山登頂は断念する
▲2017年8月3日/一の越から雄山を見上げる、人だらけで渋滞。雄山登頂は断念する
▲2017年8月9日/夕暮れの雄山
▲2017年8月9日/夕暮れの雄山
▲2017年8月13日/みくりが池山荘からの剱岳
▲2017年8月13日/みくりが池山荘からの剱岳
▲2017年8月13日/立ち入り禁止の地獄谷。硫黄の匂いがプンプン
▲2017年8月13日/立ち入り禁止の地獄谷。硫黄の匂いがプンプン
▲2017年8月17日/変わった形の雲が……
▲2017年8月17日/変わった形の雲が……
▲2017年9月15日/室堂山途中からの剱岳
▲2017年9月15日/室堂山途中からの剱岳
▲2017年10月4日/いつものみくりが池から。残雪も小さくなりました
▲2017年10月4日/いつものみくりが池から。残雪も小さくなりました
▲2017年10月4日/室堂山荘の裏、雄山下の紅葉は……
▲2017年10月4日/室堂山荘の裏、雄山下の紅葉は……
▲2017年10月10日/大観峰から黒部平へ。タンボ平の紅葉まだ保ってる
▲2017年10月10日/大観峰から黒部平へ。タンボ平の紅葉まだ保ってる
▲2017年8月17日/美しい花
▲2017年8月17日/美しい花
▲2017年8月22日/美しい花
▲2017年8月22日/美しい花

※「立山黒部アルペンルート」のホームページ

https://www.alpen-route.com/index.php

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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