■コロナの陽性判定でリーグ戦が延期となった群馬

 お盆明けの8月18日、天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の4回戦(ラウンド16)8試合のうち7試合が各地で開催された。ここまで勝ち上がったのは、J1クラブが11、J2クラブが4、そしてJFLクラブが1。唯一の非Jクラブであるヴェルスパ大分は、アマチュアシードでの出場で、この日は昭和電工ドーム大分でJ2のジュビロ磐田と対戦することになっていた。カード的にはこちらに惹かれたが、大分はあまりにも遠い。というわけで、今回は「大分つながり」のカードをチョイスした。

 正田醤油スタジアム群馬で18時キックオフのザスパクサツ群馬vs大分トリニータ。群馬はJ2で22チーム中18位、大分はJ1で20チーム中19位、いずれも残留争い真っ只中である。そんな中、両者はどのように戦力をやりくりしながら、このゲームに臨むのだろうか? 当初は、その程度しか考えていなかった。ところが試合6日前の12日、群馬でトップチームの選手2名とフロントスタッフ1名に、新型コロナウイルスの陽性判定が出たことが明らかになる。

 結局、先週の時点での陽性判定者は7名となり、14日に予定されていた栃木SC戦は延期。濃厚接触者特定のため、クラブとしての活動も15日まで中止となってしまった。事はサッカー界だけの問題ではない。県内での感染者数は13日に252人と、初めて200人台を突破。これを受けて20日から、緊急事態宣言の対象に群馬県も含まれることとなった。こうした状況の中、果たして天皇杯は予定どおり開催されるのか? 少なからぬ不安を抱きながら、事態の推移を見守っていたのだが、2日前の16日に開催が正式にアナウンスされた。

 キックオフ30分前、試合会場に到着。水曜日開催にもかかわらず、この日は遠く大分からも20人ほどのサポーターが駆けつけていることに、まず驚かされた。この日の入場者数は890人。4回戦では2番目に少ない数字だった。それでも、コロナ禍でもきちんと試合が行われ、そこにビジターを含む890人もの観客が集まったことについては、ある種の「奇跡」のようにも感じられる。開催実現に尽力した、すべての関係者の皆さんに、この場を借りて謝意を表したい。

序盤に先制点を許した大分はPKのチャンスから、渡邊新太が冷静に決めて同点に。その後は拮抗した展開が続く。
序盤に先制点を許した大分はPKのチャンスから、渡邊新太が冷静に決めて同点に。その後は拮抗した展開が続く。

■トレーニング不足の群馬と連携不足の大分

 ホームの群馬は、前々節の愛媛FC戦から8人の選手を入れ替えてきた。中3日で、レノファ山口FCとのリーグ戦を控えていることを思えば、当然の判断といえよう。対する大分は、日曜日の横浜F・マリノス戦からメンバーを総入れ替え。しかもFWでスタメン出場した屋敷優成をはじめ、控えにも第2種から借りてきた16歳から17歳のメンバーが並ぶ。これはリーグ戦との兼ね合いに加えて、シーズン途中の新加入選手が出場できないことも影響している(前所属チームで天皇杯に出場しているため)。

 急造感が否めない大分に対し、群馬は序盤からゲームの主導権を握る。そして13分には先制。久保田和音がドリブルで持ち込み、短いクロスに白石智之が右足で直接合わせてネットを揺らす。しかし、大分もすぐさま反撃。松本怜のクロスが相手の手に当ってPKを獲得すると、渡邊新太が冷静に決めて18分に同点とする。群馬はコロナ明けでのトレーニング不足。大分はメンバー総入れ替えで連携不足。どちらも苦しい状況ながら、それぞれ積極的な攻めの姿勢を見せて、前半は1−1で終了する。

 後半に入ってからは、両者共に拮抗する時間帯が続く。群馬の久藤清一監督は、62分から76分にかけて5枚の交代カードを矢継ぎ早に切っていった。理由は「90分間で勝負を決めたかったから」。これとは対照的に、大分の片野坂知宏監督が最初のカードを切ったのは77分。こちらは「スタメンをなるべく持続させたい」という意図があったのだろう。飲水タイムを利用して、最終ラインとボランチの選手を入れ替えたり、あるいは中盤の並びに変化を加えたり、さまざまな微調整をしながら急造チームの最適化を図っていた。

 結局、試合は90分で決着がつかず延長戦へ。すると96分、大分は小出悠太の右からの低いクロスに小林成豪がワンタッチで押し込み、ようやく逆転に成功する(ちなみに、小出も小林も途中出場)。これで逃げ切れると踏んだのか、片野坂監督は手元に残っていたカードを惜しみなく放出。そして群馬の猛追を巧みにかわして2−1で勝利する。この日、ベンチ入りした18人の平均年齢は23.1歳。残留争いという重要なミッションを抱えながら、カップ戦を若い力で乗り切る。大分にとっては、極めて意義深い勝利だった。

小林成豪のゴールでベスト8進出を果たした大分。今後は1つ勝ち進むごとに、クラブの新たな歴史を塗り替える。
小林成豪のゴールでベスト8進出を果たした大分。今後は1つ勝ち進むごとに、クラブの新たな歴史を塗り替える。

■J1だらけとなった天皇杯での「楽しみなチーム」とは?

 敗れた群馬、勝った大分。カップ戦ゆえの明暗は当然として、この試合を「無事に終えられたこと」に関しては、共に勝者であったと言えるのではないか──。試合後の両監督のコメントを聞きながら、そんなことを考えていた。まずは群馬の久藤監督から。

「この試合に関しては(選手)みんながすごくアグレッシブに頑張ってくれました。勝ちたいというより、勝たせてあげたかったですね。(月曜までトレーニングはできなかったが)だからこそ選手には頭が下がります。すごく頑張ってくれたけれど、最後の質の部分で相手との差があった。これからも、その質の部分を上げていくしかないですね」

 大分の片野坂監督は、まず「群馬県でも緊急事態宣言となる中、大分からサポーターが駆けつけてくれたおかげで、勝利をお見せすることができました」と、少しほっとした表情。その上で、残留争いの中で天皇杯を戦う意義について、こう述べている。

「4回戦で初めてJクラブとの対戦となったこともあって、今日は相手にボールを持たれたり、危ない場面を作られたりしていました。リーグ戦との兼ね合いの中、ターンオーバーをしながら勝ち上がることができたのは、チームにとってもプラスになると思います。この大会で優勝すれば、ACLの出場権も得られるわけですから、少しでも高みを目指して、チーム全員で準備していきたいと思います」

 かくして、準々決勝進出を果たした大分。他会場では、ヴェルスパに延長戦で競り勝った磐田の他に、川崎フロンターレ、セレッソ大阪、鹿島アントラーズ、浦和レッズ、そして名古屋グランパスが、ベスト8に名を連ねた。唯一、試合がなかったガンバ大阪と湘南ベルマーレ(9月22日に対戦)を含めて、今大会はJ1勢の本気度がひしひしと感じられる。

 最後に余談を。ここまで勝ち残った9クラブのうち、天皇杯を制した経験がないのは、実は大分のみ。これまでの最高がベスト8なので、今後は1つ勝ち進むごとに、クラブの新たな歴史を塗り替えることとなる。3回戦以降、ジャイアントキリングが見られないことを少し残念に感じていたが、ここに来て「楽しみなチーム」が見つかった。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>