天皇杯「Jクラブ撃破」に挑む県1部クラブ【2回戦】清水エスパルス(J1)vs福山シティFC(広島県)

前回大会で初出場ながら「ベスト6」となった福山。田口駿は最多得点(4点)を記録。

■カテゴリーは5つ上でも「胸を借りる」意識がない福山

 5月22日から始まった、天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)。6月9日と16日に組まれた2回戦のうち、9日は26試合が各地で開催された。

 今大会は出場チームの増加により、1回戦から4つのJ2クラブが出場しているが、2回戦では都道府県代表とJクラブとの激突が本格化する。まず目を引くのが、PK戦の末にブラウブリッツ秋田を破り、ヤマハスタジアムでジュビロ磐田に挑む北海道十勝スカイアース。しかし今回は、同じ静岡県のIAIスタジアム(アイスタ)で行われる、清水エスパルスvs福山シティFCを選択した。

 J1の清水に対し、福山は広島県1部所属。カテゴリー差は5ある。まさに、天皇杯ならではの顔合わせである。加えて福山は、前回大会は初出場ながら準々決勝に進出。この年、J3を無敗優勝したブラウブリッツ秋田に1−3で敗れたものの、堂々たる戦いを見せて大いに注目を集めた。コロナ禍の影響により、準々決勝までJクラブとの対戦がなかったとはいえ、県1部のクラブが「ベスト6」まで勝ち上がったことは、大会史に残る快挙と言えよう。

 迎えるJ1の清水は、現在15位。3日前のルヴァンカップのプレーオフでは、鹿島アントラーズに敗れて準々決勝進出を逃している。そんな中で迎える、今年の天皇杯。カテゴリーでは明らかに下とはいえ、福山はいささか「やりにくい相手」と言えそうだ。なぜなら福山は、今季の目標として中国社会人リーグへの昇格と全社(全国社会人サッカー選手権大会)優勝、そして「天皇杯でのJクラブ撃破」を掲げているからだ。いくらJ1クラブと対戦するといっても、彼らに「胸を借りる」という意識はさらさらない。

 ここで思い出すのが、2017年の天皇杯。この年の3回戦、同じアイスタで清水は、当時福島県1部だった、いわきFCを迎えている。いわきは2回戦で、延長戦の末に北海道コンサドーレ札幌を5−2で撃破しており、5つ上のカテゴリー相手にセンセーショナルな大番狂わせを演じていた。この時も「やりにくい相手」であったものの、結果は2−0の順当勝ち。3年前と同様、今回も清水はJ1クラブの面目を保つことができるだろうか。注目の一戦は、19時にキックオフを迎えた。

0−0で迎えた90+2分に決勝ゴールを決められて敗戦。福山の小谷野監督はピッチを叩いて悔しがった。
0−0で迎えた90+2分に決勝ゴールを決められて敗戦。福山の小谷野監督はピッチを叩いて悔しがった。

■県1部のアマチュアに「ガチ」なメンバーで迎え撃つ清水

 この日の清水のスターティングイレブンは、天皇杯の2回戦にしてはかなり「ガチ」なメンバーだった。ここまで清水は、リーグ戦を17試合戦っているが、フィールドプレーヤー全員が9試合以上に出場。4月11日のヴィッセル神戸戦で右足を負傷し、全治8週間と診断されていた原輝綺も、久々にピッチに戻ってきた。対する福山は、スタメン11人中7人が、昨年の秋田戦にスタメン出場。この試合でゴールを決めた吉井佑将、そして前回大会で最多得点(4点)を記録した田口駿の名前も見える。

 23歳の若き指導者、福山の小谷野拓夢監督が標榜するのが「攻守において主導権を握るサッカー」である。GKを含めた守備陣が自陣深くから正確なパスワークでビルドアップし、空いたスペースを生かしながらボールをつなぎ、そしてフィニッシュするというスタイル。さほどの目新しさは感じられないが、これをJ1から数えて6部のアマチュアが実践していること、そしてJ1クラブに対しても臆することなく展開していることに、新鮮な感動と驚きを覚える。

 一方、清水を率いるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、当然ながら相手のやり方をリサーチ済みだった。これだけ戦力に差があれば、福山がボールを回せるのは基本的に自陣限定。前線から圧力をかけ続ければ、いつかは相手のパスワークにほころびが生じ、そこからチャンスを見出すことができるだろう。加えてセットプレーでも、清水は有利と思われた。福山の4バックの平均身長は177センチ。GKの児玉潤も175センチである。前半の清水は、7本のCKと5本の直接FKを獲得。しかし、いずれもゴールに結びつけることはできなかった。

 0−0のまま迎えた後半、清水はさらに攻撃の圧を強めていく。それでも福山は、何とか持ちこたえ続けた。失点につながりそうなミスは1つだけ。得点チャンスも限られていたが、縦方向のロングパスから、後半だけで4本のシュートを放っている。しかし終了間際、ついに清水が福山のゴールをこじ開ける。途中出場の滝裕太がドリブルで持ち込み、パスを受けたチアゴ・サンタナがシュート。いったんはGK児玉がセーブするも、こぼれ球を原が右足で押し込んでネットを揺らす。時間は90+2分だった。

前回大会に続いて、またしてもJクラブ撃破とはならなかった福山。試合後は清水のファンからも拍手が贈られた。
前回大会に続いて、またしてもJクラブ撃破とはならなかった福山。試合後は清水のファンからも拍手が贈られた。

■本気で「Jクラブ撃破」を目指してきたからこその悔しさ

 結局、そのまま1−0で清水が勝利。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、福山の小谷野監督がピッチを思い切り叩いて悔しがっていた。ピッチ上の選手たちも同様で、倒れ込む者、がっくり肩を落とす者、それぞれに深い落胆が感じられる。天皇杯に出場する都道府県代表の多くが「Jクラブへの挑戦権を得る」ことを目的とする中、福山は本気で「Jクラブ撃破」を目指してきた。だからこその悔しさと落胆であった。試合後の小谷野監督のコメントは、以下のとおり。

「今日の清水のスタメンは予想外でした。もう少し、出場機会のない選手を起用してくると思っていましたので。(自陣)ゴール前での圧力も、こちらの想像以上でした。その意味で、前半を0−0で終えたのは、ちょっと出来すぎだったと思います。相手との力の差をどう埋めていくか、あらゆる手を尽くしてきただけに、この敗戦は本当に悔しいです。それでも、相手のやりたいことをさせずに、思い通りのでゲームはできたと思います」

 緻密なスカウティングと分析で知られる小谷野監督だが、今回は相手のスタメンに面食らったようだ。この点についてロティーナ監督は「日曜日にゲームあったら、ローテーションしていたかもしれない」とコメント。ではなぜ、いつものメンバーで苦戦を強いられたのか。こちらについては「危険な状況を作られることはなかったが、相手からボールを奪うことが難しく、シュートもなかなか枠に飛ばなかった」。その上で「今日は他会場でもサプライズが起こっている。難しい試合に勝利して満足している」と結んだ。

 ロティーナ監督の言葉どおり、この日は千葉県代表の順天堂大学がFC東京に2−1で勝利、静岡県代表のHonda FCも横浜F・マリノスにPK戦の末に競り勝っている。また敗れはしたものの、宮崎県代表のホンダロックSCは大分トリニータに、長野県代表のAC長野パルセイロは前回大会優勝の川崎フロンターレに、それぞれ接戦を演じて会場を大いに沸かせた。そんな中、90分で決着がついた清水と福山の試合は、いささか地味に感じられるかもしれない。

 少なくとも福山の小谷野監督にとり、この日は昨年の秋田戦と並んで、生涯忘れられないゲームとなるだろう。なぜなら、彼が17歳でプロの指導者を明確に目指す契機となったのが、高校時代のスペイン合宿だったからだ。それから6年後、スペイン人の名将が率いるJ1クラブと伝統あるカップ戦で戦い、しかも堂々と渡り合った──。天皇杯とは夢のある大会だと、あらためて思う。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>