■史上最多90チームが参加する101回目の天皇杯

「新時代」──これが、天皇杯 JFA全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の今年のテーマである。今大会は第101回、主催するJFAは1921年の設立から100周年を迎える。前回の第100回大会は、コロナ禍という未曾有の危機に直面する中、1回戦から5回戦までを47都道府県代表+アマチュアシードで開催。これまでにない変則的なフォーマットを強いられたが、無事にすべての試合を終えることができた。前回大会には出場できなかったJクラブも、その多くが伝統のトーナメントに復帰する。

 今大会は、過去最多となる90チームが参加。これは昨シーズンのJリーグが降格なしとなり、J1・J2クラブが42チームとなったためである。2019年大会までは88チームで行われ、1回戦は47都道府県代表+1チームで行われていたが、今大会はJ2から4チームが1回戦から出場。すなわち、J3から昇格したブラウブリッツ秋田とSC相模原、そして昨年21位の愛媛FCと22位のレノファ山口である(この結果、愛媛は同県のJクラブであるFC今治をホームに迎えることとなった)。

 さて、今年の1回戦は、どのカードを取材しようか。公式戦では初となる、愛媛と今治のダービーは確かに面白そうだが、東京から遠征するにはちょっと遠すぎる。近場の会場を探してみたところ、私の中でヒットしたのがレモンガススタジアム平塚で開催される、SC相模原vs駒澤大学。J2クラブと東京都代表の対戦である。注目すべきは、両者の出場回数。駒澤大が14回目であるのに対し、相模原は過去の出場実績がゼロ。つまり今大会が初出場なのである。これはJリーグファンの間でも、意外と知られていないのではないか。

 Jクラブの場合、前身の企業チームが大会の常連だったり、あるいは地域リーグ時代に県予選で無類の強さを誇ったりすることで、出場回数を重ねることが多い。相模原の場合、前身のチームを持たない形で2008年に創設され、神奈川県3部リーグからステップアップしていった。この間、天皇杯の本大会出場を目指して県予選にチャレンジしてきたが、一度として本大会出場を果たしていない。過去の記録を読み返すと、神奈川県代表はY.S.C.C.か桐蔭横浜大学がほぼ独占しており、相模原はこの2強の牙城を崩すことができなかったのである。

前半終了間際に駒澤大に追いつかれた相模原は、53分にユーリのゴールで勝ち越しに成功。プロの違いを見せつけた。
前半終了間際に駒澤大に追いつかれた相模原は、53分にユーリのゴールで勝ち越しに成功。プロの違いを見せつけた。

■過去にジャイアントキリングの実績がある駒澤大

 かくして57あるJクラブの中で、唯一の天皇杯未経験のまま、今大会は予選免除で初出場を果たした相模原。一方の駒澤大は過去13回の天皇杯で、何度か番狂わせを演じている。1980年大会では1回戦で日産自動車(現・横浜F・マリノス)に、97年大会では2回戦で大塚FC(現:徳島ヴォルティス)に勝利。プロ対大学という意味では、相模原が格上ということになるが、大会の経験値では駒澤大にアドバンテージがある。この1回戦の中でも、とりわけ興味深い顔合わせとなった。

 キックオフは5月22日の13時。前節から1週間のインターバルがあった相模原は、5日後の次節のことも考慮してスタメンを7人入れ替え、41歳のベテラン稲本潤一が2カ月ぶりにスタメン出場した。対する駒澤大といえば、巻誠一郎や赤嶺真吾、そして高崎寛之など、ポストプレーを得意とする大型FWを輩出してきたことで知られる。この日も10番の土信田悠生、15番の米谷拓海という180センチ台のFWを前線に並べ、前線に放り込んでチャンスを作る戦術が予想された。

 試合が動いたのは、開始早々の5分。左サイドからのユーリのキックに、安藤翼が頭で反応し、逆サイドに流れたボールを和田昌士がボールコントロールを挟んで右足でネットを揺らす。三浦文丈監督によれば、早い時間帯でのゴールは「最近のウチでは、なかなかなかった」。これで心理的に優位に立った相模原は、その後も冷静に試合をコントロールする。しかし前半アディショナルタイム、駒澤大は岩本蓮太の右からのロングスローを起点に、DFの會澤海斗が頭で押し込んで同点とする。前半は1-1で終了した。

 エンドが替わった後半、勢いに乗る駒澤大に対し、相模原は冷静さを失ってはいなかった。53分、右サイドから持ち上がった和田がクロスを供給。これを窪田良が折り返し、競り合いからこぼれたボールをユーリがワンタッチでゴールに突き刺す。見事な勝ち越し弾であったが、相模原の選手は実に淡々としていた。その後も駒澤大は、ツートップからのセカンドボールに活路を求めるが、相模原は3バックとアンカーがきっちり対応。終了間際には、途中出場の中山雄希がダメ押しの3点目を挙げ、初出場の相模原が3-1で快勝した。

試合後のフラッシュインタビューを受ける相模原の三浦文丈監督。「われわれ初出場ですから」というコメントが印象的。
試合後のフラッシュインタビューを受ける相模原の三浦文丈監督。「われわれ初出場ですから」というコメントが印象的。

■1回戦はコロナ禍による延期や無観客試合も

「力負けでしたね。もう少しいい試合ができたらと思ったんですが、こちらの思ったようプレーをさせてもらえなかったし、それこそがプロの力だったのかなと。選手もいろいろ肌で感じてくれたと思うので、次に活かしてくれればと思います」

 駒澤大の秋田浩一監督、試合後のコメントである。これまで何人もの卒業生をJリーグに送り出してきた名伯楽は、実にさばさばとした表情。ちなみに、相模原の先制点に絡んだ安藤は、教え子のひとりだ。一方、相模原の三浦監督は「われわれは初出場ですから、足先だけでなく気持ちのこもったプレーを選手に求めていました」とコメント。そして対戦相手の駒澤大について、このように言葉を継いだ。

「初戦の相手は大学生ということですが、われわれも県予選では何度も大学生パワーにやられてきた経験がありました。ですから内容よりも、勝って次に進むことが重要だと思っていました。駒澤大が前線の2トップに(ロングボールを)入れてくるのはわかっていたので、最終ライン3枚と中盤の3枚で弾き返したり、カバーしたりすることを徹底させました。イナ(稲本)については、こちらが思い描くプレーとコーチングをしてくれたと思います」

 2回戦に進んだ相模原は、6月9日にミクニワールドスタジアム北九州にて、J2のギラヴァンツ北九州と対戦する。北九州は現在リーグ戦では最下位。相模原も降格圏内の20位である。注目度が低い天皇杯での初戦となれば、言葉には出さずとも「リーグ戦を優先」と考えてしまうのがJクラブの常。相模原がそうならなかったのは、クラブ史に残る「天皇杯初出場」の初戦だったことが大きかったのだろう。試合そのものは順当すぎる結果であったが、それでも良いものを見せてもらったと思う。

 この日は1回戦26試合のうち11試合が行われ、レノファ山口FCがアマチュアシードのヴェルスパ大分に、そしFC岐阜が静岡県代表のHonda FCに敗れた以外は、いずれもJクラブが勝利。だがtonan前橋と順天堂大学の試合は、後者の関係者1名からコロナの陽性反応が出たため延期となっている。また、政府の緊急事態宣言や自治体の判断などを受けて、8試合が無観客で行われることとなった。「新時代」の天皇杯は、当初の日程どおりに開幕したが、無事に元日の国立競技場で決勝が迎えられることを、心から願う次第だ。

<この稿、了。写真はいずれも著者撮影>