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コロナ明けに向かう映画市場の構造の今~コロナリサーチデータから~

梅津文GEM Partners株式会社 代表取締役/CEO
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

10月1日に全国の緊急事態宣言が解除されて以降、新規感染者数も減少して社会全体で、経済活動再開ムードとなるなか、映画興行復調の期待も高まります。復興していくうえのカギは鑑賞者の変化にあります。そこで、10月23日~25日に弊社が実施したコロナ禍を受けた市場調査結果をもとに棚卸しました。(該当調査レポートはこちら

市場の構造:「現鑑賞層」と同程度の「離脱層」が存在

全国に住む15歳から69歳のうち、直近1年間に映画館で映画を見ている「現鑑賞層」は22%。一方、コロナ以前の2019年は映画館に来ていましたが、コロナ以降ないし直近1年間来ていない「離脱層」は約22%います。

「現鑑賞層」のうち、「継続層」(コロナ前から継続して映画館で鑑賞あり)が16.7%と大半で、それ以外の「復帰層」(コロナ初期に離脱したものの、1年以内に映画館で鑑賞あり)と「覚醒層」(コロナ前の2019年は鑑賞がなかったがコロナ後に映画館で鑑賞あり)は、それぞれ2.5%、2.8%と少数です。

今、映画館に来てない「離脱層」の大半は、「コロナ離脱層」(コロナ前に鑑賞はあったが、コロナ後に鑑賞なし)の19.6%で、この層の復帰がカギとなります。

性別年代別では、男女ともに10代、20代で「継続層」の割合が大きく、50代、60代で「離脱層」の割合が高く、若い人ほど、コロナ禍でも映画館に来場し続けています。

「離脱者」が映画館に来なくなった理由、「現鑑賞層」の鑑賞本数が減っている理由

「ご無沙汰層」「コロナ離脱層」のいずれも、いま映画館に来ていない理由として、「新型コロナウイルスの感染が心配だから」が最も高い割合で挙げられていますが、ほかに、「自分が観たい作品がないから」「外出する機会が減ったから」などが共通して高い割合となっています。コロナ以降、映画館に来なくなったコロナ離脱層においては、動画配信サービスを利用して家で見ればよい、ほかの趣味や関心事がある、映画館での鑑賞習慣がなくなったことを挙げる割合も高くなっています。

一方、1年以内に映画館に来ている層も、コロナ以降は鑑賞本数が減少しています。継続層は32%、復帰層では43%は鑑賞本数が減っています。映画館に来ているが減っている理由として高い割合を占めているのは、継続層、復帰層ともに、離脱層と同様「新型コロナウイルスの感染が心配だから」でした。そのほかも同様に、見たい作品がない、外出機会の減少などが挙げられています。

一方で、動画配信サービスを使って家で見ればよい、ほかの趣味や習慣がなくなったことを挙げる割合は離脱層よりは低い傾向にあります。これを踏まえると、「コロナの終息」と「見たい作品の提供」によって離脱層に復帰してもらうより、継続層、復帰層の鑑賞本数を増やす余地のほうが大きいと考えられます。

「現鑑賞層」が映画館に来ている理由は「作品」、「覚醒層」では「誘われて」という割合も高い

では、いま映画館に来ている人(「現鑑賞層」)は、なぜ映画館に来るようになったのでしょうか。ここで最も高い割合を占めたのは、映画館に来なくなった/行く機会が減った理由として挙げられていた新型コロナウイルス感染のリスク減少ではなく、まずは「自分が観たい作品があったから」でした。コロナ後はしばらく映画館に来なかった復帰層では、新規感染者数の減少という理由も高く、状況変化が後押しになっていると分かります。

コロナ前は来てなかったがコロナ後に来るようになった覚醒層は、「人から誘われたから」「家族の付き添いで」などといった受動的な理由が相対的に高くなっています。ここから、話題作をともに楽しもうというきっかけで、映画鑑賞人口が広がることもうかがえます。

どうなったら映画館に行くか?

ご無沙汰層、コロナ離脱層、非鑑賞層といった映画館に来ていない人には、何が後押しになるのでしょうか。新規感染者が出なくなるや、ワクチンの浸透など、コロナの終息も高くあげられていますが、それと同程度に「自分が観たい作品があったら」が挙げられています。

「生活・環境 その他」の項目をみると、金銭的・時間的余裕に次いで、「人から誘われたら」が高い割合になっています。この要素は年代で大きな差があり、10代、20代では高く、年齢層が上がると低くなっています。若者は「周囲とのコミュニケーション・グループ行動」が、より映画鑑賞のきっかけにつながることがうかがえます。

展望:バラエティに富む話題作の継続的な提供 

こうしてみると、現鑑賞層、離脱層が、映画館に行く、やめる、あるいは本数を減らした要因は、「コロナ禍の拡大・終息」「見たい作品の有無」が高い割合で挙げられていますが、外出機会や映画鑑賞の習慣、動画配信視聴など、「生活・環境の変化」なども広く挙げられていました。

コロナ禍もいつかは終わります。人々の足が遠のいた大きな理由は一つなくなりますが、今後ますますカギになるのは「見たい作品」です。

見たい作品は人によってさまざまであり、どんなに大きくても、一つの作品のヒット、一つのジャンルの成長だけでは復興は難しい。「アニメ」「邦画」あるいは「洋画」、それぞれはどんなに拡大しても、単独では市場の100%にはなりません。

そして、作品のなかでも「話題作」が重要でしょう。それまで映画館に来ていなかった人が、来るようになったきっかけとして、「生活・環境 その他」項目の「人から誘われた」ことを挙げる人も多く、特に若年層でその割合が高いことが分かりました。さらには、メディア接触行動が変化するなか、「見たい」ものも、その話題の形成のされ方も変化が起こっていると考えられます。

また、2年近く続くコロナ禍で変化した「消費者の生活・環境」は元には戻らないでしょう。今後は「新たな変化」も含めて、変化は続きます。「見たい」話題作が幅広いジャンルで継続的に供給されて、映画鑑賞者全体の生活・環境の変化が促される。数カ月、年単位で起こる変化のために継続に取り組む必要があります。

こうしたことを踏まえて、作品、会社、業界の垣根を越えて、柔軟にそして大胆に取り組んでいくことが復興において重要と考えます。

「新型コロナウイルスの影響トラッキング調査 第12回」 調査概要

【調査方法】インターネットアンケート

【調査対象】全国に住む15-69歳の男女(年間0本鑑賞者も含む)

【調査実施日】2021年10月23日~25日

【回収サンプル】第12回:スクリーニング調査(4,059サンプル)/本調査(990サンプル)

【数値重みづけ】総務省発表の人口統計、弊社実施調査を参考に回答者を性年代・映画鑑賞頻度別に重みづけ

GEM Partners株式会社 代表取締役/CEO

1997年東大法学部卒業後、警察庁入庁。NYUロースクールで法学修士を取得した後、マッキンゼーのコンサルタントに転身。2008年映画好きが高じて飛び込んだ映画業界でデータ分析・マーケティングサービスを提供するGEM Partnersを設立。ミッションは、映画・映像ビジネスに関わるすべてのデータを統合・分析し、出合うべき映画のすべてに、人々が出合える世界をつくること。人生を変えた映画は、『嫌われ松子の一生』。

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