2020年総興行収入は前年比マイナス45%の1400億円台に

映画製作者連盟の発表によると、2020年の年間総興行収入は前年比マイナス45%の1433億円だった。コロナ禍から映画館が営業自粛を余儀なくされ、多くの作品、特に洋画大作が公開延期される一方、人々の自粛意識の高まりから客足も鈍くなりがちだった。

状況は世界各国と比べると「まし」ではある。例えば、アメリカは前年比マイナス80%であり、グローバル全体でも70%減。多くの国や地域で映画館の営業縮小・休業期間がより長期になったこと、世界各国で大きな興行成績を残すハリウッドメジャースタジオの大作の公開延期が相次いだことが大きい。

日本が比較的盛り返すことができたのは、自国製作の映画の動員力による。日本でもハリウッドメジャースタジオの作品の延期は相次ぎ、2020年の洋画で興行収入が10億円を超えた作品はたった4作品になるなど外国映画の興行収入は大きく落ち込んだ。一方、邦画に目を向けると、この時期に歴代興行収入を更新した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』をはじめ、2020年も民放製作の映画やアニメの劇場版が数多くヒットした。

興行収入以外の市場の構造変化 映画参加率の減少

市場全体の映画参加率

続いて消費者調査をもとに2020年の市場の構造変化を振り返ってみる。

年間1本以上映画館で映画を見る「映画参加率」も減少している。

性年代別の映画参加率の傾向

コロナ禍で映画館からいち早く急激に足が遠のいたのはだれか。実は若者である。しかし夏ごろから若者の参加率の減少に歯止めがかかった。一貫して足が遠のいているのは年代層の高い層、シニア層である。

映画ファンの減少を留めたものは

通常市場の半分を占める洋画の大作映画の公開は取りやめになったのではない。延期になったのだ。まだまだ見通しは立ちにくいがいつかは見られる。それであれば、せめて洋画ジャンルの映画を映画館以外で見ていれば、公開となったときには好きな映画を一番よい環境である映画館で見ようと思うのがファンの心理だと思う。だから、せめていまは別の場所でも見ていれば次につながるのではないか。

この問題意識を基に「映画館と映画館以外で映画を見る人の割合」の変化を見てみると、一貫して映画館で映画を見る人が減少する中、VODで映画を見る人の増加が全体として「何らかの形で映画を見る映画ユーザー」の数を下支えし、「どこでも映画を見ない」人の増加を食い止めていることがうかがえる。

詳しく見ると、この図でまず緑の点線矢印(⓪)のとおり映画館で映画を見る「映画館・映画ユーザー」は緊急事態宣言が発令された春以降ほぼ一貫して下がっている(秋に微増しているのは『劇場版「鬼滅の刃」』の公開時期である)。一方、これと入れ替わるように、VODで映画を見る「VOD映画ユーザー」が増加(①)し、結果、全体でも何らかの方法で映画を見る「映画ユーザー」が増加(②)し、いずれの方法でも映画を見ない「非映画ユーザー」は減少(③)した。

ところが夏以降自粛が緩和されて在宅率が下がると「VOD映画ユーザー」が微減を始める(④)。ここで「映画館・映画ユーザー」がほとんど増加に転じない中(『鬼滅の刃』でも大きく増加はしなかった)、全体としても「映画ユーザー」は減少(⑤)、「非映画ユーザー」は増加(⑥)。冬になり、「VOD映画ユーザー」が再び増加し(⑦)、「映画ユーザー」が増加(⑧)、「非映画ユーザー」は減少している(⑨)。

映画興行と動画配信の相乗効果

映画を見る習慣が止まるとまた再開するにはパワーがいる。さらには年が明けて緊急事態宣言発令や感染者数の増加傾向などを受けて再び客足は鈍り、作品の公開延期発表もなされた。ハリウッドメジャースタジオによる大作公開は4月29日の『ブラック・ウィドウ』を待たねばならない。

この中でむしろポジティブなニュースは、先述の通り動画配信で映画を見る人が増加していることだと考える。「コロナ禍で映画を映画館ではなく動画配信で見るようなってしまった」ことが怖いのではない。映画業界(あるいはまた、映画興行の平常化を望む映画ファンたちも)が一番恐れるべきは、「いかなる方法でも映画を見なくなること」だ。先述の通り、映画館での映画参加率の減少は一貫しているが、「動画配信で映画を見る人」の数が増えて、全体として「何らかの方法で映画を見る人」の数が下げ止まりしていた。

そもそもどちらかの盛り上がりは相互の盛り上がりにつながる。例えば2020年3月から6月の間に動画配信サービスでみられたコンテンツの中で圧倒的に1位だったのは「鬼滅の刃」シリーズであったが(参照:GEM Standard「『鬼滅の刃』『愛の不時着』と「Amazonプライム・ビデオ」がステイホーム下の動画配信人気をけん引」)、多くの人が動画配信サービスで「鬼滅の刃」のアニメシリーズを鑑賞したことが劇場版メガヒットの要因の一つであろう。そして劇場版の大ヒットがメディアで取り上げられ、アニメシリーズの注目度はさらに高まった。映画がない時期も、何らかの形で、映画ファンが物語の世界観、キャラクターに触れていることが重要だ(参照:GEM Standard「映画館の今後の再活性化につながる「鬼滅の刃」の物語体験と感動の記憶」)。