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NHK大河候補 大友宗麟の菩提寺が「仏教界のDX」モデルに

鵜飼秀徳ジャーナリスト、正覚寺住職、(一社)良いお寺研究会代表理事
大徳寺瑞峯院の「独坐庭」(写真:ogurisu/イメージマート)

 お寺の参拝形式が、この一年で劇的に変化してきている。オンラインによる参拝である。

 背景にはコロナ感染症の感染拡大がある。今年の初詣ででは、一部の寺院でオンライン参拝を取り入れた。築地本願寺(東京都中央区)や平等寺(徳島県阿南市)などのほか、神社では伏見稲荷大社(京都市伏見区)など。大勢の人がパソコン画面を通じて参拝した。

 さらにはオンラインでおみくじが引けたり、キャッシュレスで賽銭ができたりする寺も出現している。コロナ禍を契機にして、仏教界のDX(デジタルトランスフォーメーション)が一気に加速しているようだ。

 オンライン参拝は「移動の自粛」「三密の回避」などの対応策として、「苦肉の策」として始められた。今のところ、デメリットとメリットの両方が指摘されている。

 オンラインでは、リアルな参拝はできないので、拝観料が徴収できない。「オンラインでも十分」ということになれば、リアルの参詣者が減るかもしれない。

 一方で、オンラインならば、日本国内のみならず、世界各地からいつでも日本の寺院へアクセスが可能になる。インバウンドが来日できない状況が続くが、今この時点で寺の魅力を発信しておけば、「コロナ終息後には、実際に行ってみたい」というようなことも、期待できそうだ。

 今のところ、オンライン参拝を実施している寺の多くは、YouTubeなどでのライブ配信が中心だ。

 オンライン参拝をより積極的に取り入れているのが、東大寺(奈良市)だ。東大寺では3Dヴァーチャル(VR)での参拝が可能だ。カーソルを合わせれば、広大な境内を縦横無尽に歩ける。時にはシカに出会えることも。デジタルマップのストリートビューに似ている。「夜の境内散歩」もできるのが面白い。

 だが、さらに革新的なオンライン参拝を可能にした京都の名刹がある。大徳寺塔頭(たっちゅう=大寺院に付属する寺院)、瑞峯院(京都市北区)だ。瑞峯院でのオンライン参拝は、動画などを盛り込んだ3DのVRと、デジタルアート展覧会を組み合わせたハイブリッド型である。

 瑞峯院は、戦国大名の大友宗麟が自身の菩提寺として開いた寺として知られる。余談だが、大友宗麟はNHK大河ドラマへの誘致が大分県などによって熱心に行われており、将来的に脚光を浴びる可能性を秘めている人物だ。

 宗麟は後に洗礼を受けて、キリシタン大名になった。それにちなみ、瑞峯院には7つの石を十字架の形に組んだ「閑眠庭」がある。仏教寺院の庭に十字架がデザインされているのは、驚きだ。

閑眠庭。7つの石が十字架の形に組まれている(筆者撮影)
閑眠庭。7つの石が十字架の形に組まれている(筆者撮影)

 宗麟は死後、キリスト教式と仏式で葬式がなされ、瑞峯院にも分祀されている。また、作庭家重森三玲が手掛けた「独坐庭」や、国の重要文化財に指定されている本堂や唐門など、見どころが満載だ。

 瑞峯院は戦国時代の「生き証人」であるが、そんな歴史の舞台を使ってデジタルアート展が実現したのだ。

 瑞峯院にはコロナ禍前、大勢のインバウンドが訪れていた。しかし、この一年で激減。そんな中、企画が持ち上がった。瑞峯院の名庭や仏堂の空間を使って、ヴァーチャルで現代アートを展示するという内容だ。

 その技術は、文化財の高精細VR保存で最先端をいく大手印刷会社、凸版印刷が提供する。昨年秋から今月末まで、瑞峯院のVRアート展が公開され、好評を博している。

 「百聞は一見にしかず」なので、こちらからオンライン参拝を楽しんでもらいたい。

(可能性アートプロジェクト展)

https://www.kanoseiartproject-vr.com/

 重要文化財の山門をくぐり、境内に入る。玄関では瑞峯院住職が、動画で出迎えてくれる。「閑眠庭」や「独坐庭」などに大胆に現代アートが浮かび、作品をクリックすればその説明が出現する。

大徳寺瑞峯院「独坐庭」に浮かぶアート(凸版印刷提供)
大徳寺瑞峯院「独坐庭」に浮かぶアート(凸版印刷提供)

VR上でアートの購入が可能(凸版印刷提供)
VR上でアートの購入が可能(凸版印刷提供)

 通常、重要文化財の空間でデジタルアート展示は不可能。しかし、そんな歴史的空間でも遊び心をもって、アートが展示できるのもVRだからこそ。

「可能性アートプロジェクト展」と題されたこの名刹を使った美術展は、そのコンセプトにおいてもあまり前例がない。展示されている作品は、障がいを持つアーティストによる。原色をふんだんに使って描く幾何学模様の作品などは、VR展示にうまく融合している。

ヴァーチャル展示上からはプリマグラフィー作品を購入することができ、その収益は障がいを持つアーティストの収入になる。

 凸版印刷も技術を提供するだけではない。アートプロジェクトを通じて、社員の人財育成につなげている。

 「特に新入社員に、すべての人が『無限の可能性や才能』を持っていることを伝え、仕事のモチベーションを向上させたい」(同社、人財開発センター巽庸一朗センター長)。

 瑞峯院にもメリットはある。仏教は「一隅を照らす」役割をもっている。つまり、社会的弱者(障がい者)に光を当てる活動に寄与しながら、コロナ後の観光需要回復を見据えて寺のPRができる。お寺のDXを通じ、「三方よし」の構造を作り上げている、といえる。

 コロナ禍を契機にして、最新技術を取り入れてどんどん進化していく寺院。仏教界がDXの先駆者として、デジタルを使った「共生のシステム」や「持続可能な社会」を実現していければ、こんなに素晴らしいことはないだろう。

瑞峯院の襖絵ともコラボ(凸版印刷提供)
瑞峯院の襖絵ともコラボ(凸版印刷提供)

ジャーナリスト、正覚寺住職、(一社)良いお寺研究会代表理事

京都市生まれ。新聞・経済誌記者などを経て、2018年に独立。正覚寺(京都市右京区)第33世住職。ジャーナリスト兼僧侶の立場で「宗教と社会」をテーマに取材、執筆、講演などを続ける。近年は企業と協働し「寺院再生を通じた地方創生」にも携わっている。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)など多数。最新刊に『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)。一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事、大正大学招聘教授、東京農業大学・佛教大学非常勤講師など。

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