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資格1年目のオルティスが殿堂入りし最終年のボンズが落選した理由

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:ロイター/アフロ)

 すげえな。嬉しいニュースに思わず胸が熱くなった。

 米国野球殿堂は25日、2022年の殿堂入りメンバーを発表し、レッドソックス時代のチームメートだったデービッド・オルティス氏が選ばれた。心から嬉しかったので早速、祝福のダイレクトメッセージを送った。

 報道によると、全米野球記者協会に10年以上在籍する記者による投票で得票率75%以上が必要になるそうだ。守備に就かない主に指名打者(DH)だったこともあってか、有資格1年目での選出は驚きを持って伝えられているが、私はすごいと思ったけれど、驚きはなかった。理由は数字が物語っている。

 レッドソックスで3度のワールドシリーズ制覇に貢献。個人ではMLB歴代17位の541本塁打を放ち、1768打点の勝負強さはチームメートとして頼もしい存在だった。シルバースラッガー賞を7度受賞し、オールスターには10回選ばれている。練習中の陽気な雰囲気とは一転、打席に入ったときの集中力には目を見張るものがあった。ユニホームを脱げば、優しい性格で、優れた慈善活動を表彰する「ロベルト・クレメンテ賞」も受賞。「ビッグ・パピ」の愛称でファンから親しまれた人柄も含めて超一流だ。

 今回の殿堂入り候補では、バリー・ボンズ氏、ロジャー・クレメンス氏という投打でメジャーを代表した名選手が資格最終年で落選した。両者とオルティス氏の明暗を分けたのは、「薬物問題」と無関係ではないだろう。オルティス氏も薬物検査が厳格化される以前のドーピング検査で陽性反応だったとの報道があったが、彼自身は疑惑を全面否定している。何より、今回の投票結果が、オルティス氏の野球に向き合う姿勢を支持したと思っている。

 私がレッドソックス時代にセーブを挙げると、彼が肩で担ぎ上げてくれたことが「勝利の儀式」と呼ばれるようになった。実ははじまりは、どっちが先に相手の股間を触るかという褒められたものではない〝儀式〟だった。ある日、タフな試合で何とかセーブを挙げた私は疲れ切っていて、近寄ってきたオルティス氏にもたれかかるしかなかった。すると、彼は私を勢いよく担ぎあげてねぎらってくれた。彼のやさしさから生まれた「勝利の儀式」だったのだ。

 実は対戦成績は7打数無安打2三振。彼には打たれることなく、現役を終えた。今だから明かすと、鍵は「インハイ」にあった。インハイに投げて、外にスプリット。そんな投球パターンが、殿堂入りを果たしたスーパースターに対する私の攻略法だった。いつか、どこかのバーで飲み明かしたいと思う。Congratulations、パピ!

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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