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伝統よりも連戦対策 増田大輝の投手起用はベストな采配だった!

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 私のツイッター発言も引用され、すでにインターネット上は"大論戦"になっているようだが、改めて自分の言葉で考えを明らかにしておきたい。

 巨人の原辰徳監督の6日の阪神戦での采配について、球団OBたちが発した意見に対してだ。

 0対11と大量リードを許した8回の場面で、原監督がマウンドに送り出したのは、高校時代に投手経験もあったという内野手の増田大輝選手だった。5番手の投手が打ち込まれた直後で、報道によれば巨人で野手が登板するのは71年ぶりとのことだったそうだ。無失点で抑えたことが、まずは称えられるべきだ。

 この起用に対し、巨人の元監督でもある堀内恒夫さんや同じく巨人でヘッドコーチ経験のある伊原春樹さんが批判的なコメントをしたことに、私は首をかしげざるを得ない。

 堀内さんはブログを「これはやっちゃいけない」のタイトルで更新。「巨人軍はそんなチームじゃない。今、首位にたっているじゃないか。強いチームがそんなことやっちゃダメよ。こんなことして相手のチームはどう思うだろうか。馬鹿にされてるとは思わないだろうか」とした上で「俺はテレビを消した」と怒りをあらわにしていた。伊原さんも「伝統のある球団がそんなことをすべきでない」などと同様の批判を展開していることをインターネット上で知った。

 私からすれば、「巨人だから」とか「伝統が」などと言っているほうが時代錯誤だ。

 日刊スポーツのサイトによれば、原監督は試合後、「チームの最善策ですね。6連戦という連戦、連戦、連戦の中であそこをフォローアップする投手はいないですね。1つの作戦だからね」などと説明したそうが、采配の意図はすぐに理解できた。

 ブルペンにはもちろん中継ぎ陣が待機していた。しかし、残っていた投手は連戦続きの異例のシーズンを勝ち抜くため、勝ち試合に投げさせたい選手たちだ。あの場面で投げさせて、翌日以降に影響が出てしまうほうがリスクだ。

 後出しジャンケンをする評論家はむしろ、翌日以降の勝ち試合や緊迫した場面で中継ぎ陣の数が足りなければ「大差の試合で投げさせたから、大事な場面で使う投手がいなくなった」などと言い出しかねない。

 野球はルールの上に成り立っている。ツイッターにも記したが、内野手登録の選手が外野手を守ったら失礼になるのか?そんなことはない。投手起用も同じだ。限られたベンチ入りメンバーをどう使うかは監督の判断だ。原監督はかつて、捕手がいなくなったときに木村拓也さんを起用。高校時代は捕手でしっかりと準備をしていた木村さんは期待に応えてファンから大歓声を浴びた。

 今回も、原さんは増田選手に準備をさせていた。原監督は選手と適度な距離でコミュニケーションを図る指揮官だ。決して思いつきの采配ではなく、こういうことがあり得るということを、きちんとチーム内に浸透させた上でとった戦略だったのだ。もしも、自分があのとき、ブルペンに待機していた投手なら、11点差の場面での登板を見送った監督に対し、「大事な場面でマウンドを任されたときに期待に応えよう」とモチベーションも上がったと思う。

 球団OBに対する私の反論ツイートにダルビッシュ有投手が「やっぱりメジャー経験があって先発、中継ぎ、抑えを経験しているからこそ説得力がありますね。大敗している場面で野手が投げてくれることがどれだけ大きいかを理解している」と"援護射撃"をくれた。ダルビッシュ投手にも返したように、戦略としても作戦としてもベストな選択だった。良き伝統は残すべきだが、必要のない伝統は変革していくべきだ。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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