J2レノファ山口FCは7月17日、維新みらいふスタジアム(山口市)でブラウブリッツ秋田と対戦し、1-0で約2カ月ぶりの白星を飾った。

明治安田生命J2リーグ第23節◇レノファ山口FC 1-0 ブラウブリッツ秋田【得点者】山口=高井和馬(前半27分)【入場者数】2848人【会場】維新みらいふスタジアム

幅を使った攻撃で先手

 レノファは序盤からゲームの流れを引き寄せ、優位に試合を進めていく。際立ったのは幅を広く使った攻撃で、相手の4-4-2のフォーメーションに対し、3-4-2-1のレノファは横幅を使って相手陣地への侵入を繰り返す。特に効果的だったのは川井歩と石川啓人の両ウイングバックのポジショニングだ。攻撃を組み立てているサイドでは選手が密集するが、逆サイドのウイングバックはタッチライン際を張り、一人が逆サイドで余っている状態を作り続けた。

相手の注意がボールへと向かう中で、石川啓人が逆サイドでフリーになった
相手の注意がボールへと向かう中で、石川啓人が逆サイドでフリーになった

 これによって例えば右サイドでの構築が行き詰まると、ボランチやセンターバックを介して逆サイドへとスピーディーに展開することが可能になり、相手を揺さぶりながら間隙を突いていけるようになった。選手同士の距離感も良く、ほとんど一方的にレノファがボールを支配。GKのファインセーブに阻まれるものの、前半16分に石川が鋭くミドルシュートを放ってゴールに接近。続くコーナーキックでは渡部博文がクロスバー直撃のヘディングシュートを放った。

 同26分にはペナルティーエリアの手前でボールを動かそうとした池上丈二が倒されてフリーキックを獲得。この好機に池上が鋭く蹴り込むと、ボールは相手の手に当たってハンドの判定となり、レノファのチャンスはペナルティーキック(PK)へと拡大する。

 キッカーを託されたのはFWの高井和馬だった。しばらくゴールから遠ざかっていた高井は、PK前のざわついた雰囲気が収まるまで、ボールを頭や足を使ってリフティングして気持ちを集中。たっぷりと時間を使ってキックに臨み、GKの反対を突いてグラウンダーのシュートを右隅へと送り込んだ。

冷静にコースを狙う高井和馬
冷静にコースを狙う高井和馬

 「今まで10試合くらい(得点を)取れずチームに迷惑を掛けていた。PKだったが点を取れて気持ちとしては少し楽になった」。先制点に喜び爆発というよりも、安堵(あんど)にも似た表情を見せ、「PKを取ってくれたのも、(先制点を)守ってくれたのもチームメイトのお陰。そういうところを感謝して、また点を取れるように頑張りたい」と誓う2カ月半ぶりのゴールとなった。

 得点が入った以降もレノファがボールを握る状態が続く。幅を使ったサッカーが機能していたことに加え、秋田の球際への強さに対してレノファも負けずに対抗したことが主導権掌握につながった。それらに加え、自陣に飛ばされた五分五分のボールもマイボールにして、すぐに攻撃に転じていく状況も作り出す。

 ただ、マイボールにしながらも次のパスがつながらず、前半の終わりに掛けて、ボールを奪い返されるシーンが何度か見られるようになる。すぐに対応して大きなピンチこそ招かなかったが、追加点を奪えなかったことも相まって、少しの不安を抱えて前半の45分を戦い終えた。

「相手の土俵」での勝負も

 後半に入ってもレノファは幅を使った攻撃を継続。後半6分には左サイドに流れた神垣陸のラストパスを引き出して池上がミドルシュートを放つ。相手GK田中雄大の好セーブに阻まれるが、ゴールへの積極性を早い段階で見せつけた。

 ところが、試合のモメンタムがレノファから秋田へと移ってしまう。転機は同9分。秋田はゴールキックの流れから一息にレノファのゴールへと襲いかかり、齋藤恵太が鋭く右足を振ってゴールに迫ったのだ。GK関憲太郎の的確な判断でゴールを死守したものの、それ以降の秋田はカウンターやセットプレーなどを生かしてチャンスを広げたほか、高強度な対人ディフェンスも復活する。

 レノファから見れば、後半30分頃までは相手に押し込まれた状態になってしまう。この展開を、GK関は次のように振り返った。

 「引いて守ってしまう時間も後半は多く、相手の土俵で戦った部分があった。今まで、それでずるずると下がって失点することもあり、今日もそういう時間帯があった」

 対人のバトルで圧倒するような戦い方が秋田の土俵だとすれば、レノファはある程度は覚悟していた。渡邉晋監督は「相手の土俵でもしっかりと勝ち、我々がやろうとしているサッカーでも勝ち、それで結果を出して自分たちのこれからにつなげる」という狙いを選手に伝え、実際に前半から球際には厳しくアプローチしていた。

 とはいえ、広いフィールドの最後方にいるベテランGKが感じ取った空気感も本物だろう。特に自陣でのボールロストを繰り返すと、メンタリティーの部分で自信を持てず、心理的な重心は下がってしまう。局面では戦えているが、大局的にはネガティブな状況に陥りつつあるという表現をすると、この時間帯を形容できるかもしれない。

 挽回するのが難しい状態になっていたが、守備陣の奮闘でゴールに鍵を掛けて劣勢を耐えしのぐと、後半26分頃から段階的に前線を交代する。ボールを動かし、相手を動かして背後を狙うという状況を取り戻すべく、草野侑己、河野孝汰、橋本健人などを投入。彼らのスピードを使って秋田の堅牢なディフェンスに再び風穴を開けようと試みる。

河野孝汰(中央)や草野侑己(右)の投入で再び活性化
河野孝汰(中央)や草野侑己(右)の投入で再び活性化

 狙いは一定の成果を手にする。後半41分に草野が自陣からボールを持ち出してカウンターに転じ、石川、橋本とつないでヘナンがヘディングシュート。ゴールこそならなかったが、楠本卓海の右からのオーバーラップや河野のスプリントなどからも最終盤はレノファがゴールに接近した。

 しかし、試合はそのままスコアが動かず、1-0でホイッスル。レノファはリーグ戦では約2カ月ぶりとなる勝利をホームで飾った。

ゲームコントロールというステップへ

 試合後、渡邉監督は「前半の45分間は非常にボールの動かし方も意図的で、うまく前進できたシーンがあった。後半は少し苦しむものがあり、しっかり修正し、つかの間のオフを挟んで、そのあとの19試合につなげていきたい」と話した。

 一方でゲームコントロールの面では課題も見え隠れした。2-0や3-0にできた試合でもあるし、1-1になっていた可能性もある試合だったことを考えると、クリーンシート(無失点)かつ複数得点を成し遂げるには、しなやかで統一されたゲームコントロール術が必要になる。ただ、いつ、どこにエネルギーを注ぐかの判断は難しく、個人の感覚によっても異なる。合わせていく作業は一朝一夕にはできない。

 試合後の会見で、先制点後の試合の進め方について問われた渡邉監督は次のように話し、監督が正解を授けるのではなく、選手自身の経験値の積み上げが必要だと説いた。

 「一つ一つを経験しながらゲームの流れを読む力を身につけていかないといけない。選手が『監督がこう言っていたから、このシチュエーションはこうするもだ』と決めつけてしまうと、アクセルを踏めなかったり、ブレーキを掛けられなかったりする。肌感覚で学ぶしかない」

 押し込んでいる時に、もう1点を取りに行くには何をすればいいか。押し込まれている時に、どのような振る舞いをすればいいか――。試合後に行われたオンラインでの会見では、ピッチ内外で些少ながら感覚の違いがあったようにも感じた。それはまさに突き詰めなければならない余地だが、本来ならば心臓部のボランチの判断やゲームキャプテンの感覚を聞いて書き起こしたり、監督が送っていたテクニカルエリアでの指示を多少なりとも文字にしたりして記事に記すと、サポーターも含めたスタジアムの一体感は早く醸成できるかもしれない。

 話が脱線するが、コロナ禍によるオンライン取材化で話を聞ける選手は二人までになり、どうしても得点者が中心になってしまう現実がある。時間にも限りがあり、クラブやJリーグの公式サイトに載っているコメントが会見の全てと言っても差し支えない。フォトグラファーの撮影位置も制約があるため、ベンチから飛ぶ声も従来ほどは明瞭には聞こえない。こうしたことから、ゲームの流れを各氏がどのように捉え、何が最適解だったかは、クラブが制作しているインタビュー映像や応援番組のインタビューなどを見聞きして判断するしかないのが実情で、本稿のように試合翌日に掲出するレビューで話が不足するのは、非常に申し訳なく思う。

 さらに話が逸れてしまうが、試合を取材するメディアと、試合を観戦するサポーターとで情報格差がほとんどないのは、もしかしたら喜ばしいのかもしれないが、水面の波紋だけを見て大魚を妄想するような恐ろしさを覚えるのも事実で、改めてコロナ禍でのゲーム取材の難しさも痛感した。

 とはいえ、レノファは2カ月ぶりに勝利を手にした。これは揺るぎない事実だ。立ち位置で上回るサッカーをしていくという点では、相手のフォーメーションのギャップを使ってボールを動かし、相手の背後のスペースも活用。得点こそ流れの中からではなかったが、積極的なゲームメークでセットプレーのチャンスをつかみ、高井がゴールを挙げている。

試合後、“相棒”の「レノ丸」をねぎらう高井和馬。彼らのやりとりも、このスタジアムの見どころ
試合後、“相棒”の「レノ丸」をねぎらう高井和馬。彼らのやりとりも、このスタジアムの見どころ

 守っても関や渡部が中心的な存在とはいえ、楠本、ヘナンも積極的に立ち向かい、前線からのディフェンスも機能した。ボランチはしっかりとサポートしてピンチの芽を摘んだ。本稿においてゲームコントロールの面を述べることができたのも、選手の戦術理解が進んだり、個人の技術が高まったりして、もう一段階上の判断に目を向けられるようになったからであろう。良い意味での「もっとやれる」という感触を多くの人が感じたはずだ。

 渡邉監督は「自分たちがやりたいことがやれるようになってきた。表現できるようになってきた。それは間違いがない」と手応えを語り、「(試合前に)バスから降り立った瞬間にサポーターのみなさんの熱気とパワーとものすごく感じ、本当に我々はいつも以上に走らなければいけないと感じた」とサポーターの応援にも感謝。オリンピック開催による中断期間を前に待望の勝ち点3をつかみ、サポーターもきっとほくほく顔でサマーブレークを迎えられるだろう。

久々のホームでの勝利。渡部博文(右)も笑顔が光った
久々のホームでの勝利。渡部博文(右)も笑顔が光った

ホーム戦で待望の勝ち点3。サポーターが拍手で出迎えた
ホーム戦で待望の勝ち点3。サポーターが拍手で出迎えた

 リーグは3週間の中断期間に入り、レノファは8月9日開催の敵地でのファジアーノ岡山戦で再開。次のホーム戦は1カ月後で、8月14日午後7時から、ツエーゲン金沢と対戦する。個人戦術やチーム戦術をさらに研ぎ澄ませ、より高次の判断ができる集団へと進化していきたい。