秋吉台カルストロードレース:Jプロツアーは増田成幸選手が優勝 サバイバルレースを制す

笑顔のシャンパンファイト(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 9月15日に山口県美祢市で、自転車ロードレースの大会「第2回JBCF秋吉台カルストロードレース」が開かれた。一つ前の記事ではこの大会を一助とした山口県の自転車ツーリズム政策について触れたが、本稿ではメーンのJプロツアーのレースを振り返るとともに、レース自体の課題にも触れる。

宇都宮ブリッツェンとリオモ・ベルマーレが主導

 秋吉台カルストロードレースは非常にレベルの高いレースと言える。

 アップダウンの続く地形が高い難易度を担保しているが、1周回29・5キロという長距離にわたっての公道封鎖もレースを本格的なものにしており、国内のトップレーサーを引きつける一因になっている。ただ、本場に匹敵するコースレイアウトである分、レースはサバイバルなものとなった。

秋吉台カルストロードレースのコースマップ(筆者作図)
秋吉台カルストロードレースのコースマップ(筆者作図)

 レースの最大の勝負どころは、全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)理事でロードレース解説者の栗村修さんが「カルストベルグ」と命名した急勾配区間。1・1キロと距離は短いものの、平均勾配11パーセント、最大勾配28パーセントの急傾斜は選手の脚を容赦なく削る。

最初のカルストベルグを制した中田拓也選手(シマノレーシング)
最初のカルストベルグを制した中田拓也選手(シマノレーシング)

 5周回で行われるため、この坂も5度登場する。

 1周回目で積極的に飛び出して、最初のカルストベルグを制したのはシマノレーシングの中田拓也選手だった。中田選手は2016年までVC FUKUOKAに所属。インタープロサイクリングアカデミーを経て、今年シマノレーシング入りした。中田選手にとっては地元に近い山口県での開催だったほか、チームを抱えるシマノは下関市に製造拠点があり、関係者にとっても嬉しいカルストベルグアタックとなった。

 中田選手は一時は30秒以上、後続のメーン集団との差を広げるが2周回目で吸収される。この周回の終盤で雨澤毅明選手(宇都宮ブリッツェン)と内野直也選手(東京ヴェントス)が飛び出してカルストベルグ手前の勾配9パーセントの下り坂に突入。その後は雨澤選手の単独逃げとなった。

雨澤毅明選手(宇都宮ブリッツェン)と内野直也選手(東京ヴェントス)
雨澤毅明選手(宇都宮ブリッツェン)と内野直也選手(東京ヴェントス)

 勝利に向けてレースを積極的に動かしたのが国内屈指の強豪、宇都宮ブリッツェンと、J1湘南ベルマーレのNPOがサポートするリオモ・ベルマーレ・レーシングチームだった。

 4周回目で雨澤選手は有力選手が含まれたメーン集団に吸収されるが、ともに宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手と岡篤志選手、それにリオモ・ベルマーレの米谷隆志選手の3人がカウンターアタックで先頭に躍り出て、レースを先導する。

 ただ岡選手の脚が攣ってペースが落ち、増田選手も気遣って脚を緩めたため、今度は米谷選手が単独で先行。米谷選手の走りは鋭く、増田選手と岡選手に対して最大で1分20秒ほどに差を拡大する。この段階でチームとして複数の選手を残せていたのは宇都宮ブリッツェンとリオモ・ベルマーレのみで、実質的な優勝争いはこの2チームに絞られた。

「カルストベルグ」が最終決戦の場

 最終周回で米谷選手の一人逃げを増田選手が単独で吸収。先頭は二人となるが、リオモ・ベルマーレは残していたもう一人の才田直人選手が「今日は風邪気味だった」(試合後のインタビューで)にもかかわらず追走し、合流に成功する。これで先頭は3人。最後のカルストベルグが雌雄を決する場となった。

 状況は宇都宮ブリッツェンが増田選手一人、リオモ・ベルマーレが米谷選手と才田選手の二人。人数を残していたチームのほうが有利だったが、レースを巧みに運んだのは経験豊富な増田選手だった。

8秒差で勝利した増田成幸選手
8秒差で勝利した増田成幸選手

 単独逃げで脚を使っていた米谷選手がカルストベルグ序盤で脱落。1対1になると才田選手の後ろに増田選手が付いて動きをマークし、最大勾配ポイントを越えた先の緩斜面でアタック。才田選手を引き離し、8秒差で優勝を飾った。「みんなしっかり協力してくれたし、正々堂々戦えたので今日はいいゲームだった」。レース直後にマイクを向けられた増田選手は笑顔で喜びを口にし、リオモ・ベルマーレの選手とも健闘をたたえ合った。

 最終周回では窪木一茂選手(ブリヂストンサイクリング)、ホセ・ビセンテ選手(マトリックスパワータグ)、岡泰誠選手(イナーメ信濃山形)、入部正太朗選手(シマノレーシング)の4人が追走集団を形成。窪木選手は4分21秒遅れで完走し、年間ポイントの積算トップに贈られるルビーレッドジャージーを守った。23歳以下のポイントトップが着用するピュアホワイトジャージーは11位で完走した織田聖選手(弱虫ペダル サイクリングチーム)が堅持した。

リーダージャージーを守った織田聖選手と窪木一茂選手
リーダージャージーを守った織田聖選手と窪木一茂選手

 また、翌日に行われた「JBCF第3回維新やまぐちクリテリウム」は、山口市街地の並木道「パークロード」を舞台にした周回コース(1周1・1キロ、計40周回)で開催。ここではマトリックスパワータグがコントロールしてレースを進めたが、スプリント勝負はシマノレーシングの黒枝咲哉選手が制した。

 (※クリテリウムは本来は選抜競争という意味だが、現在では短距離での周回レースを指す言葉として定着している)

 クリテリウム後もリーダージャージーに変更はなし。また秋吉台を終えた時点で、宇都宮ブリッツェンのチームとしての年間優勝が確定した。

サバイバルレースに改善の余地あり

 秋吉台カルストロードレースは今年で2回目。維新やまぐちクリテリウムも昨年は台風接近のために中止となり、やはり2度目の開催となった。まだ歴史が浅いことに加え、時期的に秋雨前線の影響を受けて天気が崩れやすく、レースの盛り上げにはさらなる工夫が必要だろう。ただ、沿道には多くのファンが集まり、熱心な応援も続いた。

J2レノファ山口FCの試合会場でPRするヴィクトワール広島のメンバー
J2レノファ山口FCの試合会場でPRするヴィクトワール広島のメンバー

 PRの面では、8月18日に山口県在住の選手を抱える広島県のクラブチーム・ヴィクトワール広島が、J2レノファ山口FCのホームゲームで告知活動を実施。スポーツの垣根を越えた協調体制を築いた。

 残念だったのは、完走者が少なかったことだ。秋吉台カルストロードレースは2年連続でサバイバルな展開になり、出走99人に対して完走者はわずか13人だった。

 Jプロツアーとしては距離が長く、アップダウンの多いコースで、地力がなければ容易にふるい落とされてしまう。完走した13人の顔ぶれを見ても、国際レースで活躍する選手が目立つ。増田選手は17年のツール・ド・北海道で総合優勝した実力者だ。このコースならば、Jプロツアーではなく、よりレベルの高いチームを集められる国際自転車競技連合(UCI)公認レースに「昇格」させたほうが、より魅力的なレース展開になるかもしれない。

 シビアな関門時間設定も完走者が限られた要因に挙げられる。公道を使うレースのため、一定以上遅れた選手の足切りはやむを得ない。ただ、秋吉台カルストロードレースは円を描く周回コースではなく、コース中央部分に上下方向で共用する区間がある(記事冒頭のコースマップ参照)。ここでの正面衝突を避けるため、関門を小周回の入口付近に設置して5分程度で足切りをしなければならなかった。

足切りが続出した旧管理事務所の関門
足切りが続出した旧管理事務所の関門

 当然ながら逃げる選手のスピードが速ければ速いほど、関門で止められる選手は増加する。今大会でも序盤から有力チームが積極的に飛び出したことで、大半の選手が関門に引っかかってしまった。

 他の国際レースをみれば、150キロ前後のレースであれば、逃げ集団とメーン集団で5分以上のギャップが開く展開もある。さらには、レース単体での優勝争いとは別の戦いが後方で起きることもある。例えば、リーダージャージーを守るための戦いを、先頭とは少し離れた集団で行うというものだ。

 一つのレースで違う争いが起きるのもロードレースの特徴。秋吉台でも窪木選手や織田選手はレース単体の優勝争いには絡めなかったが、リーダージャージーの保持のためには足切りにならない位置で走り続ける必要があった。呉越同舟の追走集団が形成されたのも、先頭に追いつくためというよりは、ポイントの高い今大会で確実に完走するという目的のほうが大きかっただろう。

UCI公認レースなどへの「昇格」も必要か

 秋吉台カルストロードレースのサバイバルな展開は、単なるコースの難易度だけではなく、有力選手の参加でレーススピードが速かったことと、コースの特性から関門時間が短かったことに起因している。

 ハイレベルな争いを秋吉台で見られたのは間違いがなく、ヨーロッパのワンデーレースでも完走者の少ないレースはあるため、大きく取り上げる必要なないかもしれない。だがやはり改善の必要があるようにも感じた。

 考えられる改善策の一つは、上述したようにレースカテゴリーを上げて、参加選手のレベルを高くするというものだ。つまりはUCI公認レースにするというもので、身近なところでは大分市で開催の「おおいたアーバンクラシック」がJプロツアーを「卒業」し、UCI公認レースの仲間入りを果たした。

 UCIはレースとチームをそれぞれレベル分けしており、ヒエラルキーのトップはレースカテゴリーが「UCIワールドツアー」で、チームカテゴリーが「UCIワールドチーム」。

 レースカテゴリーはワールドツアー以降は、「HC」(Hors Classe=オークラス、超級)「1クラス」「2クラス」と下がっていく。チームカテゴリーはワールドチーム以降は「プロフェッショナル・コンチネンタルチーム」「コンチネンタルチーム」と分けられ、チームの所属カテゴリーによって参加できるレースカテゴリーが異なる。

2016年の維新やまぐちクリテリウムで、宇都宮ブリッツェンとともにレースをコントロールしたチーム右京(黒色のジャージー)。現在は国際レースに舞台を移している
2016年の維新やまぐちクリテリウムで、宇都宮ブリッツェンとともにレースをコントロールしたチーム右京(黒色のジャージー)。現在は国際レースに舞台を移している

 UCI公認レースとなることで、プロフェッショナル・コンチネンタルチームやコンチネンタルチームなどにカテゴライズされる国内外の有力チームを招けるようになる。国外チームは難しくても、すでに国際レースに主戦場を移している国内有力コンチネンタルチームを招ければ現在以上のハイレベルなレースになりそうだ。

課題もあるが、魅力が上回る秋吉台のコース

 一方で現在のコース設定のままでは、関門時間そのものに大きな変化は生まれない。端点の周回部分を長くしたり、周囲の道路をコースに取り込んで一方通行の周回コースにしたりする工夫も必要かもしれない。もちろん区間を広げると、県道28号小郡三隅線のような広域交通を担う道路の長時間封鎖も検討しなければならず、運営側の負担も増える。落しどころは難しい。どのようにしてレベルを保ったり、向上させたりするか。現状でも十分に魅力的なレースであるだけに、次の一手にも注目したい。

増田成幸選手
増田成幸選手

 課題も出てきているが、別次元の走りを見せて優勝したのは、地域密着型のチームとして活動する宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手だった。表彰式での増田選手の話は印象深く、大会関係者にもエールを送るものとなった。

 「こんなに素晴らしいコースでレースができるというのは、Jプロツアーでは珍しいこと。本当にありがたいなと思いながら走っていました。来年、再来年と続けていき、UCIレースにしたいという話もあるようなので、僕たちも一生懸命頑張って、盛り上げていきたい」

 プロ選手を引きつけた秋吉台のコースと景観。本場の風は吹いている。それはレベルの高いレースを一助に自転車ツーリズムの振興を図ろうとする山口県にとっても、力強い追い風となる。