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レノファ山口:ゴール遠く5連敗。顕在化するシステムと「コミュニケーション」という内なる課題

上田真之介ライター/エディター
今節から指揮するカルロス・アルベルト・マジョール監督
今節から指揮するカルロス・アルベルト・マジョール監督

カルロス・アルベルト・マジョール監督が就任し、新体制を発足させたJ2レノファ山口FC。6月11日、維新百年記念公園陸上競技場(山口市)にファジアーノ岡山を迎え初陣に臨んだ。しかしゲーム開始直後に相手スローインの流れから失点。攻撃も精彩を欠き、0-1で敗れた。5連敗を喫し順位は最下位のまま。

明治安田生命J2リーグ第18節◇山口0-1岡山【得点者】山口=なし 岡山=久木田紳吾(前半2分)【入場者数】6061人【会場】維新百年記念公園陸上競技場

新体制のレノファはシステムに[4-4-2]を採用。2トップにFW岸田和人とFW大石治寿を起用し、MF小塚和季は左サイドハーフに配置した。また、ベンチにはユースからの2種登録となったMF松本蓮が入った。

前半2分、ロングスローのこぼれ球を久木田が振り抜いて岡山が先制
前半2分、ロングスローのこぼれ球を久木田が振り抜いて岡山が先制

マジョール監督が1週間で仕上げた新フォーメーションだったが、結果的には選手の特性を引き出すには至らなかった。前半2分にロングスローのこぼれ球を久木田紳吾に決められて失点すると、その混乱がなかなか収まらず、岡山に攻め込まれてしまう。

レノファは小塚とMF小野瀬康介がサイドを張り、FW大石治寿やMF三幸秀稔が重心付近に寄ってボールをさばこうとしたが、攻撃に厚みを持たせることはできなかった。「小野瀬や小塚はテクニックがあるので、いいボールを供給できればチャンスになる。サイドチェンジは意識していたが、相手が5バックに広がっていたので有効的に使えず、ボールを預けてもチャンスにならなかった」(三幸)。進行方向に蓋をされたレノファの前半のシュートはわずかに2本。守備が耐えて追加失点こそ免れたものの、前半の攻撃に見せ場はなかった。

後半は大石を左サイド、小塚をトップ下に置く[4-2-3-1]とする。選手の顔ぶれは異なるが、これは上野展裕監督時代のシステムと同じ。慣れた陣形にしたことで各ポジションの役割がはっきりし、ボールは敵陣内で回るようになる。ただ、マジョール監督が求めるフィニッシュの迫力は欠いたままで、ボールは動かせるもののシュートを打ち切れなかった。最終盤はさらに攻め立てるも、試合開始直後の失点が響き0-1の黒星。岡山に今季初のクリーンシート(無失点勝利)を与えた。岸田と大石はともにシュートがなく、岸田は「点を取るためにはシュートがいる。FWが打って決めなければいけない」と悔やんだ。

新システムは機能できたか

マジョール監督は練習中から[4-4-2]のシステムを試していた。しかし、レノファはMF鳥養祐矢をはじめ、MF加藤大樹が前節試合中に負傷するなど離脱者が多く、紅白戦の大部分で11対11を組むことができなかった。サイドからの仕掛けやフィニッシャーの増強を狙ったと考えられる[4-4-2]の採用だったが、チームに落とし込むには時間も人数も足りなかった。

もちろん[4-4-2]そのものは大半の選手が経験したことがあるベーシックなスタイル。時間不足ですべてを片付けるわけにはいかない。

[4-4-2]が機能しなかった理由として時間以外に挙げられるのはバランスの悪さだ。左サイドでは小塚が収めたあとDF前貴之が追い越していく動きは見られたが、右サイドの小野瀬はドリブルやランニングで前線に入り込んだ。どちらも自身のストロングポイントを生かしているが、両サイドの構築手段の違いが陣形にひずみを作ってしまう。サイドに限らず各ポジションで動きが一定せず縦横に間延び。システムは崩壊気味になった。

MF三幸秀稔はサイドチェンジと保持率アップを意識した
MF三幸秀稔はサイドチェンジと保持率アップを意識した

後半は[4-2-3-1]として動きがスムースになる。しかしながら、前後半の布陣に関して試合後の監督記者会見で質問が何度か飛ぶも、通訳とのミスコミュニケーションが生じ、はっきりとした意図が掴めなかった。[4-2-3-1]は相手とのシステムのミスマッチを有効に使おうとしたのかもしれないし、トップ下にボールを触らせることでパスワークを円滑にしようとしたのかもしれない。この点に関しては今後、練習での取材などを通してシステムの狙いを紐解きたい。

ただ、三幸が「後半は保持率を上げてチャンスを増やすことは意識した」と話すように、相手陣内でのポゼッション時間が増えた。もちろんそれは慣れたシステムだということと、相手ディフェンスの脇を突けるパスが出るようになったことも要因。それに相手が引き気味になった点も考慮しなければなるまい。とはいえ、マジョール監督が「ペナルティエリアの外からのシュートはなかった」と話すなど保持時間に対してシュートは少なかった。

明確にするべき2つのポイント

猿澤真治アカデミーダイレクターが代行を務めた2試合とマジョール監督が率いた今節に共通するのは、サイドチェンジを使ったダイナミックな展開があったこと。ドリブルを使った仕掛けなど個で突破しようとする場面も見られた。「個の能力はすごく大事になってくると思う。個人で打開しながらスペースを作っていくというサッカーになる」と大石治寿。もちろん適切な距離感の確保や個人のボールタッチの質といった繊細さを骨抜きにはできないが、ショートパス以外の選択肢は今後に生かすことができるだろう。

一方ではっきりとさせるべき点や修正点もある。

FW岸田和人と、今節は昨季まで山口でプレーしたGK一森純(岡山)との対峙
FW岸田和人と、今節は昨季まで山口でプレーしたGK一森純(岡山)との対峙

一つは当然ながらシステム。マジョール監督は[4-4-2]をベースとしそうだが、今節は選手個人の特性と実際の起用ポジションとに乖離があった。どのようなフォーメーションにも一長一短があり、また相手に合わせて変えるかどうかの戦略でも長所と短所がある。マジョール監督がどのような戦略を持って[4-4-2]をはめ込んでいくかは今後の注目点。離脱者の合流と監督による選手能力の把握を急ぎ、方向性を明確にしたい。

もう一つの課題はコミュニケーションだ。現状では通訳を介した意思疎通に不安があり、毎試合の戦術はもとより、マジョール監督のフィロソフィーや強化戦略を十分に伝えられていない。練習中に選手と話し込んでいるシーンは見かけるものの、外国籍監督が初めての選手が多くコミュニケーションには苦戦。通訳がポイントをはっきりと訳せているかにも疑問はあり、探り合いの状態は否めない。DF渡辺広大やMF三幸秀稔、MF鳥養祐矢などが率先して通訳の通訳になっている印象はあるが、決して誉められる状態ではなく、通訳の能力向上と監督・選手双方の対話術が必要になる。

すでに夏場に差し掛かった。監督交代という策に出た以上、結果が出ないことに対して悠長に構えてばかりもいられない。ストライカーの役を担う岸田は「自分でチャンスメイクしたり、自分で打開する力を付けていかなければと思う。僕自身もレベルアップしなければいけない」と危機感を募らせる。次戦は17日午後7時から、石川県西部緑地公園陸上競技場で18位ツエーゲン金沢と対戦する。最下位からの脱出には勝ち点を重ね続けるしかなく、4試合ぶりのゴールへFW陣への期待は大きい。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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