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「“正義”はエスカレートする」『未来からの挑戦』に込められた過去からのメッセージ

てれびのスキマライター。テレビっ子

『NHKアーカイブス』はその名のとおり、NHKに残った膨大なアーカイブの中から名作と言われるものを、司会の桜井洋子がナビゲートして紹介する番組である。

2月15日の放送では、「少年ドラマシリーズ」の『未来からの挑戦』が取り上げられた。

「少年ドラマシリーズ」は、1970年代から80年代にかけて全国の少年少女をテレビの前に釘付けにした番組である。

第一作は72年に放送された『タイム・トラベラー』。筒井康隆の『時をかける少女』が原作だ。『時をかける少女』は数多く映像化されている作品だが、この『タイム・トラベラー』が最初の映像化である。これが大好評だったため、「SF」のジュブナイル作品が、この「少年ドラマシリーズ」の主軸のひとつになっていった。

77年に放送された『未来からの挑戦』もやはりSFジュブナイルドラマだ。中学校の乗っ取りを企む未来人とそれを阻止しようとする生徒たちの闘いを描いたドラマである。

原作は眉村卓の小説『ねらわれた学園』と『地獄の才能』を組み合わせたもの。『ねらわれた学園』はその後、大林宣彦監督による薬師丸ひろ子主演で映画化されたのをはじめ、何度か映像化されているが、やはりこの「少年ドラマシリーズ」が初めての映像化だった。

NHKには一部しか映像が残されていなかったが、視聴者から寄せられたVTRを元に復刻されたという。

スタジオのゲストは紺野美沙子。

実は彼女は、まだ児童劇団に所属していた中学生時代、本名の「佐藤美佐子」名義でこの作品に出演しているのだ。

「信じられない気持ちですね。40年近く前の作品ですよ」

と彼女が思いを語る中、『未来からの挑戦』のダイジェスト版が放送された。

物語は、勉強のストレスからかいたずらが横行する中学校が舞台。そこに主人公の関耕児(佐藤宏之)が転校してくるところから始まる。

耕児は、あっという間に成績が上がるという英光塾の噂を聞く。そこでその塾に通う生徒に話を聞こうとすると、次々と不気味な出来事に遭遇し、「あの塾にはなにか怪しいことがある」と感じるようになっていく。

クラスには英光塾に通う生徒が二人いた。それが飛鳥清明(熊谷俊哉)と紺野美沙子演じる西沢杏子だ。

そんな中、生徒会長に選ばれたのは英光塾に通う高見沢みちる。

彼女は、第一回の生徒会でいきなり、「校則に違反している生徒を見つける巡回パトロール」を提案し決議してしまう。

生徒が生徒を監視し、告発し、処分する、行き過ぎと思えるような取り締まりが始まるのだ。

耕児がそのことを両親に話すと、父が「なんでそんなことをする必要があるんだ」と訝しむが、母は「だって悪いことしたんですもの、仕方がないでしょ? 生徒たちが自分たちの力で違反者をなくそうとするのはいいことじゃないですか?」と反論する。そんな母に父は「そういう問題じゃないんだ。話をすり替えちゃいかんよ」と諭し続ける。

取り締まるものと、取り締まられるもの、正しいことと、そうじゃないことをどういう基準で決めるかってことなんだ。今、パトロールのやっていることは正しいことかもしれないがね。(略)

こういうことはひとりでにエスカレートする。そして「正しい」という理由でいろんなことが行われる。そのたびにみんな「まぁ、この程度は仕方がない」と一歩ずつ譲歩する。ところがだ、あるときハッと気が付くと、知らない間に身動きができなくなっている。

正義はエスカレートする。「正しさ」を振りかざされると、反論ができなくなる。そしてそれは暴力に似た同調圧力になっていくのだ。

これはまさに「正しさ」で窮屈になりつつある今のテレビや社会にこそ、響く言葉ではないだろうか。

物語の終盤、英光塾を追放された西沢杏子の自殺未遂をきっかけに、耕児の仲間になり、ともに未来人の野望を阻止した飛鳥清明が、未来に帰っていく。

耕児との別れ際、飛鳥は言う。

お互いに自分が生を受けた時代で精一杯頑張ろうじゃないか。

『未来からの挑戦』は、未来からやってきた未来人が現代の人間を支配しようとすることで、結果的に当時の人々に警笛を鳴らす作品だった。だが、今改めて見返すと、時を超え、過去の人たちが、未来の僕たちにメッセージを寄せているように思えてくる。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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