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レースファン期待の「グランツーリスモ」最新作が3月発売!クルマ文化を後世に受け継ぐバイブルに?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
グランツーリスモ7の映像【写真:SIE】

家庭用ゲーム機「プレイステーション」の人気ソフト、グランツーリスモシリーズの最新作「グランツーリスモ7」が2022年3月4日にいよいよ発売になる。リリースまで1ヶ月というタイミングでYouTubeに同作品の全貌が分かる最新プロモーションビデオが公開された。

最大の市場である北米を意識した時間での公開だったため、日本での公開は2月3日(木)の早朝。にもかかわらず、Twitterでは「グランツーリスモ7」のキーワードがトレンドに上がり、人気の高さを伺わせた。YouTubeのライブ配信映像は僅か1日で、日本で19万回、英語版で70万回以上再生されている。

初回作から25周年を迎え、世代を超えたファンから注目を集める「グランツーリスモ」シリーズ。私自身、プレーヤーであり、全国大会で実況を務める視点から、その魅力と最新作に対する期待を記していこう。

グランツーリスモ7 タイトルイメージ【写真:Sony Interactive Entertainment】
グランツーリスモ7 タイトルイメージ【写真:Sony Interactive Entertainment】

8年ぶりのフルコース作品

「グランツーリスモ7」は現行作品の「グランツーリスモSPORT」以来、約4年半ぶりの最新作となる。ただ、プレイステーション4向けに作られた「グランツーリスモSPORT」はシリーズのナンバリングがされたタイトルではなく、オンラインで競い合うeスポーツをメインの楽しみ方にした作品。「グランツーリスモ」シリーズの本来の楽しみ方をフルコースで詰め込んだナンバリングタイトルとしては、プレイステーション3時代の「グランツーリスモ6」以来、実に8年4ヶ月ぶりの作品だ。

「グランツーリスモ」シリーズはプレイステーションの中で、スカイラインGT-Rやスープラなど主にスポーツカーをカスタマイズしたり、チューニングしたりしてバーチャルの世界で走らせることを楽しむゲームソフトである。「レースゲーム」という括りではなく、「リアルドライビングシミュレーター」や「カーライフシミュレーター」と表現しているのはそのためである。

グランツーリスモ7について語る山内一典プロデューサー(YouTubeより)
グランツーリスモ7について語る山内一典プロデューサー(YouTubeより)

3月2日に公開された最新映像では山内一典プロデューサーから、「グランツーリスモ7」の様々な見どころが紹介されたが、今作では「グランツーリスモSPORT」では限られていたクルマのチューニングやカスタマイズの要素が復活するという。

チューンナップしてクルマを速くしてライバル車に勝つ、という車の楽しみ方。これは現実の世界では時代が変わり、コンピューター制御の割合が増えて独自の改造が難しい上、ノーマル状態の性能が飛躍的にアップした今では古典的な文化になりつつあるが、あえてゲームの重要な要素として採用される。

ドライビングゲームの頂点として

「グランツーリスモ7」の映像を見て、やはり目を引くのはプレイステーション5の性能をフルに活かしたクオリティの高いグラフィックだ。毎度、作品が出るたびに「ほぼ現実だ」という声が上がっていた再現クオリティはまた一段、現実に近づいた印象である。

グランツーリスモ7をプレイステーション5でキャプチャーした画像【写真:Sony Interactive Entertainment】
グランツーリスモ7をプレイステーション5でキャプチャーした画像【写真:Sony Interactive Entertainment】

特に今作では気象条件の変化が新たに加わったことで、より現実に近い条件でクルマを走らせられることになるのが特徴。1周が20kmを超える広大な敷地にあるニュルブルクリンク(ドイツ)などのコースでは現実では雨が降っているところと降っていないところができる事があるが、今作ではそのような現実には起こり得る「不確定要素」も含めて楽しめそうだ。

そして、「グランツーリスモ」シリーズの大きな魅力の一つがゲームでレースを走った後のリプレイ映像だ。現行作「グランツーリスモSPORT」でも現実でのレース中継ではあり得ない並走ドローンで撮ったような映像が楽しめるが、今作では音楽に合わせてリプレイ映像の視点が切り替わる「ミュージックリプレイ」という機能が加わる。同じリプレイでも曲によって異なった映像になるのは興味深い。

同シリーズは昔からドライビング中に流れる音楽にも拘っており、これは新たな楽しみ方ができる機能と言える。

天候や気温、路面温度などがリアルタイムで変化するというグランツーリスモ7(YouTubeより)
天候や気温、路面温度などがリアルタイムで変化するというグランツーリスモ7(YouTubeより)

こういった美しいリプレイ映像は「グランツーリスモSPORT」で一気にポピュラーになったeスポーツの流れをさらに発展させそうだ。F1やWRCなど同じFIA(国際自動車連盟)の公式レース「FIAグランツーリスモ選手権」では、トップクラスの選手たちが現実のレース以上に見応えのあるレースを展開しているので、自分で走って楽しむだけではなく、上手なプレイヤーたちのレースを見るのも一つの魅力になっていくのではないだろうか。

ゲーミングPCを使った高性能なドライビングシミュレーターは他にもあるが、家庭用ゲーム機で気軽に参加できる「グランツーリスモ」シリーズはプレイヤー数が多く、今後も「FIAグランツーリスモ選手権」などのレースはさらなる盛り上がりが期待されている。

クルマ文化継承のバイブルとして

プロデューサーの山内氏は今作の制作にあたって「これまで自動車文化の世界に接したことがない方でも奥深く豊かにクルマの世界を知っていただけるように気をつけた」と語っている。

ゲームのクオリティが現実にどんどん近づく一方で、現実のクルマの世界は「100年に1度の変革期」を迎え、電気自動車や自動運転などスマートフォンと同じように便利な生活ツールとして利用される時代に変わり始めている。クルマを購入し、カスタマイズしたりチューンナップしたりする文化や、エンジンの音を楽しんだり、どういう経緯でそのクルマが作られたかを知り、愛を深めるといった楽しみ方は失われつつあるのだ。

欧米では自動車愛好家たちによるクラシックカーの祭典が盛んに行われている
欧米では自動車愛好家たちによるクラシックカーの祭典が盛んに行われている写真:Shutterstock/アフロ

今や自動車メーカーの従業員ですら、クルマを所有せず、好きなクルマも特に無く、自社の名車のエピソードすら知らない人が多い。筆者(40代)の子供の頃には図鑑や漫画、雑誌を通じてクルマのエピソードを知るバイブル的な本が多数あり、それを読んで影響を受けたものだが、興味のあることだけを検索するインターネット時代になってからは、限られた人だけの楽しみになりつつあると言える。

「グランツーリスモ」シリーズはゲームの中で様々なクルマを購入でき、そのクルマの性能や特徴を、遊びを通じて知ることを大切にしてきた。今作もそういう要素が強化され、山内氏が「グランツーリスモ7の中心となる存在」と語る「グランツーリスモカフェ」というモードでは、プレイヤーがクルマのことを学びながらクエストをクリアしていくことで、自然にクルマの歴史や文化に触れられるようになるとのこと。ゲームを通じて車文化を継承したいという思いが伝わってくるものだ。

「グランツーリスモ7」内の自動車ディーラーではメーカーやクルマの歴史を学ぶ事ができる(YouTubeより)
「グランツーリスモ7」内の自動車ディーラーではメーカーやクルマの歴史を学ぶ事ができる(YouTubeより)

プロデューサーの山内氏は「あらゆるプレーヤーが楽しめるドライビングシミュレーター、カーライフシミュレーターを作ることだった」と映像内で語っている。

これはeスポーツとしてのオンラインレースを楽しむヘビープレイヤーだけでなく、「グランツーリスモ7」をゲームとして楽しむ新しいプレイヤーも増えて欲しいということだろう。そういったプレイヤーがクルマの楽しさを知るキッカケになってくれることを願いたい。

(Playstation YouTubeより 「グランツーリスモ7 State of Play」)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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