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【MotoGP】スズキが20年ぶりの世界チャンピオンに王手! バレンシアGPで決まる可能性は?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
スズキGSX-RRを駆るジョアン・ミル(左)とアレックス・リンス(右)(写真:ロイター/アフロ)

コロナ禍の歴史に残る大混戦シーズン。オートバイのロードレース世界選手権、MotoGPクラスは第12戦・ヨーロッパGPを終えて、9人の異なるウイナーが誕生。ヤマハ、KTM、ドゥカティ、スズキの4メーカーが勝利する中、マルク・マルクス(ホンダ)もバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)も未勝利。こんなシーズンの行方、誰にも予測できなかった。

そして、タイトルに王手をかけているのは、なんとスズキだ。ヨーロッパGPでは最高峰クラスで1984年以来36年ぶりとなる1-2フィニッシュを達成。同じサーキットで開催される第13戦・バレンシアGPでの王座が決まる可能性が出てきた。

ランキング首位のジョアン・ミル【写真:www.suzuki-racing.com】
ランキング首位のジョアン・ミル【写真:www.suzuki-racing.com】

波乱の2020年、スズキが躍進

ランキング首位で迎えた第12戦・ヨーロッパGP(バレンシア)をチームメイトのアレックス・リンス(スズキ)からの強烈なプレッシャーに負けずに逃げ切ったジョアン・ミル(スズキ)。MotoGPクラス2年目の彼にとっては嬉しい初優勝であり、チャンピオンに王手をかける会心の一撃だった。

というのも、ランキング2位のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)は予選から奮わず、決勝でも転倒。最終的にはなんとかポイントを獲得したが、ミルとのポイント差は残り2戦を残し、37点に開いてしまったのだ。

これで圧倒的にジョアン・ミル(スズキ)=162点が優勢の状態で残り2戦を迎えることになったが、ランキング2位のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)=125点、ランキング3位のアレックス・リンス(スズキ)=125点と続き、リンスにも逆転チャンピオンの可能性が残っている。今季はスズキが予想以上の大躍進だ。

ジョアン・ミル【写真:www.suzuki-racing.com】
ジョアン・ミル【写真:www.suzuki-racing.com】

開幕当初はルーキーイヤーをランキング5位で終えたクアルタラロが、4連覇中のマルク・マルケスに本格的に戦いを挑むシーズンと見られていた2020年だったが、開幕戦となったスペインGP(ヘレス)のレースでマルク・マルケスが転倒し、右上腕骨を骨折。今季の復帰が絶望的になったことでシーズンの流れは劇的に変わってしまった。

(Twitter: チームメイトで弟のアレックス・マルケスを自宅から応援するマルク・マルケス)

スズキが今季チャンピオン争いに加わっている理由として、絶対王者マルク・マルケス不在のシーズンであることは事実としてある。しかしながら、昨年もスズキはあれだけマルケスが強いシーズンでありながらアレックス・リンス(スズキ)が2勝できたのだ。ウイナーが毎戦入れ替わる混戦の今シーズンだが、毎年少しずつ上昇気流に乗ってきたスズキにいよいよ追い風が吹いてきた。

2019年に2勝したアレックス・リンス【写真:スズキ】
2019年に2勝したアレックス・リンス【写真:スズキ】

小規模体制ながら中盤戦から飛躍

スズキは1980年代の「GSX1100S・カタナ」「RGV250Γ(ガンマ)」など数多くの個性的なオートバイを販売し、ユーザーを魅了し続けてきたメーカーだ。そのため、長年スズキのバイクに乗り続ける熱いファンが多く、ネット上ではスズキに魅了されたファンは自分たちのことを「鈴菌」感染者などと表現する。

そんなスズキファンにとって夢のような瞬間が訪れようとしている。もし、ジョアン・ミル(スズキ)が2020年のMotoGP王者に輝けば、スズキのライダーがロードレース世界選手権・最高峰クラスの王座に就くのは、2000年のケニー・ロバーツJr.以来20年ぶり。当時はまだ2ストローク500ccクラスの時代であり、4ストロークのMotoGPクラスとなってからは初めての王座になるわけだ。

ヨーロッパGPで1-2フィニッシュを果たしたスズキ【写真:スズキ】
ヨーロッパGPで1-2フィニッシュを果たしたスズキ【写真:スズキ】

こうしてスズキがチャンピオン争いの主役となったことは、その体制の規模を考えれば驚くべきことかもしれない。MotoGPには「レプソル・ホンダ」「モンスターエナジー・ヤマハ」「ドゥカティチーム」「レッドブルKTMファクトリーレーシング」など各メーカー直属のワークスチームがあり、それに加えてセミワークスとも言えるサテライトチームがある。ホンダは合計4台、ヤマハは4台、KTMも4台、ドゥカティは前年型を含めると6台が出場しているが、スズキアプリリアはワークスチームのみの2台体制だ。

サテライトチームが無ければそれだけ共有できるデータ量も少ないため、不利なはずだ。2台体制のアプリリアはMotoGPに復帰した2015年からの6シーズンで表彰台は1度もないほど苦戦している(最高位は6位)。

一方でスズキは同じく2015年から復帰したが、優勝は今季を含めて通算5勝。昨年はアレックス・リンス(スズキ)が2勝をマークし、ライダーランキングでも年間4位と躍進した。他メーカーに比べて予算規模も少ないと考えられる体制ながら、最高のパフォーマンスを見せているのだ。特に2019年にレース専門の社内カンパニー「SRC(スズキレーシングカンパニー)」を設立してからは全てが良い方向に進んでいる印象だ。

1960年代のGPレーサーマシンと2020年のスズキGSX-RR【写真:www.suzuki-racing.com】
1960年代のGPレーサーマシンと2020年のスズキGSX-RR【写真:www.suzuki-racing.com】

折しも今年、2020年はスズキにとって創立100周年の節目の年。さらに1960年に英国のマン島TTレースに参戦してから60周年のアニバーサリーイヤーでもあり、今年のスズキGSX-RRのカラーリングは60年前の参戦カラーをモチーフにした銀と青のスペシャルカラーになっている。

ミルがチャンピオンになる条件は?

記念すべき年に巡ってきたワールドチャンピオン獲得のチャンス。

23歳のスペイン人ライダー、ジョアン・ミルには非常に大きなプレッシャーがかかることになるが、11月15日(日)のバレンシアGP決勝では3位以上(16点以上)の表彰台フィニッシュであれば、ファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)とアレックス・リンス(スズキ)が優勝しようとも、最終戦を待たずしてチャンピオンを決めることができる。

スズキGSX-RR【写真:www.suzuki-racing.com】
スズキGSX-RR【写真:www.suzuki-racing.com】

バレンシアのリカルド・トルモ・サーキットでは2週連続の開催であり、プレッシャーの中で初優勝したジョアン・ミルが同じサーキットで不振に陥ることは考えにくい。転倒などのアクシデントはロードレースで常に伴うリスクであるので気をつけたいところだが、ポイント差に余裕があるのでミルは心理的にも多少楽であろう。

さらにミルは2017年にMoto3クラスでワールドチャンピオンを獲得した経験を持つ。ちなみにこの年は10勝もしていながら、ポールポジションは僅か1回のみ。つまりミルは決勝レースで順位を上げてくるレース巧者のライダー。今季はMotoGPにステップアップして2年目ながら、5戦連続の表彰台を含む8回の表彰台を経験しているミルの安定感は抜群だ。

ジョアン・ミル【写真:www.suzuki-racing.com】
ジョアン・ミル【写真:www.suzuki-racing.com】

バリー・シーンマルコ・ルッキネリフランコ・ウンチーニ、そしてケビン・シュワンツケニー・ロバーツJr.に続く、スズキ6人目の最高峰クラス世界チャンピオン誕生の瞬間はスズキファンならずとも生で目撃したい。

【MotoGP バレンシアGP テレビ放送】

・日テレ G+ (生放送) 11月15日(日)22:00〜

・BS日テレ(録画/ダイジェスト) 11月16日(月)25:00〜

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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