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セナの死から26年半、F1は再びイモラへ。エミリア・ロマーニャGPは異例の2日間スケジュールで開催!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
1994年、サンマリノGPのイモラサーキットを走るアイルトン・セナ(写真:ロイター/アフロ)

「悲劇の週末」としてF1の歴史に深く刻み込まれている1994年のサンマリノGPから26年と半年が過ぎようとしている。

当時のF1サンマリノGPの舞台だったイタリアのイモラサーキットに2020年、久しぶりに「フォーミュラ・ワン(F1)」がエミリア・ロマーニャGPとして帰ってくることになった。

もう知らない若者も多いイモラの悲劇

それは日本国内における1980年代から90年代にかけてのF1ブーム世代にとって、忘れがたい悲劇の週末だった。

1994年、当時のF1カレンダーの中でも屈指の高速コースの一つだったイモラサーキットで開催されていたサンマリノGP。そのレースウィークでは金曜日のフリー走行でルーベンス・バリチェロ(ジョーダン)が大クラッシュ。

続く土曜日の予選では日本の全日本F3000(現在のスーパーフォーミュラ)でも活躍したローランド・ラッツェンバーガー(シムテック)がウイングの脱落によってコンクリートウォールにクラッシュし、死去。1986年にテスト中の事故で死去したエリオ・デ・アンジェリス以来の死亡事故となった。

重い空気のまま迎えた日曜日の決勝レースではスタートで多重クラッシュが発生し、セーフティカーが導入。破損したパーツによって観客が怪我をしてしまう。

そしてセーフティカー解除後の1周目、当時の最強チーム「ウィリアムズ・ルノー」に移籍したばかりのアイルトン・セナが高速コーナー、タンブレロでコースアウトしてクラッシュ。3度のF1ワールドチャンピオンは34歳という若さで帰らぬ人となった。

セナの速さは伝説となって今もなお語り継がれているが、当時の盛り上がりや死去のニュースに対する世間の反応をリアルタイムで知らない世代のF1ファンも増えてきた。当時は日本の若者の多くが「音速の貴公子」と呼ばれたセナの存在、セナの死の衝撃を知っていたが、あれからすでに四半世紀以上の時間が過ぎた。

音速の貴公子と呼ばれたアイルトン・セナ(マクラーレン時代)【写真:DRAFTING】
音速の貴公子と呼ばれたアイルトン・セナ(マクラーレン時代)【写真:DRAFTING】

イモラでのF1は14年ぶり

ラッツェンバーガーとセナが亡くなった1994年以降もF1サンマリノGPはイモラで開催されていた(2006年まで)。

イタリアのイモラで開催されるサンマリノGPは1カ国1GP開催の原則を外れた珍しい例だったが、アジアや中東などのレース数が増えたことでイモラはカレンダーから外れてしまった。しかし、その後、改修工事が続けられ、イモラは再びF1グランプリの開催が可能な「グレード1」を取得している。

ただ、イタリアでのF1はミラノ近郊のモンツァでの開催が伝統であり、なかなかイモラにはチャンスが訪れず、コロナ禍のリスケジュールによってようやくイモラはF1を開催できることになった。

現在のイモラサーキットは2006年までと比べて50m短縮された4.909kmのコースになっている。当時のレイアウトとの違いはホームストレート直前のバリアンテ・バッサがシケイン状のコーナーではなくなったくらいで、大筋は変わっていない。また、路面改修も行われているので、路面は比較的スムーズでタイヤへの攻撃性は低いとタイヤサプライヤーのピレリは考えているようだ。

イモラサーキット【写真:PIRELLI】
イモラサーキット【写真:PIRELLI】

ただ、やはり久しぶりの開催ということもあり、未知数な部分も多い。トスカーナGPのムジェロサーキット、ポルトガルGPのアルガルヴェと同様にイモラでは4輪のプレミアクラスの開催は少なく、世界選手権レースでいうとアルガルヴェと同じく2輪の「スーパーバイク世界選手権」が近年開催されている代表的レースである。

F1サンマリノGPの時代から経験があるドライバーは今や最多出場回数記録を更新したキミ・ライコネン(フェラーリ)しかいない。しかしながら、F3やF4などの育成カテゴリーのレースは開催されており、ルイス・ハミルトン(メルセデス)はF1の前座のGP2で、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は2014年のユーロF3で走行経験がある。

ジュニアカテゴリーが今も開催されているイモラ【写真:Red Bull】
ジュニアカテゴリーが今も開催されているイモラ【写真:Red Bull】

異例の2日間開催、迷う時間はない

久しぶりの開催ながら、今回のエミリア・ロマーニャGPは10月31日(土)、11月1日(日)の僅か2日間での開催というところも今週末のポイントだ。

フリー走行は1回だけで土曜日に90分間。そのあといきなり予選となるため、決勝レースまでに走行できるチャンスは2回しかなく、土曜日のフリー走行が非常に重要になる。

国内レースなどでは当たり前の2日間スケジュールだが、F1では近年では初めての試み。色々トライする時間はないので、やはり素性の良さと持ち込みベースセットが重要な鍵となるだろう。

一番厄介なのは土曜日がウェットで、決勝がドライというパターン。波乱を呼び、チームの総合力問われる要素が満載という意味では追うレッドブル・ホンダにも期待がかかる。

史上最多の92勝目を飾ったハミルトン【写真:Daimler】
史上最多の92勝目を飾ったハミルトン【写真:Daimler】

ただ、やはり本命はルイス・ハミルトンだろう。ミハエル・シューマッハの最多優勝回数記録を上回ったハミルトンの止められない速さは新コースのアルガルヴェでも揺るがなかったからだ。DRSゾーンはホームストレートから(現在はシケイン状の)タンブレロにかけて設定されているが、全体的にオーバーテイクは厳しいかもしれない。レッドブル・ホンダはマックス・フェルスタッペンをフロントローに導けるかが鍵となる。

そして、前戦・ポルトガルGPではシャルル・ルクレール(フェラーリ)が4位となったこともポジティブな要素。ここイモラはAutodromo Internazionale Enzo e Dino Ferrari(エンツォ・フェラーリとアルフレディーノ・フェラーリの国際レーシングコース)という正式名称からもフェラーリにとってはモンツァ以上に地元に近い重要なレーストラック。

かつてはミハエル・シューマッハがフェラーリ移籍後の初ポールを獲得したコースであり、フェラーリとは比較的相性の良いコース。調子を取り戻しつつあるルクレールには大いに期待したい。

ポルトガルGPでのルクレール【写真:Ferrari】
ポルトガルGPでのルクレール【写真:Ferrari】

さらに地元という意味ではイタリアが拠点のアルファタウリ・ホンダもピエール・ガスリーがポルトガルGPで5位入賞を果たしており、モンツァでのイタリアGPに続く地元での好レースに期待がかかる。

ポジティブな要素としてはコロナ禍のロックダウン後、F1スケジュールの再開前にアルファタウリ・ホンダはイモラでフィルミングデー枠を利用した走行を行なっていること。フリー走行からガスリーに注目したい。

アルガルヴェのポルトガルGPから連続のF1エミリア・ロマーニャGP。スタッフの疲労も蓄積してきている上に、イタリアでは感染拡大が続いている状況の中、ハードな2日間開催のレースとなる。展開が面白くなるかどうかよりも、とにかく無事に終わってくれることを祈りたいものだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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