アロンソが言うように「F1は世界で一番退屈なレース」なのか?彼がそう語る真意とは?

2021年、F1に復帰するフェルナンド・アロンソ(写真:ロイター/アフロ)

フェルナンド・アロンソが「F1は世界で一番退屈なモータースポーツ」と語った記事が話題になっている。

来季から2年ぶりにF1に復帰するアロンソがフランスの新聞「フィガロ」のインタビューに答えた記事を訳したものだが、日本ではTop Newsが『フェルナンド・アロンソ「F1は世界で一番退屈なモータースポーツ」』と題して公開し、Yahoo!ニュースにも転載されている。

アロンソが言うようにF1の人気は高い

上記の記事でアロンソが語った言葉の要点をピックアップすると、

・モータースポーツの注目の90%はF1に注がれている

・F1 はレース前から誰が勝つか分かっている

・F1は最高のモータースポーツ

・他のカテゴリーの方がファンにとっては見応えがある

という感じだ。

貴方の意見はどうだろうか?

Yahoo!ニュース掲載記事のコメント欄を見てみると、アロンソの意見に賛同するコメントから、F1以外のレースカテゴリーとの比較を考察したコメント、「じゃあ、なんでF1に戻ってくるんだ?」という類のツッコミまで様々な意見がある。

Yahoo!のコメント欄というとモータースポーツに詳しくない人の無理くりな書き込みもよく見かけるが、今回のコメント欄はF1以外のレースについてもある程度知っていないと書けない、深い意見が大多数を占める。読んでいてなかなか面白いコメント欄だ。

フランスの博物館に飾られている歴代のF1マシン【写真:DRAFTING】
フランスの博物館に飾られている歴代のF1マシン【写真:DRAFTING】

そして、アロンソの「モータースポーツの注目の90%はF1に注がれている」という意見を目にして、とある事を思い出した。私のようなYahoo!ニュースのオーサーを集めたセミナーで、講義したYahoo!の担当者が「意外にも人気があるニュースジャンルの一つ」として「F1」を挙げたのだ。

意外にも、という前置きはモータースポーツ関連の記事を執筆する私からすれば、失礼な!と思う部分もあったが、F1は地上波でも放送されていない、昔に人気があったスポーツと認識されていることも理解している。そう、世間的にはもう過去のモノに近い認識なのだ。

しかしながら、世間がそう認識していようとも、事実、F1の記事はとても人気がある。他のレースジャンルの記事に比べれば、F1関連記事の食いつきぶりは段違い。これは変えようのない事実でもある。

SUPER GTを走るニッサンGT-R【写真:DRAFTING】
SUPER GTを走るニッサンGT-R【写真:DRAFTING】

日本にはSUPER GTという興行的に成功しているレースがあるが、F1に比べれば全然反応が小さい。アクセス数は開示されないが、月曜日の朝にYahoo!ニュースのコメント欄のコメント数を見れば、その数はもちろんコメントの熱量の違いは一目瞭然である。

「モータースポーツの世界は非常に巨大だが、注目の90パーセントはF1に注がれている」というアロンソの意見はあながち間違っていない。

性能調整したレースが増加

「F1は世界で一番退屈なレースか?」と聞かれた場合、貴方ならどう答えるだろう?

私はちょっと答えに困ってしまう。確かに今季で言えばスペインGPのような退屈なレースもある(順位が変わらないのは恒例)。しかし、ピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)が下克上の優勝を成し遂げたイタリアGP、クラッシュが多発したムジェロでのトスカーナGPなど面白いレースがあるのも事実だから、一概に退屈とは言い切れない。

レッドブル・ホンダ【写真:DRAFTING】
レッドブル・ホンダ【写真:DRAFTING】

今季もメルセデスの独走で、シーズン前はレッドブル・ホンダに大きな期待がかけられていたが、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)はシルバーストーンでの70周年記念GPの1勝のみ。先日のロシアGPもレースが始まると2位のフェルスタッペンが優勝できそうな雰囲気はなかった。

確かにアロンソの意見の通り、F1はレース前から誰が勝つか分かっているレースかもしれない。ただ、これは歴史をふりかえれば今に始まった事ではなく、1988年にはマクラーレン・ホンダが16戦中15勝をしたり、2002年と2004年にはミハエル・シューマッハ(当時フェラーリ)が一人で年間13勝をマークしたりと、最強の巨人がシーズンを独占する事は何度もあった。

それぞれのチームが独自のマシンを製作し、コンピューター上で日夜シミュレーションし、マシンを進化させていくことが許されているF1。差が産まれるのは当然であるが、逆に言うと差があるからこそ、ガスリーのイタリアGPのようなジャイアントキリングに興奮できるのではないだろうか。

性能調整して戦うFIA GT3のレース【写真:DRAFTING】
性能調整して戦うFIA GT3のレース【写真:DRAFTING】

一方で、F1以外のレースを見てみると、コスト削減のために、同じ車体やタイヤを使うワンメイク化が進んでいたり、FIA GT3のレースやLM-GTEクラス(WEC)のように開発競争をさせないようにBoP(性能調整)を行なってポテンシャルを均一化するレースが大半を占めるようになってきた。

SUPER GTのように成績に応じてウェイトを積むサクセスハンディキャップを設けているレースもある。このようなイコールコンディションに近づけたレースや特定チームの独走を許さない哲学のレースでは、ファンは誰が勝つか分からないワクワク感を抱いてレースを見ることができる。そしてレース展開では、耐久レースが特に面白い。

そう考えると、今やF1だけが業界の異端児になっているのだ。2度のF1ワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソはそんなF1を離れ、インディ500に2度挑戦し、ル・マン24時間レースではトヨタで2度優勝をした。外を見てきたからこそ「他のカテゴリーの方がファンにとっては見応えがある」と感じるようになったのだろう。

アロンソも乗り、ル・マン24時間レースを戦ったトヨタTS050ハイブリッド【写真:FIA WEC】
アロンソも乗り、ル・マン24時間レースを戦ったトヨタTS050ハイブリッド【写真:FIA WEC】

アロンソの真意は?

「F1が退屈」というアロンソだが、来季からはアルピーヌ(現ルノー)からF1に復帰する。まだ2020年シーズンの真っ只中だが、英国・エンストンにあるルノーF1チームの拠点を先日訪問し、早くもF1でのレース活動にやる気を見せた。

当初2021年から開始予定だったF1の新レギュレーションはコロナショックで2022年からに延期されたが、アロンソはその移行期の中心人物となってアルピーヌの活動を支えていくことになる。

1978年のル・マン24時間優勝車、ルノー・アルピーヌA442A【写真:DRAFTING】
1978年のル・マン24時間優勝車、ルノー・アルピーヌA442A【写真:DRAFTING】

新規定はチーム間の実力に差が大きく生まれないようにコストキャップ(予算制限)が設けられているのも特徴。2022年はメルセデスとの差を一気に詰めるチャンスでもある。彼にとっては大仕事だ。

そして、アルピーヌは来年、LMP1クラスでレベリオンレーシングのレベリオンR13を流用してル・マン24時間レースに参戦することも発表されている。2度のウイナー、フェルナンド・アロンソ参戦も充分考えられる。

ただ、インディ500に関しては2019年予選落ち、2020年はテレビ中継にほとんど映らないまま21位完走という苦渋を味わっているだけに、世界三大自動車レースのトリプルクラウン(3冠)達成はF1での仕事を終えてからかもしれない。

フランスのフィガロの記事
フランスのフィガロの記事

それにしてもF1での最後の大仕事を前に、なぜ「F1は退屈」という発言をしているのだろう。フランスの新聞「フィガロ」の元になった記事を読むと分かるが、どうやらこれ、Amazon Prime Videoで始まるアロンソのドキュメンタリー「フェルナンド」のプロモーションを兼ねたインタビュー。

彼がここ数年で参戦したインディ500やル・マン24時間レースなどF1以外のレースの密着映像で構成されているようだ。日本での配信はまだアナウンスされていないが、彼がF1以外のレースにどう取り組み、何を感じてきたのか非常に興味深いし、退屈発言の真意はここにあるのかもしれない。

(Twitter: ドキュメンタリーの配信開始を伝えるアロンソのツイッター)