毎年秋に鈴鹿サーキット(三重県)で開催されている「F1日本グランプリ」が新型コロナウィルス感染拡大の影響で今年は開催されない。

昨年からホンダの好調も手伝って、世間の関心が再燃し、観客動員の増加を見込んでいた地元・鈴鹿市は中止のニュースに大きく落胆した。鈴鹿でF1が開催されないのは、日本グランプリの開催地が富士スピードウェイ(静岡県)に移っていた時(2007年〜08年)以来、12年ぶりとなる。

F1中止の経済損失の大きさ

F1は2020年シーズンをヨーロッパと中東の開催で完結させる計画だ。

日本では外国人が自由に出入国できないため、国際レースシリーズのF1が開催できないのは致し方ないことだが、毎年当たり前のようにあるビッグイベントの中止は地元に大きな影響を及ぼしている。

2019年のF1日本グランプリ【写真:DRAFTING】
2019年のF1日本グランプリ【写真:DRAFTING】

F1日本グランプリが地元の三重県にもたらす経済効果は119億4500万円、鈴鹿市には76億9200万円という試算がある。

この数字は2009年に「鈴鹿F1日本グランプリ地域活性化協議会」がまとめたリサーチによるもので、決勝日で16万人の観客を動員した2006年のF1日本グランプリのデータをもとにしているもの。2006年はミハエル・シューマッハの引退と最後の鈴鹿開催という見納めムードが重なり、最大級の観客動員を集めた年だった。

近年では決勝レース日の観客動員が8万1千人(2018年)と半減しており、経済効果は半分ほどではないかと推測されている。

鈴鹿F1日本グランプリ地域活性化協議会がまとめた報告書(鈴鹿F1日本グランプリ地域活性化協議会のホームページより)
鈴鹿F1日本グランプリ地域活性化協議会がまとめた報告書(鈴鹿F1日本グランプリ地域活性化協議会のホームページより)

F1日本グランプリが開催されないことで最も大きな痛手を被っているのはもちろん主催者である鈴鹿サーキットだが、F1 は県内最大のビッグイベントでもあるので、その準備に携わる建設業者やケータリング業者など多くの地元企業がその影響を受けることが上記のリサーチでも言及されている。

ホテルはF1中止の影響甚大

鈴鹿市でビジネスホテル「ストーリア」を経営するオーナー、水谷晃さんは「コロナが報道され始めた2月くらいの段階で、今年のF1開催は無理だろうと思っていました」と語る。

鈴鹿市でビジネスホテルを経営する水谷晃さん 【写真:DRAFTING】
鈴鹿市でビジネスホテルを経営する水谷晃さん 【写真:DRAFTING】

鈴鹿サーキット周辺のビジネスホテルを利用するのはほとんどがチームやメディアなどの関係者だ。レースの開催期間は3日間だが、準備撤収に関わるスタッフは約2週間に渡って連泊するため、予約のキャンセルはホテルにとって大きな痛手だ。

ストーリアには長年に渡ってF1日本グランプリを観戦している常連のお客さんも少数ながら宿泊するそうだ。

「私がフロントに立っていた時代に小さかったお子さんが大きく成長していたり、毎年会うのが楽しみなんですが、今年はお会いできないことが何より残念ですね」と水谷さん。

ただ、残念がってばかりもいられないので、水谷さんは前を向く。

「一度原点に戻るという感じですかね。来年開催されるとして、今までと同じというわけにはいきません。ホテルとしては非接触型のチェックインの導入なども検討しています」とF1関係者を受け入れるホテルとして準備を万全にしていくことを誓う。

「F1が開催されないのは、僕らはもちろん、この街にとっても大きな影響がある。改めてありがたみを感じています」

鈴鹿サーキットの広場を埋め尽くすF1の観客【写真:DRAFTING】
鈴鹿サーキットの広場を埋め尽くすF1の観客【写真:DRAFTING】

フェラーリが愛するレストランは?

F1日本グランプリ開催時は毎年、予約困難になる鈴鹿市で有名なイタリアンレストランがある。近鉄・平田町駅から徒歩8分の場所にある「YAMAKAWA」だ。

イタリア料理店YAMAKAWAのシェフ、山川裕之さん【写真:DRAFTING】
イタリア料理店YAMAKAWAのシェフ、山川裕之さん【写真:DRAFTING】

レストランを立ち上げて16年目というオーナーシェフの山川裕之さんはイタリア・フィレンツェで修行をした経験を持ち、イタリア語が堪能だ。そのため、食にこだわりの強いイタリア人が母国と同じ味を求めて、F1開催期間中に入り浸るお店なのだ。

2009年に鈴鹿にF1日本グランプリが戻ってきたあたりから、物販スタッフのイタリア人が利用するようになり、そこから口コミでイタリア人F1関係者に広がっていったという。

F1日本グランプリは山川さんにとって1年の中でも大切なイベントだ。

「今ではF1期間中はほとんどフェラーリの関係者かピレリのスタッフで貸切状態です。毎年イタリア人のお客さんがこうして来てくれるので、僕もイタリア語を使う機会があるから楽しいです」

昨年(2019年)のF1は特に忙しかった。台風の直撃で土曜日の予選が中止に。F1関係者はホテルで1日待機を命じられたが、F1チームが困ったのはその日の食事。鈴鹿市内のお店もほとんどが台風で休業していたため、イタリアの名門チーム「フェラーリ」は山川さんに1日の貸切を依頼。チームスタッフはホテルからバスのピストン輸送でYAMAKAWAへと向かい、食事をとったのだ。もちろんシェフ一人でまかない切れる数ではないので、厨房ではフェラーリ専属のシェフとの連携プレーで乗り切ったそうだ。

フェラーリのシェフと山川さん(写真提供:山川裕之さん)
フェラーリのシェフと山川さん(写真提供:山川裕之さん)

「今年はF1の売り上げが無いのは痛いですが、もう10年くらいイタリア人たちと交流しているので、友達と会えない寂しさの方が大きい。やっぱりイタリア料理を作っているからには本場のイタリア人にあーだこーだ言われたい。美味しいって言ってもらえたら嬉しい。お金じゃないんですよね」と山川さんはF1ロスを感じている。

2021年、果たしてF1がまた世界中を転戦するサーカスに戻れるのか?再び感染拡大が起こっている今、その雲行きは怪しくなりつつある。コロナは大きな経済効果や企業の売り上げだけでなく、人間が何年もかけて築き上げた交流も奪っていった。