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今見ておくべきレースはMotoGP!日本人ライダーの活躍で人気復活に一筋の光明?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
第2戦・アンダルシアGPで優勝した鈴木竜生(先頭)(写真:ロイター/アフロ)

2020年はMotoGP(ロードレース世界選手権)が熱い!新型コロナウィルス感染拡大でストップしていたシーズンが7月中旬のスペインGPから再開し、最高峰のMotoGPクラスから軽量級のMoto3クラスまで、どのレースもエキサイティングなレースが展開されている。

特に例年以上に観る者のテンションを上げてくれるのは日本人ライダーの活躍だ。3月の開幕戦・カタールGPで長島哲太がMoto2クラスで優勝、第3戦・アンダルシアGPでは鈴木竜生がついに今季初優勝を達成。近年にはない好調な滑り出しを日本人ライダーが見せている。

Moto3では6人の日本人が奮闘中

トップライダーへの登竜門、排気量250ccのMoto3クラスは今季、鈴木竜生(すずき・たつき)、小椋藍(おぐら・あい)、國井勇輝(くにい・ゆうき)、山中琉星(やまなか・りゅうせい)、鳥羽海渡(とば・かいと)、佐々木歩夢(ささき・あゆむ)という6人もの日本人ライダーが参戦しているが、その中心にいるのは鈴木竜生(SIC58 Scuadra Corse/ホンダ)だ。

アンダルシアGPで優勝した鈴木竜生【写真:本田技研工業】
アンダルシアGPで優勝した鈴木竜生【写真:本田技研工業】

22歳の鈴木は2015年からMoto3に参戦し、今シーズンは6年目のシーズンとなる。全日本ロードレース選手権での経験を経ずにいきなりヨーロッパを目指したライダーで、5年目となる昨年のサンマリノGPでMoto3クラス初優勝を達成。今季は遅咲きながらもMoto3のキャリアに「世界チャンピオン」の称号を付け加えたいシーズンだ。

鈴木はここまで3戦連続のポールポジションを獲得しており、一発の速さは折り紙つき。そこで今季初優勝できたことは自信になるはずで、今後のシーズンの流れが楽しみになってくる。

ホンダNSF250 RWで戦う鈴木竜生【写真:本田技研工業】
ホンダNSF250 RWで戦う鈴木竜生【写真:本田技研工業】

かつては日本人ライダーが得意としていた軽量級レースだが、日本人の世界チャンピオンは1998年の坂田和人(当時125ccクラス)が最後。それ以来、22年ぶりの快挙に期待がかかる。

もちろん、シーズンはまだ始まったばかりであり、チャンピオンの可能性があるのは鈴木だけではない。今季がフル参戦2年目の小椋藍(Honda Team Asia)はホンダが最も期待をかける19歳のライダーで、昨年はフル参戦初年度ながらアラゴンGPで2位表彰台を獲得するなど活躍。今季は開幕から3位、2位と連続表彰台という好調な滑り出しだ。あとは初優勝さすれば波に乗ってくるだろう。小椋の結果次第では日本人ライダーによるチャンピオン争いという、90年代後半を彷彿とさせるようなシチュエーションが巡ってくるかもしれない。

第2戦・スペインGPで2位表彰台を獲得した小椋藍【写真:本田技研工業】
第2戦・スペインGPで2位表彰台を獲得した小椋藍【写真:本田技研工業】

Moto2では長島がランキング首位

一方でMoto2(排気量765cc)に参戦する日本人ライダーは本格的なフル参戦は4年目となる長島哲太(ながしま・てつた)の1人だけ。

そんな長島は今季、開幕戦のカタールGPでいきなりキャリア初優勝を成し遂げると、第2戦も優勝争いに加わり、惜しくも2位フィニッシュ。第3戦・アンダルシアGPを終えた時点では2位のエネア・バスティアニーニに対して2点差でランキング首位となっている。

3月の開幕戦・カタールGPで優勝した長島哲太【写真:Red Bull】
3月の開幕戦・カタールGPで優勝した長島哲太【写真:Red Bull】

当初、長島は今季も昨年のチーム「SAG Team」からの参戦を決めていたが、年末に「Red Bull KTM Ajo」からのオファーを受け、チームを移籍した。同チームは近年ではヨハン・ザルコ、ミゲール・オリベイラ、ブラッド・ビンダーなど現役MotoGPライダーを多数輩出しているトップチーム。しっかりと実績を残しているチームに移籍するチャンスを掴み、それを結果につなげている。

日本人ライダーによる中量級クラスの世界チャンピオンは2009年の青山博一(当時250cc)が最後で、4ストロークのMoto2になってからは富沢祥也、高橋裕紀、中上貴晶らが勝利をしたものの、日本人はまだチャンピオンを獲得できていない。

上位クラスのMotoGPではすでに2021年のシートの多くが決まり始めているが、前半戦の好調ぶりはステップアップへの良い材料にもなるはずだ。

MotoGP中上は表彰台まであと一歩

そして最高峰クラスのMotoGPクラスには中上貴晶(なかがみ・たかあき)が参戦している。中上はMotoGPクラスに昇格して3年目のシーズンを迎えているが、2年目の昨年秋にライダーの職業病である「腕上がり」を防止するための手術を実施。今シーズンを万全に戦えるように準備を行ってきた。

MotoGPクラスに参戦する中上貴晶【写真:本田技研工業】
MotoGPクラスに参戦する中上貴晶【写真:本田技研工業】

ところが、新型コロナウィルス感染拡大でカタールGPの開幕戦はMotoGPクラスだけ中止に。開幕戦が7月にズレこんだことは、十分な回復期間が持てたということになる。

その中上は第2戦アンダルシアGPではフリー走行から好調。予選8番手からスタートし、自己最高位の4位でレースをフィニッシュした。開幕戦のスペインGPでマルク・マルケスをはじめ多くのトップライダーが怪我を負い、全員が万全な状況ではなかったにせよ、優勝のファビオ・クアルタラロから6秒差の4位は中上の初表彰台が現実味を帯びてきていることを物語っているといえよう。

日本人の最高峰クラス優勝は2004年日本GPで玉田誠が勝って以来、16年も遠ざかっている。今季はヤマハの復調もあり、優勝となると相当ハードルが高くなりそうだが、最高峰MotoGPクラスでは目立った成績なしで4年も5年もいられるほど甘くないのも事実。開幕戦・スペインGPでは全く良いところがなかった中上だが、同じサーキットで開催されたアンダルシアGPで見違えるような走りを見せたことはポジティブな要素。今後も中上の活躍から目が離せない。

中上貴晶の走り【写真:本田技研工業】
中上貴晶の走り【写真:本田技研工業】

このように3クラス共に日本人ライダーが活躍している今季の「MotoGP」。日本人ライダー全盛期の90年代にはよく見られた光景も、2000年代に入ってからはピンポイントでMoto2やMoto3で誰かが勝ち、一瞬だけ盛り上がり、その後トーンダウンというパターンが繰り返されてきた。

ただ、今年は2009年の青山以来となる日本人チャンピオン誕生の可能性は例年以上に高い。日本人ライダー復権に向け、まさに夜明け前といった感じの「MotoGP」シリーズ。海外にも行けない、日本グランプリも開催されない、こんな精神的にもハードな時だからこそ、日曜日の夜に彼らのレースで熱くなってはいかがだろう?

次戦は8月7日〜9日にブルノで開催されるチェコGPだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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