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F1ドライバーのガスリー出場決定!海外勢vs日本勢のスーパーフォーミュラ大決戦が見逃せない。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
スーパーフォーミュラのスタートシーン【写真:MOBILITYLAND】

2017年の「全日本スーパーフォーミュラ選手権」(以下、スーパーフォーミュラ)がいよいよ鈴鹿サーキット(三重県)でフィナーレを迎える。今年も2レース制、勝者には3点のボーナスポイントが与えられる「JAF鈴鹿グランプリ」がシリーズチャンピオン決定の舞台だ。

ランキング首位は石浦宏明

ストフェル・バンドーンがF1へとステップアップし、新たな刺客を迎えて始まった今シーズンの「スーパーフォーミュラ」。シャシー&エンジンが一新された2014年から現行規定の4年目ということもあり、チームを移籍せず、すでにマシンへの習熟も万全の経験者たちが優位に立つと考えられていた。しかしながら、6戦を終えて、今季もまた外国人ルーキー2人を含む8人のチャンピオン候補が争う大混戦ぶりとなっている。

石浦宏明(P.MU/CERUMO INGING)
石浦宏明(P.MU/CERUMO INGING)

その中でランキング首位に立つのは石浦宏明(P.MU CERUMO INGING/トヨタ)。2015年に同シリーズのチャンピオンに輝いた36歳のベテランだ。一度は国内トップフォーミュラのシートを喪失しながら、2014年に3年のブランクを経て復帰。翌2015年には元F1ドライバーも参戦する中で逃げ切ってチャンピオンに輝いた男が再び、追われる立場で最終戦に挑む。2015年の時は2位と6点差というマージンがあったが、今回は僅か0.5点しか差がない状況。初のチャンピオンに挑んだ2015年よりも逆転されるリスクが高く、スリリングなシチュエーションだ。

今季の石浦は全戦でポイントを獲得。2016年に念願のチームチャンピオンにも輝いた「P.MU CERUMO INGING」は常にポイント圏内でレースができる安定した力を見せており、石浦は表彰台こそ2回に留まっているものの、7月の第3戦では優勝も果たした。全7ラウンド9レースしか開催されない「スーパーフォーミュラ」でシリーズをリードする鉄則を貫いてのランキング首位はベテランらしい風格。チャンピオン経験者として外国のルーキーたちを迎え撃つ。

タイトル獲得を狙い参戦するガスリー

石浦の最大のライバルとなるのは今季から参戦しているフランス人ルーキーのピエール・ガスリー(TEAM MUGEN/ホンダ)。石浦を僅か0.5点差で追いかける昨年のGP2(現F2)チャンピオンはご存知の通り、「トロロッソ」から既にF1ドライバーとしてデビューしている。当然、来季またはシーズン途中からのF1昇格のための準備、悪い言い方をすれば「繋ぎの1年」として参戦したガスリーだが、様々な噂と報道が飛び交う中で最終的にはF1・アメリカGPには出場せずに「スーパーフォーミュラ」のタイトル奪取を選択した。

ピエール・ガスリー
ピエール・ガスリー

F1への昇格を夢見ていた彼にとってこれは複雑な選択だっただろう。カルロス・サインツのルノー移籍のニュースが流れたF1・日本GPでガスリーは常に晴れやかな表情とは言えなかった。「トロロッソ」のシートが完全に空いたアメリカGPは是が非でも出場したかったはずだ。しかし、「スーパーフォーミュラ」では8人のチャンピオン候補のうちトヨタエンジンユーザーが7人で、ガスリーはその中で唯一のホンダエンジンユーザー。彼のこの1年の受け皿となり、来季は「トロロッソ」にパワーユニットを供給し、さらに密な関係を築かなくてはいけないホンダにタイトルをもたらすことこそが彼の日本での最後のミッションとなる。

ピエール・ガスリー【写真:MOBILITYLAND】
ピエール・ガスリー【写真:MOBILITYLAND】

バンドーンに続くGP2チャンピオンとしてホンダ系トップチームの「TEAM MUGEN」から参戦したガスリーのマシンには「Red Bull」のカラーリングが施され、シーズン開幕前に大きな話題を呼んだ。テスト走行から速さを披露し、非凡な才能を見せつけるも、本番のレースでは振るわず。開幕から2ラウンドは僅か1ポイント獲得に終わってしまう。しかしながら、7月の富士からはようやくその実力の片鱗が結果となって現れ始め、2スペックのタイヤ使用が義務付けられたツインリンクもてぎで初優勝。そしてこちらも初レースとなったオートポリスでも連勝を成し遂げた。GP2王者に続き、スーパーフォーミュラでも王者に輝くとなれば、「トロロッソ・ホンダ」のシートは確約されたも同然だろう。

伏兵のローゼンクビストと関口

今季のチャンピオン候補は8人居る。「JAF鈴鹿グランプリ」は2レース制で行われるため1レースのポイントは半分となるが、各レースの優勝者にはボーナス3点が与えられ、さらに2レースともにポールポジション獲得の1点が加算されるため、2レースのフルマークは18点。石浦宏明(33.5点)、ピエール・ガスリー(33点)だけでなく、フェリックス・ローゼンクビスト(28.5点)、関口雄飛(25点)、中嶋一貴(22点)、アンドレ・ロッテラー(20点)、小林可夢偉(16.5点)、国本雄資(16点)までが計算上はチャンピオン候補だ。

決勝の1位と2位の差は4点と大きいため、自力でチャンピオンをもぎ取りにいけるのは石浦、ガスリー、ローゼンクビストの3人。ランキング4位の関口も予選でレース1、レース2ともにポールポジションを取り、2点加算すれば奇跡の大逆転チャンピオンの可能性が一気に広がる。

フェリックス・ローゼンクビスト
フェリックス・ローゼンクビスト

そんな中、石浦とガスリーが最も警戒しなくてはならないのはフェリックス・ローゼンクビスト(SUNOCO TEAM LEMANS/トヨタ)のスピードであろう。F3マカオGPの優勝2回、マスターズF3の優勝2回を誇るF3マイスターとして知られたローゼンクビストだが、昨年はアメリカの「インディライツ」に参戦してトロントで優勝。さらに2016-17シーズンの「フォーミュラE」にも参戦してドイツのベルリンで優勝。公道レースマイスターとしての一面を発揮した。

「スーパーフォーミュラ」への参戦は決定がギリギリになり、その実力は未知数だったが、第2戦・岡山の第2レースで表彰台を獲得してからは波に乗り、4レース連続の表彰台を獲得した。所属するチームはかつてラルフ・シューマッハや本山哲を擁し、フォーミュラニッポン初期を席巻した名門「チームルマン」。しかし、ここ最近は厳しい状況が続いていた。なんとすでに19年もトップフォーミュラのタイトルから遠ざかっているのだ。そのチームの立て直しに大いに力を発揮しているのがシーズン途中から起用された外国人エンジニアたちの存在である。ローゼンクビストのエンジニアとしてカナダ人のライアン・ディングルを、そして大嶋和也のエンジニアとして元フェラーリF1のスティーブ・クラークを抜擢。日本人エンジニアの常識にはない引き出しでライバルを出しぬこうという策だ。事実、シーズン中盤からのうなぎ登りっぷりが凄まじい。

仮にローゼンクビストが2レースともにポールポジションを獲得すると、石浦とのポイント差は3点に詰まり、そのまま優勝となれば1点以上リードのランキング首位でレース2を迎えられることになる。ローゼンクビストの予選で風向きが一気に変わる可能性もあるのだ。

関口雄飛
関口雄飛

そして、逆転の可能性が高いとは言えないが、ランキング4位の関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL/トヨタ)に風が吹く可能性も十分にある。今季は第2戦岡山のレース2、そして前戦の菅生で優勝。セットが決まった時には誰も寄せ付けない速さを持つ関口の命運は予選でほぼ決まると言っていい。そして、台風21号の接近に伴い、雨の予報が出ている今週末の鈴鹿では何が起こるかは分からない。日曜日は完全な雨予報となっており、雨量によってはレースが最後まで続行できるかどうか、ということも考えておかないといけない。だからこそ、予選が一発大逆転への道となる。

それぞれの思惑が交錯する最終戦「JAF鈴鹿グランプリ」。かつては日本のトップランカーに加えて海外からF2のトップドライバーを招聘して交流戦として開催された特別な意味を持つ伝統のイベント。まさにそのタイトルに相応しい日本と海外のトップドライバーによる戦いが楽しめそうだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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