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トヨタ、悲願の優勝なるか?「第85回ル・マン24時間レース」は見逃せない要注目のレース!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
FIA WECのLMP1クラス 【写真:FIA WEC】

5月末に米国で開催された「インディ500」(インディアナポリス500マイルレース)では佐藤琢磨が日本人選手として初優勝する快挙を成し遂げた。同レースと並んで「世界三大自動車レース」の一つに数えられる「ル・マン24時間レース」(フランス)でも日本人にとって喜ばしいニュースが届きそうな機運が高まっている。今年のル・マンの主役は「トヨタ」だ!

残り1周の悲劇を乗り越えて

多くのモータースポーツファンや関係者が喜びを爆発させる歓喜の瞬間を今か今かと待ちわびていたファイナルラップに入る目前、首位を走行していた「トヨタTS050ハイブリッド」5号車を悲劇が襲った。チェッカーを目前にしたトヨタ5号車をドライブする中嶋一貴から発せされた悲痛な無線。「アイ・ハブ・ノー・パワー(出力が無い)!」とピットクルーに伝えた中嶋は力なくスローダウンしていくマシンをホームストレートで停止させた。

その横を通過していく「ポルシェ919ハイブリッド」2号車。トヨタvsポルシェの24時間にわたるスリリングな死闘。首位を奪って逃げていたトヨタにとってあまりに残酷すぎる結果だった。なぜか勝てない、あと少しで勝てない。長年ル・マン24時間レースを見てきたファンなら、もう見たくはなかったシーンだった。トラブルの原因はターボチャージャーとインタークーラーを繋ぐ吸気ダクトの不具合だった。

その悲劇から1年、今季もトヨタはWEC(FIA世界耐久選手権)を戦っている。今年は2000年代の耐久王として君臨した「アウディ」が撤退し、総合優勝候補となる「LMP1」クラスは「トヨタ」と「ポルシェ」の2メーカーのみがワークス参戦している。そのWECの開幕2戦では「トヨタTS050ハイブリッド」が開幕2連勝を飾る好調ぶりである。

ライバルの「ポルシェ」もル・マン3連覇に向けて手綱を緩めているわけではない。シルバーストーンとスパ・フランコルシャンというF1も開催する常設サーキットで行われた前半2戦は通常はハイダウンフォース仕様のマシンで挑むのがセオリーだが、あえてル・マンを見据えたローダウンフォース仕様を投入して戦ってきた。ル・マンのために前半2戦はあえて割り切ってレースを行ってきたとも取れる。ただ、耐久王として18回の優勝を誇り、70年近いル・マン参戦の歴史を持つ「ポルシェ」の存在は侮れない。元F1ドライバーのマーク・ウェバーは引退したが、撤退した「アウディ」から3度の優勝経験を持つアンドレ・ロッテラーを招聘するなど体制は申し分ない。

ポルシェ919ハイブリッド【写真:FIA WEC】
ポルシェ919ハイブリッド【写真:FIA WEC】

3台体制で挑むトヨタ、史上最大の接戦に挑む

昨年の悔しさを晴らすべく、今年の「トヨタ」はこれまでの参戦体制で最も規模の大きい3台体制を敷く。7号車には小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ここに昨年同様にステファン・サラザンが再加入。小林可夢偉の強烈な速さが光る7号車は第2戦で不運にも勝利を逃したが、序盤からレースをリードすることは間違いない。

そして、昨年の悲劇を味わったメンバー、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビッドソンが乗る8号車は開幕から2連勝を飾っている。ドライバーラインナップも相性抜群のトリオが見せる集中力溢れるレースは、長く過酷な24時間耐久レースで最大の武器となる。

ル・マン市内で行われた公開車検【写真:トヨタ自動車】
ル・マン市内で行われた公開車検【写真:トヨタ自動車】

さらに9号車には昨年、国内のスーパーフォーミュラで王者になった国本雄資、WTCC王者のホセ・マリア・ロペス、さらにアグレッシブな走りのフランス人、ニコラス・ラピエールが復帰する。国本、ロペスにとっては初の24時間レース挑戦だ。

3台体制の「トヨタ」に対して2台の王者「ポルシェ」。事前に行われたテストデーでも「トヨタ」の速さが際立つ結果が見え、今のところ「トヨタ」優勢で24時間レースに向けたカウントダウンが進んでいる。今年、トヨタは勝てるか?

最高速が大幅上昇のP2クラスは25台

一発の速さは確かにライバルに対して心理的にもジャブを与えることができるが、これまでもそうだったように24時間レースは計算通りに行くレースばかりではない。ポルシェvsトヨタの戦いに影響を及ぼしそうなのが新規定になった「LMP2」クラスの存在だ。

LMP2クラスのG-DRIVE RACING 【写真:WEC】
LMP2クラスのG-DRIVE RACING 【写真:WEC】

「アウディ」の撤退でプライベーターの「バイコレス」を入れても6台に減少したLMP1クラスに対し、LMP2クラスの今年のエントリーは25台。数は昨年とあまり変わりはないものの、今季は全車が「ギブソン」製の4.2L・V8エンジンに統一され、600馬力のレーシングエンジンはLMP2クラス全体のスピードアップを促している。LMP1クラスをも凌駕するトップスピードが出ており、オーバーテイクするのに手間取るケースも出てくるだろう。

また、WEC参戦のレギュラーチームは「オレカ」(=アルピーヌ)のシャシーを多く使用しており、ほぼワンメイク状態で実力伯仲のレースが展開されているので、混戦必至の状況。彼らを度々オーバーテイクしていかないといけないLMP1クラスにとってはなかなかやっかいな状況だ。

激戦のLMP2クラスは今回、4つの指定コンストラクターが製作したシャシーが全てル・マンで登場する。ダラーラ、ライリー、オレカ(=アルピーヌ)、リジェのそれぞれのポテンシャルも興味深い。

元F1ドライバーなど多彩な選手ラインナップ

「インディ500」に参戦したフェルナンド・アロンソのように、現役のF1ドライバーがル・マンに参戦することは実現しなかったものの、小林可夢偉、中嶋一貴などル・マンには数多くの元F1ドライバーが参戦する。

今年の注目はルーベンス・バリチェロだ。F1最多出場記録を持つバリチェロはF1を引退後、母国ブラジルでストックカーのレースに参戦する今も現役バリバリの選手だ。そんなバリチェロがLMP2クラスの29号車「レーシングチーム・ネザーランド」から元F1ドライバーのヤン・ラマースらと参戦することになった。

さらに、「GTE Pro」クラスでは北米のウェザーテックスポーツカーシリーズから遠征のチップガナシのフォードGTに、スコット・ディクソン、トニー・カナーンら現役のインディカードライバーも参戦。

フォードGT 【写真:FIA WEC】
フォードGT 【写真:FIA WEC】

そして、国内からはLMP2に今季もELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)を戦うSUPER GTドライバーの平川亮が参戦。さらにGTE-Amクラスには加藤寛規、澤圭太もフェラーリで参戦し、日本人ドライバーは合計6人のラインナップとなる。日本人ドライバーのクラス優勝あるいは表彰台獲得の可能性も高い。

今年は国内初の24時間・生中継

近年は「トヨタ」の参戦で注目を浴びるものの、かつてのようになかなか一般レベルにまで浸透してはいない「ル・マン24時間レース」。今年はスポーツ局「J SPORTS」が同社初の24時間完全生中継を実施する。実はYahoo!ニュースオーサーの私もル・マンに飛び、現地から実況アナウンサーとして携わることになった。有料放送とはいえ、24時間の完全生中継は国内初のことになる。

また、今年は「トヨタ」がTOYOTA GAZOO RACINGのウェブサイトで「J SPORTS」の放送の一部を無料で配信する。スタートとゴールももちろん配信されるので、24時間テレビにかじりつきが難しい人もスマートフォンなどで視聴できるので是非とも今年は「ル・マン24時間レース」の興奮を楽しんで欲しい。

「第85回ル・マン24時間レース」は現地時間の6月17日(土)午後3時(日本時間:同日午後10時)にスタートする。マツダ以来、26年ぶりの歓喜の瞬間は現実となるか?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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