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4メーカー激突!世界が羨むワークス級マシン対決の舞台、全日本JSB1000がいよいよ開幕!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2017年を戦うカワサキ、ヤマハ、スズキ、ホンダのJSB1000マシン

FIM世界耐久選手権・第2戦「ルマン24時間レース」の取材を終えて日本に帰国した。いよいよ今週末は鈴鹿サーキットで、全日本ロードレース選手権「JSB1000」クラスの開幕戦が行われる。

ルマン24時間を観戦するファン
ルマン24時間を観戦するファン

ルマンでは「ヨシムラ」「スズキ」などの片仮名のロゴがプリントされたウェアを着た現地のレースファンを数多く見ることができた。日本のメーカーのバイクに乗り、ウェアを着て、応援団の代表者はメーカーの旗を持って観戦するヨーロッパの人々。それだけ日本のメーカーのオートバイはヨーロッパの人々から熱狂的に愛されている。彼らが応援する耐久レースのライダー達が操るバイクは多くが「キット」と呼ばれる市販のレース用パーツを装着したマシンである。華やかなサーキットの雰囲気ではあるが開発したてのパーツが組み込まれたマシンは実は少ない。

2017年のルマン24時間レース
2017年のルマン24時間レース

それが、国内最高峰の全日本ロードレース選手権「JSB1000」クラスに目を向けて見ると、ここには4メーカーが力を注いだ最新のバイクが供給されたトップチームが戦っている。メーカー直属のファクトリーチーム(ワークスチーム)が参戦し、ファクトリーマシンも走る。日本のメーカーが直接携わり、フィードバックされ、さらに最新のパーツが届く全日本JSB1000の環境は、ルマンを戦うライダーにとっても一度は乗ってみたい、戦ってみたい別世界なのだ。

4メーカーの最新マシンが激突

4月22日(土)23日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で開幕する全日本JSB1000。今季は全メーカーのマシンが最新型となり、新世代バイクの戦いとなるということで例年以上に期待値が大きい。主要チームの多くが2台のエントリーに体制強化し、データの共有とフィードバックを行う。夏の「鈴鹿8時間耐久ロードレース」がその延長線上にあり、今年は40回記念大会という大きな節目で注目度が高いからだ。

2016年 JSB1000開幕戦のスタート【写真:MOBILITYLAND】
2016年 JSB1000開幕戦のスタート【写真:MOBILITYLAND】

今季からスズキが「GSX-R1000」を完全リニューアルの新型に、ホンダが新時代に向けたリニューアル版ともいえる「CBR1000RR Fireblade SP2」を、さらにカワサキがメインモデルの進化版「ZX-10RR」を投入する。対抗するチャンピオンのヤマハは一足先にデビューして連覇した新世代マシン「YZF-R1」をYAMAHA FACTORY RACING TEAMが進化させ続けている。新時代の覇権をリードするのはどのメーカーなのか、今年ほど全日本JSB1000のレース結果を世界が気にかける年はないと言えるだろう。

高橋巧が駆るホンダCBR1000RR Fireblade SP2(テスト車両)
高橋巧が駆るホンダCBR1000RR Fireblade SP2(テスト車両)

4メーカー主要チームの布陣

今季のJSB1000は2台体制を取るチームが増加していることで、選手層がこれまで以上に厚くなっているのが特徴だ。主要チームのラインナップを改めて見ていこう。

【ヤマハ】

YAMAHA FACTORY RACING TEAM

1 中須賀克行(全日本JSB 1位/鈴鹿8耐優勝)

5 野左根航汰(全日本JSB 5位/鈴鹿8耐4位)

YAMALUBE RACING TEAM

9 藤田拓哉(全日本JSB9位/鈴鹿8耐4位)

【ホンダ】

MuSASHi RT HARC-PRO

634 高橋巧(全日本JSB 3位/鈴鹿8耐リタイア)

MORIWAKI MOTUL RACING

72 高橋裕紀(全日本JSB 14位)

88 清成龍一(英国スーパーバイク参戦/鈴鹿8耐6位)

Honda Dream Racing

104 山口辰也(全日本JSB 4位/鈴鹿8耐11位)

Team SuP Dream Honda

79 伊藤真一

au&テルル Kohara RT

090 秋吉耕佑(全日本JSB 11位/鈴鹿8耐10位)

【スズキ】

ヨシムラMOTULレーシング

12 津田拓也(全日本JSB 2位/鈴鹿8耐3位)

50 濱原颯道(鈴鹿8耐49位)

Team KAGAYAMA

71 加賀山就臣(全日本JSB 8位/鈴鹿8耐6位)

94 浦本修充(全日本J-GP2 1位/鈴鹿8耐6位)

【カワサキ】

Team GREEN

23 渡辺一馬(FIM EWC 7位/鈴鹿8耐18位)

46 松崎克哉(全日本ST600 6位/鈴鹿8耐リタイア)

87 柳川明(全日本JSB 12位/鈴鹿8耐2位)※2017スポット参戦

※ ()内は2016年の成績、メーカーの主力チームのみ抜粋

一部のみの抜粋だが優勝を狙えるファクトリー系と表現されるメーカーが力を入れるチームとライダーだけでも数年前に比べて倍増した印象だ。これらトップチームはそれぞれに提携する国内外のパーツメーカーが提供する部品を装着し、17インチの現在進行形で開発中のタイヤを装着し、それぞれ異なるパッケージで戦うことになる。今季はシーズンを通じて様々なドラマが展開されるだろう。

新型GSX-R1000の開発テストを行うヨシムラの津田拓也
新型GSX-R1000の開発テストを行うヨシムラの津田拓也

開幕戦は35周、200kmの戦い

MORIWAKI MOTUL RACINGの清成龍一
MORIWAKI MOTUL RACINGの清成龍一

昨年に続き、今季も開幕戦の鈴鹿は「鈴鹿8耐」の前哨戦と位置付けられ、「鈴鹿200km」としてルマン式スタートのセミ耐久レース形式で行われる。2人のライダーで組むことができるルールだが、上記の主要チームの中ではMORIWAKI MOTUL RACINGだけが高橋裕紀/清成龍一のペア参戦となる。

開幕からの200km耐久はいきなりの長丁場だ。もちろんマシンが熟成されているヤマハ陣営は問題ない。しかし、新型マシンを投入するスズキとホンダにとってはマシンの性能を推し量るという意味では未知の領域での実戦となる。ZX−10RRとなるカワサキは熟成されたマシンの進化版であるが、ライダーがホンダから移籍の渡辺一馬、そして新人の松崎克哉であるため、2人ともレース後半はマシンとの対話に加えて自分との戦いを強いられる難しい局面も待っている。

カワサキのTeam Greenに移籍した渡辺一馬
カワサキのTeam Greenに移籍した渡辺一馬

そういう意味では開幕戦のフォーマットは今年もヤマハが有利だろう。ただ、ライバルとしては鈴鹿8耐を見据えてもこれほどチャレンジしがいのある戦いもなく、新パッケージで打倒ヤマハを掲げて開幕戦から勝負を挑んでくるはずだ。その中で、スズキの津田拓也、ホンダの高橋巧の2人は特に注目したい。ここ数年、オールドスクールなマシンでヤマハの中須賀に完敗状態の悔しさを何としてでも晴らしたいだけに、序盤からどんなレースを展開するか注目。

YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行
YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行

また、同じヤマハのファクトリー入りを果たした野左根航汰が中須賀と互角の速さを見せられるかも興味深い。おそらく序盤のトップ争いは昨年同様に数台が入り乱れあってのレースになるだろう。王者、中須賀克行の真骨頂はバックマーカー(周回遅れ)が現れた時に一気にライバルを突き放す、逃げの走りになってからだ。特に鈴鹿の西コース区間、日立オートモティブシステムズシケインの中須賀の速さはピカイチ。ひとたび前に出ると誰も簡単にはパスできない速さがある。

しかし、今季は全員が同一の不確定要素も持つ。それは17インチに統一されたタイヤだ。トップチームに16.5インチタイヤが投入されていた昨年までと違い、各メーカーは17インチタイヤを日進月歩で急速に進化させている。いわゆるデータを取るための開発テストというフェーズを既に終了し、勝つための進化段階に入っており、200km耐久の中で新タイヤの使い方をモノにしたライダーがレース後半の主導権を握ることになるだろう。ありとあらゆる要素が絡み合い、ライダーの経験と技がいろんな場面で垣間見える、非常に興味深い戦いだ。

執筆時点での決勝レース時の天気予報は晴れ。最高気温は20度に達する予報が出ており、日差しが強ければ路面温度もそれなりに上昇するだろう。「鈴鹿8耐」の戦いを占う上でも楽しみな要素満載の開幕戦がいよいよ始まる。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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