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【全日本ロードレース】中須賀が貫禄の5連覇。2017年は新世代マシン登場で変化に富むシーズンに?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
7度目の最高峰クラス王者に輝いた中須賀克行

「全日本ロードレース選手権」の最高峰JSB1000クラスの2016年シーズンは「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の中須賀克行(なかすが・かつゆき)が開幕戦から他を寄せ付けない速さで勝利を重ねてチャンピオンに輝いた。中須賀は最高峰クラス7度目のチャンピオン、そして連続チャンピオンの記録を5年連続へと伸ばした。「鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」の昨年に続いての連覇と合わせて、全日本チャンピオン中須賀は今、ライダーとして最盛期を迎えている。

最終戦で見せつけられた王者・中須賀の強さ

今季の中須賀克行の圧勝は関係者もファンも大方の予想通りと言ったところだろう。2015年は新型「ヤマハYZF-R1」投入となった開幕戦を2位で終えたのを除いて、その後は連勝街道を突っ走ってのチャンピオン獲得。新型マシンにありがちなトラブルやセッティングの迷い道に入ることもなく完璧なシーズンを送ったヤマハと中須賀のポテンシャルは誰もが認めるところだった。

中須賀克行【写真:MOBILITYLAND】
中須賀克行【写真:MOBILITYLAND】

2016年、カワサキが新型「カワサキZX-10R」を投入したこと以外はヤマハと中須賀をキャッチできそうな勢力図変化の要素は少なかった。ましてや近年は事前のテスト走行もほとんどないままに新たなシーズンを迎えることが多いJSB1000クラス。耐久レース形式で行われた開幕戦・鈴鹿200kmレースでは中須賀が巧みな駆け引きを展開して優勝。その後も昨年以上の強さで他を圧倒し続けた。

ただ一つ、中須賀に土がついたのが5戦目となる岡山国際サーキット戦のレース2。雨のレースとなり、ホンダのプライベーター「TOHO Racing」の山口辰也(やまぐち・たつや)が優勝。中須賀は3位に入賞するもパーフェクトなシーズンを達成できなかったことに悔しさを滲ませた。

JSB1000 最終戦のトップ争い 【写真:MOBILITYLAND】
JSB1000 最終戦のトップ争い 【写真:MOBILITYLAND】

そしてチャンピオン争いを持ち越した最終戦・鈴鹿にはカワサキの刺客として「Team GREEN」からレオン・ハスラムが参戦。テストからいきなりトップタイムをマークするなどハートの強さを見せつける。中須賀はスポット参戦のライダーに勝たせてはならないと強い気持ちで挑み、予選では第1レースのポールポジションを獲得。決勝レースではレース1、レース2共にレオン・ハスラムらとビッグバトルを展開し観客を沸かせるが、両レースともにひとたび先頭に躍り出てからの中須賀の速さは誰も止められない領域だった。

中須賀はスタートから集団に加わり、落ち着いてレースを展開。背後から相手に強烈なプレッシャーを与え続け、ミスを誘い出す。相手がミスしないなら、地の利で勝るライダーらしく鈴鹿のチャレンジングなポイントで一気に差を詰めていく。特に中須賀のシケインのコーナーリングと脱出スピードは一級品で、映像で見て誰もが分かる芸術的なもの。王者ならではといえるレースを披露し、最終戦・鈴鹿はパーフェクトな2連勝を飾り、シーズン7戦中6勝。2016年もまた中須賀とヤマハのシーズンとなった。

ファクトリーチームの強さを見せたヤマハと中須賀【写真:MOBILITYLAND】
ファクトリーチームの強さを見せたヤマハと中須賀【写真:MOBILITYLAND】

変化に富む2017年シーズン。タイヤの変化

2年間に渡り、新型ヤマハYZF-R1と中須賀克行が席巻した「全日本ロードレースJSB1000」と「鈴鹿8耐」。2017年もこの組み合わせの強さと速さは変わらないだろう。ただ、2017年シーズンに向けては大きな変化がある。キーワードは「17インチタイヤ」「新世代バイク」だ。

来シーズンから全日本JSB1000、鈴鹿8耐(FIM世界耐久選手権)ともに「17インチタイヤ」の使用が義務付けられる。これまで各メーカーのファクトリー級のチームにはホイール径が小さくゴムの面積が大きい=グリップ力の高い「16.5インチ」タイヤをタイヤメーカーから特別に供給されていた。それが全車17インチに統一される。

ブリヂストン17インチタイヤを開発してきたMoto Map SUPPLY
ブリヂストン17インチタイヤを開発してきたMoto Map SUPPLY

ブリヂストン(BS)とダンロップ(DL)が覇権を争うJSB1000。タイヤはバイクレースの世界でも最重要ファクターである。今季はスズキの「Moto Map SUPPLY」(今野由寛)がBS、ホンダの「MORIWAKI RACING」(高橋裕紀)がDLの17インチタイヤを先行開発という形で実戦テストをしてきた。最終戦・鈴鹿のタイムを見てみよう。今野(BS)の予選が2’08”091、決勝レース2のベストが2’09”636。高橋(DL)の予選が2’09”868、決勝レース2のベストが2’10”358。開発中のタイヤではあるが、現状の16.5インチよりも3〜4秒遅いペースとなり、しばらくはラップタイムが今年よりも落ちるだろう。

ただ、2社が争っているからには競争激化が当然であり、カワサキ「Team GREEN」のように全日本JSB1000で2台体制を敷いてデータの取得と共有を行うメーカーが他にも出てくる可能性がある。タイヤが変化することは「鈴鹿8耐」を見据えても重要な要素であり、各チームは必然的にさらなる体制強化が求められるシーズンとなる。

新世代バイクが出揃う。ライダーの移籍も?

また、2017年はスズキが完全新設計の新型「スズキ GSX-R1000」を、ホンダが「ホンダ CBR1000RR Fireblade SP2」を導入するため、これでヤマハ、カワサキと合わせて新世代のバイクが出揃うことになる。MotoGP由来の電子制御で武装されたスーパーバイクが登場することで、その覇権争いは全日本、鈴鹿8耐において非常に激しいものになっていくだろう。体制強化はヤマハ、カワサキにとっても必要であり、来季に向けてはライダーの移籍も噂されている。

ホンダのレースベースとなるCBR1000RR SP2 【写真:本田技研工業】
ホンダのレースベースとなるCBR1000RR SP2 【写真:本田技研工業】

まず、チャンピオンの中須賀克行の来季のプランも気になるところだ。MotoGPの開発ライダーでもある中須賀はJSB1000チャンピオン獲得後もMotoGPフル参戦などの海外へのステップアップは表立って言及してこなかった。ただ、来季に向けては記者会見で「I Hopeという意味で」とエクスキューズをしながらも海外進出の可能性もゼロではないことを伺わせた。来季に向けたMotoGPはすでにテストがスタート、スーパーバイク世界選手権はすでにアレックス・ロウズとマイケル・ファン・デル・マークでシートがフィックスされているのが現状だ。

カワサキは若手のホープとされた渡辺一樹(わたなべ・かずき)が今月、「Team GREEN」からの離脱を発表。去就は明らかにされていないが、渡辺の抜けたシートを誰が獲得することになるのか最終戦のレースウィークでも様々な噂が飛び交っていた。来季に向けて久しぶりにメーカーの枠を超えて移籍してくるライダーが現れそうだ。鈴鹿8耐2位表彰台の立役者であり、最終戦でも活躍したレオン・ハスラムも再度の全日本参戦を希望していたが。

Team GREENを離れることになった渡辺一樹。
Team GREENを離れることになった渡辺一樹。

スズキは既に新型「スズキ GSX-R1000」のテストをスタート。すでに津田拓也(つだ・たくや)がテストで乗っているという。BSを使うヨシムラスズキに対し、DLユーザーの「Team KAGAYAMA」もオーナーでもある加賀山就臣(かがやま・ゆきお)が軸なのは変わらないだろう。ただ、3人のライダーで組むことが定石の「鈴鹿8耐」という意味で、スズキ勢はMotoGPと全日本JSB1000が主戦場であり海外のスズキ系ライダーの選択肢が潜在的に限られている。そんな中で新型マシン、新タイヤとなる新しいシーズンでニュートラルに考えられる日本の若手にもトップチーム入りのチャンスが巡ってくるかもしれない。

そしてホンダは進化版とも言える新型「ホンダ CBR1000RR Fireblade SP2」を投入する。久しぶりのリニューアルとなり、そのポテンシャルに期待が高まるが、ホンダにとって最大の至上命題は「鈴鹿8耐の王座奪還」である。来年の「鈴鹿8耐」は40回記念大会であり、FIM世界耐久選手権の最終戦となる話題の多いレース。3年連続で他メーカーに王座を持って行かれるニュースは何が何でも阻止したいだけに、本気で体制を整えて来るはずだ。

FIM世界耐久選手権では「F.C.C. TSR Honda」が一足先に新シーズン(2016-17シーズン)をスタート。藤井正和総監督はCEVレプソル(スペイン選手権)を戦うフランス人、アラン・テシェをFIM世界耐久選手権のレギュラーに起用することをブログで言及。全日本へのTSRの参戦の有無、鈴鹿8耐の新型のファクトリーマシンを得るチームも含めてまだホンダの体制は謎に包まれている部分が多い。なお、大きな話題としては今季DLの17インチタイヤ開発を担った名門「MORIWAKI RACING」が2017年から鈴鹿8耐に復帰する。

2017年、鈴鹿8耐に復帰するモリワキ
2017年、鈴鹿8耐に復帰するモリワキ

全メーカー、主だった大きな発表はまだないが、来年は鈴鹿8耐が40回記念大会であること、海外にも配信されるFIM世界耐久選手権の最終戦になること、新世代のバイクが出揃うファーストシーズンであること、そしてタイヤが17インチ統一となり勢力図に変化が起きる可能性があることなど複雑な要素が絡み合い、ストーブリーグは例年になく動きがありそうだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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