世間がまだ知らない、『鈴鹿8耐』の現在(いま)。日本のバイクの祭典は世界から注目されるイベントへ。

鈴鹿8耐を戦う世界王者ニッキー・ヘイデン 【写真:MOBILITYLAND】

7月28日(木)〜31日(日)までの4日間、三重県の鈴鹿サーキットでオートバイの耐久レース「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐)が開催される。今年で39回目の大会となり、真夏の太陽光線が降り注ぐ中、68台のバイク、180人以上のライダーが灼熱の8時間耐久レースを戦う。

「若者のお伊勢参り」と言われた夏フェスの現在

「バイクの祭典」と形容される「鈴鹿8耐」は1978年(昭和53年)に始まった。オイルショック(石油危機)の影響と環境問題への対策に自動車メーカー、バイクメーカーは奔走せざるをえず、主だったモータースポーツ活動を自粛していた時代だった。

ホンダ創業者の本田宗一郎の強い思い入れから1962年に誕生した「鈴鹿サーキット」。今では考えられないが、1970年代当時の鈴鹿ではF1はおろかバイクの世界選手権も開催されておらず、モータースポーツの競技人口も非常に少ない冬の時代だった。

第1回「鈴鹿8耐」優勝のヨシムラスズキ【写真:MOBILITYLAND】
第1回「鈴鹿8耐」優勝のヨシムラスズキ【写真:MOBILITYLAND】

その打開策、そして世界選手権レースの誘致を目指して新たなトライとして始まったのが「鈴鹿8耐」である。排気量もまちまちのバイクが耐久レースに参加する、まさに「ごった煮耐久レース」として始まったが、1980年の第3回大会からは世界耐久選手権の1戦に昇格。時を同じくして日本に「バイクブーム」が起こり、オートバイを所有することが若者のファッションになっていった。さらに、漫画『バリバリ伝説』などバイクレースを舞台に描いた作品が数多くヒットし、夏休みは自分のバイクに乗って鈴鹿8耐に行くことが一つのカルチャーになり、作家の五木寛之はこの様子を「若者の現在のお伊勢参り」と表現。1980年代の「鈴鹿8耐」は隆盛を極めた。

鈴なりの大観衆が集った90年【写真:MOBILITYLAND】
鈴なりの大観衆が集った90年【写真:MOBILITYLAND】

まさに夏の野外音楽フェスティバル(夏フェス)のような存在になった「鈴鹿8耐」だが、観客動員数は1990年の16万人(決勝日)をピークに2000年代にかけて下降線を辿ることになる。これは国内のオートバイ新車販売台数の減少とほぼ同じタイミングで下降線を描いており、オートバイ人口の減少は「鈴鹿8耐」に大きな打撃を与えた。

ただ、リーマンショック後2009年の9.4万人(週末合計)をボトムに近年は12万人(週末合計)の動員にまで回復。昨年(2015年)の決勝レースは6.8万人の観衆が来場するなど人気は年々回復傾向で、今年もチケットの売れ行きは好調だと聞いている。近年の観客動員の数字を寂しがるファンも多いが、そもそもスポーツイベントとしては5万人以上の観客動員を記録する時点でメガイベントといえる。サッカー日本代表戦ですら最高観客動員記録は昨年の鈴鹿8耐の6万8000人とほぼ同等の6万7354人だそうだ数字:日本サッカー協会ウェブサイトより引用)。

メーカーチーム復活、世界のトップライダーが鈴鹿に

かつて大ブーム期の「鈴鹿8耐」にはホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4大オートバイメーカーが「ファクトリーチーム(ワークスチーム)」と呼ばれる「メーカー直属チーム」を参戦させ、その覇権を争っていた。優勝を狙う各メーカーが「ロードレース世界選手権」(現在のMotoGP)からトップライダーを招聘。「鈴鹿8耐」は憧れのライダーが参戦する特別な耐久レースとして注目されていく。

近年は減少傾向にあった現役MotoGPライダーの参戦だが、2015年の第38回大会で潮目は大きく変わることになった。2度の世界王者、ケーシー・ストーナー(オーストラリア)がホンダから参戦。さらにヤマハからはポル・エスパルガロ(スペイン)、ブラッドリー・スミス(イギリス)ら現役のMotoGPライダーがシーズンの途中であるにも関わらず、灼熱の鈴鹿8耐に参戦し、流石は世界のトップライダーとファンを唸らせる好タイムをマークしてみせるなど、大きな話題を呼んだ。

MotoGPライダーのポル・エスパルガロ【写真:MOBILITYLAND】
MotoGPライダーのポル・エスパルガロ【写真:MOBILITYLAND】

さらに昨年から「ヤマハ」がフラッグシップモデル「YZF-R1」が新型モデルになったのを機にファクトリーチームで参戦。ポル・エスパルガロブラッドリー・スミス、そして名ライダー平忠彦の3連覇の記録を超えた中須賀克行(なかすが・かつゆき)が乗り、ファクトリーチーム復帰初年度から優勝。ヤマハが19年ぶりに鈴鹿8耐の頂点に返り咲いた。

現在のところ表立って「ファクトリーチーム」を名乗るのはヤマハだけであるが、ホンダ、カワサキ、スズキも各主要チームが優勝を狙えるマシンを用意し、今年もホンダに元世界王者のニッキー・ヘイデン(アメリカ)、ヤマハに連覇を狙うポル・エスパルガロなど各メーカーが世界選手権の猛者たちを擁して優勝を争う。オートバイの販売台数増加と共に各メーカーの国内プロモーション予算も増加傾向で、1980年代から90年代のような各メーカーが火花を散らし合う活気が「鈴鹿8耐」に戻ってきているのだ。

2016年最大の注目はニッキー・ヘイデンの参戦
2016年最大の注目はニッキー・ヘイデンの参戦

ヨーロッパ人たちが認めた鈴鹿8耐の価値

近年の「鈴鹿8耐」は各メーカーの主力チームの実力が接近し、レースは昔に比べても面白い。だが、いくらそのレースの面白さを伝えようとも「昔の8耐は盛り上がっていた」「あの頃は良かった」といった若き頃の思い出に浸り、現在の鈴鹿8耐の盛り上がりに目を向けようとしない人が多いのも事実だ。

鈴鹿8耐合同テストで牽制し合うヨシムラスズキとカワサキチームグリーンの2台
鈴鹿8耐合同テストで牽制し合うヨシムラスズキとカワサキチームグリーンの2台

とはいえ、今、鈴鹿8耐は変わろうとしている。

2015年の第38回大会はヨーロッパのスポーツテレビ局「ユーロスポーツ」が世界84カ国に生中継を実施。「鈴鹿8耐」(SUZUKA 8 HOURS)は一気に世界的な注目を集めるレースとなった。これまでも海外で一部のファンや関係者に知られていた「鈴鹿8耐」だったが、海外への中継映像の配信は存在しなかった。近年は世界選手権ライダーがSNSを通じて8耐参戦の模様をレポートしていたのでヨーロッパでもテレビ中継が切望されていた。そんな状況も後押ししたといえよう。

キアヌ・リーブスを呼んだのもユーロスポーツ【写真:MOBILITYLAND】
キアヌ・リーブスを呼んだのもユーロスポーツ【写真:MOBILITYLAND】
ユーロスポーツのリベイロ氏【写真:MOBILITYLAND】
ユーロスポーツのリベイロ氏【写真:MOBILITYLAND】

この東洋の耐久レース「鈴鹿8耐」に「ユーロスポーツ」は熱い視線を注いでいる。「鈴鹿8耐」もシリーズ戦に含まれる「FIM 世界耐久選手権」のシリーズプロモーターに就任した同局は、来年(2017年)の「鈴鹿8耐」(第40回大会)をシリーズ最終戦にするという発表を行った。

来年の「鈴鹿8耐」は40回目の記念大会であるが、2016年9月から年をまたいで行われる「FIM世界耐久選手権2016-17シーズン」のグランドフィナーレを飾る大会となることが決定している。

動画:ユーロスポーツ製作の「鈴鹿8耐」プロモーションビデオ

鈴鹿が40年培ったオリジナルの価値

日本国内での「鈴鹿8耐」への関心とは無関係に、ヨーロッパ人たちは「鈴鹿8耐はフィナーレに相応しいイベントだ」と価値を見出した。その最大の理由は「午前11時30分スタート、午後7時30分ゴールの8時間耐久レースという変わらぬ伝統」にある。「鈴鹿8耐」は他の耐久レースと違い、昼間の熱い中スタートし、夕刻を迎え、最後は夜間にライトを点灯させてゴールを目指す。そして、ゴール後に打ち上がる大輪の花火が勝者を祝福し、ファンが表彰台を取り囲む。ヨーロッパには無い雰囲気の盛り上がりぶりに、彼らはいたく感動したのである。

ユーロスポーツ製作の「鈴鹿8耐」予告編ビデオ (英語)

夕刻の時間の美しさは感動的だ【写真:MOBILITYLAND】
夕刻の時間の美しさは感動的だ【写真:MOBILITYLAND】

ずっと当たり前に40年近く続けてきた「鈴鹿8耐」の8時間の時間軸。そして、耐久レースを戦うバイクは多くが日本製のバイクであり、そのお膝元のレースだけにファクトリーチームが参戦、現役MotoGPライダーが華を添えるという特別感がある。時代に合わせて何でも新しいものに変えてしまおうとする日本人の感覚とは対照的に、ヨーロッパの人々は長く続けることに価値を見出す。観客が減少傾向にあった時代にも鈴鹿サーキットは決してこのイベントを辞めようとも、コンセプトから全て変えようともしなかったことが「鈴鹿8耐」が海外から注目される現在(いま)を作り出しているといえよう。

花火とレースの融合も8耐成功の鍵だった【写真:MOBILITYLAND】
花火とレースの融合も8耐成功の鍵だった【写真:MOBILITYLAND】

「ユーロスポーツ」は「FIM世界耐久選手権」へ日本のライダー、日本のトップチームが年間を通じて参戦することを望んでいる。今後、各メーカーの「スーパーバイク」(排気量1000ccクラスのスポーツバイク)が排ガス規制やABS装着を義務化した「EURO4」に対応した新世代バイクの時代へと移行する。そのため、この秋にもホンダ、スズキが新型のベース車両をリリースし、各メーカーのマシンが全て新型モデルになると予想される。ヤマハだけでなく、ホンダ、スズキ、カワサキがファクトリーチームを名乗り社運をかけて参戦する機運も高まってくるだろう。また、あの激戦の時代が帰ってくるかもしれない。

今年で39回目を迎える伝統の「鈴鹿8耐」。国内では「BS12トゥエルビ」が7月31日(日)の決勝レースの模様を生中継する。今からでも遅くはない。心のギアをニュートラルに入れてから、テレビやサーキットで「鈴鹿8耐」の現在(いま)を感じてみてはどうだろうか。

公式テレビ放送:BS12製作の予告編