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【F1】変化の少ない2016年シーズンをどう楽しむか。マクラーレン・ホンダにチャンスはあるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2015年のマクラーレン・ホンダ (写真:ロイター/アフロ)

新チーム、ハースが加わる2016年

「F1世界選手権」の2016年シーズンは3月18日(金)〜20日(日)に開催される「オーストラリアGP」で開幕を迎える。今年は「ドイツGP」が復活し、南コーカサスのアゼルバイジャン共和国の首都、バクーの市街地を使った「アゼルバイジャンGP」が新設され、過去最大レース数の全21戦で争うシーズンだ。

2016年のF1チーム&ドライバーラインナップ
2016年のF1チーム&ドライバーラインナップ

今年は新規チームとしてアメリカの「ハース」が参戦。このチームはフェラーリと密接な関係にあるとされ、ロメイン・グロージャンが移籍したほか、昨年はフェラーリのテストドライバーだったエステバン・グティエレスがシートを獲得した。ちなみに「ハース」は米国の工作機器のトップメーカーが母体で、インディカーやF1に参戦した「ハース」とは異なる新参チームだ。また、資金難に陥っていた「ロータス」を「ルノー」が買収し、同チームは再び「ルノー」のワークスチームとなった。

そして、パワーユニット選定ですったもんだしていた「レッドブル」は結局ルノーのパワーユニットを継続使用。ネーミングライツのスポンサーに時計メーカーの「タグホイヤー」が就任し、「レッドブル・タグホイヤー」となる。また、ジュニアチームである「トロロッソ」は昨年型のフェラーリのパワーユニットを使うことに。

こうしてみると、いくつかの変化はある。しかしながら、2016年はトップチームのドライバーラインナップに大きな移籍などの変化がないのも特徴だ。3年目を迎えるパワーユニット規定下で独走を続ける「メルセデス」と追う「フェラーリ」という2大ワークスチームの優位性は変わらず、今年もすっかりお馴染みとなった光景になると予想されている。というのも、現行規定のF1ではパワーユニット(エンジン+エネルギー回生システム)」に依存する部分が大きいからだ。同じパワーユニットを他チームが使用していても、ワークスチームは最新のソフトウェアを使用し、データ解析力でプライベートチームを上回るので、よほど車体の開発に失敗しない限り「メルセデス」「フェラーリ」のワークスチームの優位は揺るがない。

ホンダへの警戒心と期待

クリスマスを挟んだシーズンオフはF1関連の動きが少なくなり、ほとんどが証言を元にしたニュースばかりになるが、今年のオフで目立って多いのが2015年のデビューシーズンが散々だった「マクラーレン・ホンダ」の進化を期待するニュースである。

マクラーレン・ホンダ 【写真:Mclaren】
マクラーレン・ホンダ 【写真:Mclaren】

シーズン終盤にフェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンのワールドチャンピオン2人がようやく「レースができる」ところまでは浮上できた同チーム。今年は英国のチーム「マクラーレン」と日本の自動車メーカー「ホンダ」の互いのコミュニケーションが改善され、進化を遂げると多くの関係者が予想しているということだ。600億円以上とされる「メルセデス」「フェラーリ」ワークスと互角の年間予算を考えれば、何らかの進化があると考えるのは自然なことだ。

だが、逆に言うと、世界的な観点から見ても、今季求められる変化、期待できる変化はそこしかない。

というのも、2016年はタイヤ選択に関する規定変更はあるものの、大幅にレギュレーション(規定)が変わるわけではない、現状維持のシーズンだからだ。それだけに「マクラーレン・ホンダ」に対する期待感は大きいものになっている。

正念場を迎えるホンダ。全ては2月のテストで。

2015年の最高位は5位。チームランキングは年間予算が1/4の「ザウバー・フェラーリ」に9点差を付けられてのランキング9位(10チーム中)に留まった「マクラーレン・ホンダ」。これは英国の名門チーム「マクラーレン」にとってチーム設立以来最低のランキングであり、まさに屈辱的なシーズンだった。

敗因はいくつもあるが、「サイズゼロ」と呼ばれる超小型のパワーユニットをいきなり作ろうとしたことが難しい状況に拍車をかけた。ただでさえ、熱エネルギーも回生する難しいハイブリッド技術への挑戦1年目だったホンダにとっては、とてつもなく高いハードルだった。コンパクトであるがゆえに熱害が引き起こす様々なトラブルに翻弄され、開幕前のテストから出遅れてしまった。

シーズン中はホンダに対する批判が集中したが、「マクラーレン」の車体=マクラーレンMP4-30も決して優れたマシンだったわけではない。同じくパワー不足に悩まされ続けた「レッドブル」のRB11と比べてもポテンシャル不足は誰の目にも明らかだった。「マクラーレン」自体もドライバーズ選手権では2008年、コンストラクターズ選手権では1998年以来、ワールドチャンピオンから遠ざかっているチームである。「マクラーレン」と「ホンダ」の共闘体制で挑んだ野心的なコンパクトF1カーだったとはいえ、(近年は)実績不足の両者が無理をしすぎた結果でもある。

ただ、2016年に関してはもう「スタディ(学び)」をしている年ではない。様々な解析を元に練り直し刷新されたパワーユニットとマシンが2月のバルセロナテストで走り出した時、2016年の結果がある程度見えてくる。

マクラーレン・ホンダのピット 【写真:Mclaren】
マクラーレン・ホンダのピット 【写真:Mclaren】

規定変更前に進撃せよ

新しいパワーユニットの性能と車体のトータルバランス向上に期待をつなぎたい「マクラーレン・ホンダ」。でも、現代のF1において急浮上がそう簡単ではないことは今や誰もが知っている。何百という優秀な技術者の頭脳とコンピューターが日夜フル稼働して考えているわけだから、他のチームも当然同じように進化を遂げてくるわけで、いきなり奇襲ができるとは考え難い。

ただ、チャンスはある。来年2017年からはF1の技術規則が大きく変わる方向で動いている。タイヤ、車体、空力パーツが大きくなり、ダウンフォース量が増え、今季よりも5秒ほど速いマシンとなる。簡単にいうとアグレッシブな速さのF1が戻ってくるのだ。現時点では開発領域が著しく制限されている車体の空力面において、(来季に向けて)いちからやり直しの大仕事が待っている年でもある。現行規定下における素性の良いマシンを準備できれば、各チームが2017年に向けて注力し始めるシーズン後半、「マクラーレン・ホンダ」にチャンスは巡ってくるかもしれない。

1960年代のホンダF1マシン 【写真:MOBILITYLAND】
1960年代のホンダF1マシン 【写真:MOBILITYLAND】

1960年代、日本の2輪メーカー「ホンダ」が単独でF1に乗り込んだ時代。エンジン規定が排気量1500ccから3000ccに変わる最後のレース、1965年「メキシコGP」で「ホンダ」は奇跡の初優勝を成し遂げている。F1の歴史を知る者は皆、その再現に熱い期待を寄せている。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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