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F1ドライバーが選ぶ自分のカーナンバー

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
マンセルが付けた5番

2014年から大きなレギュレーション(ルール)の変更が行われるF1世界選手権。これまでの2.4リッターV8エンジンに代わり、「1.6リッターV6ターボエンジン+ERS(エネルギー回生システム)」のパワーユニットになるのが最も大きな変更だが、FIA(国際自動車連盟)は大変革のシーズンを前に様々な規定を変更することを発表してきた。

その中で注目したいのが、「ドライバーの固定カーナンバー制度」の導入である。

F1のカーナンバー(車番、ゼッケン)の決め方をご存知だろうか?

2013年までは前年のコンストラクター選手権(チーム)の順位で#1から続く番号がチームごとに与えられていた(#13はキリスト教徒にとって不吉な数字であるため欠番)。そのため、同じチームに残留したとしても前年のチームの順位によってドライバーたちは毎年カーナンバーを変えなければならなかった。

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2014年から導入される「固定カーナンバー」は2〜99番までの番号をドライバーが選んで登録し、F1に参戦する間、チームを移籍してもその番号を使用できるというもの。マーケティング上の理由からこのような制度が導入されるわけだが、ドライバー達の番号は自分を象徴する番号としてファンに認識されるようになり、カーナンバーが印刷されたTシャツなどのグッズを独自に作って売ることができるようになる。ちなみに、これまでもチャンピオンに与えられてきた#1のカーナンバーはチャンピオンになったドライバーがそれを付けるかどうか選択できるようになる(2013年のチャンピオン、セバスチャン・ベッテルに選択権あり)。

F1では長い間、チームごとに番号が与えられてきた。現在のランキング順で与えられるカーナンバー制度は1996年から始まったもので、それ以前の73年途中〜95年まではランキングに関係なくチームごとの固定カーナンバー制で、チャンピオンになった翌年だけ#1をチャンピオンドライバーが着け、#2をその同じチームの僚友が付けるというものだった。

そのため、かつてはそのチームやドライバーを象徴するカーナンバーというものがあった。例えば「フェラーリ」が長く使用した#27、#28はその代表的な例で、1982年に当時のエースドライバーだったジル・ヴィルヌーブが#27を付けていたことから、F1ファンに#27はジルの番号と認識され、フェラーリは#27をジルの死後もその年のエースドライバーに与えた。89年にはナイジェル・マンセルが、91年にはアラン・プロストが、92年から95年はジャン・アレジが使用するなど、#27はフェラーリのエースナンバーの象徴的存在としてファンに記憶されている。

フェラーリのエースナンバーは#27
フェラーリのエースナンバーは#27

また、#5はナイジェル・マンセルを思い出す人が多いと思う。数字のロゴを赤く塗った「レッドファイブ」としてF1ブーム期の日本のファンにもお馴染みだったマンセルの#5。マンセルが「ウィリアムズ」に所属した時代に付けていたカーナンバーで、92年には#5を付け、ワールドチャンピオンに輝いている。元々はチームが使用していた#5だが、マンセルは93年に米国インディカーに転向した時もカーナンバーに#5を付けていた。アメリカでの所属チーム(ニューマン・ハース)のエースナンバーが#6だったというのもあるが、こういったことから#5はマンセルを象徴する数字と言える。

マンセルといえば赤い5番
マンセルといえば赤い5番

選手が自分の象徴的な番号を使い続ける例は、2輪レースではお馴染みである。最も有名な例がヴァレンティーノ・ロッシの#46である。これは父で元グランプリライダーのグラツィアーノ・ロッシが着けていた番号であり、ヴァレンティーノはチャンピオンになった翌年も、チャンピオンに与えられる#1を着けずに#46で参戦を続けている。また、ロッシのライバルとなったアメリカ人ライダーのニッキー・ヘイデンも同じく父から受け継いだ#69で参戦している。

ロッシの番号は#46 【写真提供:YAMAHA】
ロッシの番号は#46 【写真提供:YAMAHA】

2輪ではこうして自分の番号を固定するライダーが多く、2013年のMotoGPチャンピオンのマルク・マルケスもGP125の時代から#93を愛用。かつてのライダーでいえば、ケビン・シュワンツはアメリカの国内レース時代からの#34を愛用した。また、日本人ライダーでいえば、加藤大治郎は7月4日の誕生日に合わせて#74を使っていたし、中野真矢は人気漫画「バリバリ伝説」で主人公の巨摩郡(こま・ぐん)が着けた#56を使っていた。ちなみにシュワンツの#34、加藤大治郎の#74はライダーの功績を讃えてMotoGPクラスの永久欠番になっており、使用が許されない。そのため、シュワンツに憧れて#34を使用していたアンドレア・ドヴィツィオーゾはMotoGPに昇格してからはやむなく#4を使用している。

2輪のMotoGPライダーにヒントがあると見られる、来季以降のF1ドライバーの固定カーナンバー制導入。どのドライバーがどの番号を希望するか注目が集まっている。しかし、F1には長くこういった慣習が無かったために、迷っているドライバーも多いようで、ツイッターでアイディアをファンから募集しているドライバーも居る。

フェラーリのドライバー、フェルナンド・アロンソとキミ・ライコネンの2人がエースナンバー#27を希望して取り合いすることになったりしたら、どうなるだろう? もし仮に、そうなった場合は今年のドライバーランキング順で優先権が与えられるため、ランキング2位のアロンソが#27を獲得することになる。ライコネンがそんなバトルを挑んでくるとは考えにくいが、さて、ドライバーたちは自分を象徴する番号として何番を希望してくるだろうか。発表が楽しみである。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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