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高額賞金大会で楢崎智亜や野口啓代、藤井快らがボルダリング、リード、スピードの全種目に挑戦

津金壱郎フリーランスライター&編集者
素早いクライミング・スタイルの楢崎智亜がスピード種目でどんなタイムを叩き出すのか(写真:アフロスポーツ)

今季最終戦の中国オープンで五輪強化選手が始動

 先週末に行われたリード・ワールドカップ(WC)のスロベニア・クラーニ大会で、今シーズンのWCは全戦が終了した。自国開催大会を初めて制して有終の美を飾った女子リードのヤーニャ・ガンブレットは、大会後に歓びや感謝の言葉とともに、「いまは休みが待ち遠しい!」とSNSに投稿した。

 今年はリードとボルダリングの両種目のWC全15大会のうち、14戦に出場して9勝をマーク。さらに、ヨーロッパ選手権やワールドゲームズも戦った18歳が、試合の緊張感から解放される日々を待ち望む気持ちは想像に難くない。

今季のリードWC8戦中6勝をマークしたヤーニャ・ガンブレット。今季のスポーツクライミングは彼女のために存在したと言っても過言ではないだろう(c) IFSC/Eddie Fowke
今季のリードWC8戦中6勝をマークしたヤーニャ・ガンブレット。今季のスポーツクライミングは彼女のために存在したと言っても過言ではないだろう(c) IFSC/Eddie Fowke

 シーズンオフに焦がれているのはヤーニャだけではない。長いシーズンを競技と真正面から向き合ってきたスポーツクライマーにとって、オフは最高のご褒美。

 野口啓代も「イベントのついでとか、日帰りとかじゃなく、この冬はしっかりと岩場で登りたい」と、シーズンオフに思いを馳せている。

 しかし、トップ選手になるほど年間の試合数が増えるのは、スポーツ界の宿命でもある。彼らが来季までの束の間の休息を迎えるためには、もう1試合を戦わねばならない。それが11月17日(金)から中国・広州市で開催される『中国オープン』だ。

日本勢は3種目すべてにエントリー

 日本からは楢崎智亜、藤井快、渡部桂太、緒方良行、是永敬一郎、楢崎明智、野口啓代、野中生萌の五輪強化選手に、樋口純裕を加えた9選手が出場。渡部以外の8選手はスロベニアから帰国して中1日で渡航という強行軍で臨む。

(※出場予定だった尾上彩はケガの影響で欠場。楢崎の「崎」は正しくは「大」の部分が「立」)

 WCが『単一種目』、『ボルダリングとスピード』、『リードとスピード』のいずれかで開催されるのに対して、今年から新設された今大会は、3日間でボルダリング、リード、スピードが実施される。

隣りあう2つのレーンで、国際規格で決められた課題を登るスピード種目。予選はタイム順、決勝トーナメントは2人1組で競って先着した方が勝者となる (c) IFSC/Eddie Fowke
隣りあう2つのレーンで、国際規格で決められた課題を登るスピード種目。予選はタイム順、決勝トーナメントは2人1組で競って先着した方が勝者となる (c) IFSC/Eddie Fowke

 日本は全選手が3種目すべてに出場するが、その狙いを日本代表の安井博志ヘッドコーチは次のように明かす。

「この大会は、複合種目のメダルはなく、各種目でメダルが争われるだけですが、選手たちにはハードなスケジュールで3種目をやることを経験させるのが一番の目的です。これを踏まえて今後の強化につなげていきたいと考えています」

 2020年の東京五輪で実施されるスポーツクライミング複合種目は、3日間でボルダリング、リード、スピードを行い、4日目の決勝は1日で3種目に挑んでメダルの行方が決まる。このオリンピックフォーマットを、今年9月の世界ユース選手権で緒方良行、楢崎明智は経験しているものの、他の日本人選手は初めての体験になる。

 ただし、中国オープンは過去1年の成績で決まる世界ランキングで、各種目10位以内の選手は予選(スピードは予備予選)が免除される。そのため完全なオリンピックフォーマットとは言えないものの、勝ち上がれば3日間で3種目という貴重な経験を積むことになる。

【中国オープン日程】

[初日 11/17(金)]

男女ボルダリング予選→男女スピード予備予選→男女リード予選

[2日目 11/18(土)]

男女ボルダリング準決勝→男女スピード予選→男女ボルダリング決勝→男女スピード決勝

[3日目 11/19(日)]

男女リード準決勝→男女リード決勝

海外勢の視察も重要なテーマ

 安井ヘッドコーチには別の目的もある。

「男子ではヤン・ホイヤー、アレクセイ・ルブツォフ、女子ではヤーニャなど、3種目に出場する海外の選手たちがどんなパフォーマンスを見せるのかに注目しています。オリンピックに向けた強化策の参考にしたいと考えています」

 ヤン・ホイヤーはリードWCクラーニ大会で8位、ボルダリングWCミュンヘン大会では優勝。アレクセイ・ルブツォフはボルダリングWC年間3位になり、リードWCでも経験を重ねるなど、3年後に向けて3種目の強化をすでに始めている。ほかにも普段はスピードを主体にWCを戦うフォッサリ・ルドヴィコも全種目に出場する。東京五輪に向けて日本はボルダリングやリードから3種目にアプローチしているが、異なる取り組み方の海外勢もある。敵を知り己を知れば百戦殆うからず、である。

破格の賞金で高まるモチベーション

 とはいえ、スポーツクライミングにおいて年度ごとの最高峰の舞台であるWCが終了した状況では、東京五輪を想定して3種目に挑むことをテーマにしても、選手はモチベーションを上げるのが難しい。そこで今大会はスポーツクライミングでは破格の賞金が各種目で用意されている。

 そのため出場する世界ランカーのなかには専門種目のみにエントリーしている選手も少なくない。高額賞金を狙う各種目の強豪が顔を揃える今大会、懐を温かくしてシーズンオフを迎えるのは誰になるのか―――

賞金(中国オープン/ワールドカップ)

優勝10000ユーロ(約132万円)/3450ユーロ(約46万円)

2位7000ユーロ(約93万円)/2150ユーロ(約29万円)

3位5000ユーロ(約67万円)/1250ユーロ(約17万円)

4位4000ユーロ(約53万円)/680ユーロ(約9万円)

5位3000ユーロ(約40万円)/440ユーロ(約6万円)

6位2000ユーロ(約27万円)/320ユーロ(約4万円)

【3種目に出場する有力選手】

[女子]

ヤーニャ・ガンブレット(18歳・スロベニア)LWC年間1位、BWC年間2位。現状では東京五輪の金メダルに最も近い存在。

ジェシカ・ピルツ(20歳・オーストリア)LWC年間4位。BWCミュンヘンは20位

アナ・ツイガノフ(24歳・ロシア)SWC年間4位。今季はリードやボルダリングにも精力的に出場

[男子]

フォッサリ・ルドヴィコ(20歳・イタリア)スピードWC年間3位。シニアの国際大会でボルダリング、リードは今大会が初出場。

マックス・ルーディヒャー(24歳・オーストリア)LWC年間11位。リードWCアルコでは3位。

ヤン・ホイヤー(25歳・ドイツ)BWC年間7位 LWC年間17位

アレクセイ・ルブツォフ(29歳・ロシア)BWC年間3位。今季はLWCにも2戦出場

ドーメン・スコフィック(23歳・スロベニア)LWC年間4位。昨季LWC年間王者は今季、BWCにも参戦

イェルネイ・クルーダー(26歳・スロベニア)BWC年間9位。スロベニアのボルダリングのエース

フリーランスライター&編集者

出版社で雑誌、MOOKなどの編集者を経て、フリーランスのライター・編集者として活動。最近はスポーツクライミングの記事を雑誌やWeb媒体に寄稿している。氷と岩を嗜み、夏山登山とカレーライスが苦手。

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