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日米経済版2+2に見える米国からのプレッシャー

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 米ワシントンで外務・経済閣僚協議会である「経済版2+2」が初会合を開き、次世代半導体の量産への協力を進めることで日米が合意した。まるで日米対等な立場での経済協定のように描かれているが、実情は全く違う。完全な米国主導だ。

 ITサービスからIT機器、半導体製品、ファブレス設計、設計ツール、半導体製造、製造装置、材料という一連の半導体のサプライチェーンの中で、米国が弱いのは半導体製造と材料だけ。残りは圧倒的に強い。米国は半導体製品5割のシェアを持ち(日本は1割以下)、ITサービスにはGAFAがいる。対して日本は半導体製造装置と材料だけが強いものの、残りは圧倒的に弱い。この関係を理解していれば、今回の協定は米国主導であることがわかる。

 米国の言う経済安全保障とは、半導体製造だけを台湾に任せているという状況から何とかして米国へ戻し、半導体のエコシステムを米国内で完結したい、ということである。米国はIntelやGlobalFoundries(GF)の半導体製造技術の遅れを危惧する声が防衛関係にある。このため、米国内でファウンドリビジネスを促進すると声を出した、ミネソタ州を拠点とするSkywater Technologyに対して、国防総省は(DoD)はチップレットやパッケージング技術でカバーする。Skywaterはやっと90nmノードのプロセスの開発キットを用意したばかりだが、これでも勝負できるのだ。

 しかし、ここにきて527億ドルの支援を両院議会でやっと決議した。この動きをにらんでIntelはPat Gelsinger CEOがアリゾナだけではなくオハイオ州に11兆円の投資をはじめ、欧州にも幅広く半導体工場や研究所を設立することを矢継ぎ早に発表した。これも欧州で同様なCHIPS法案が決まり巨額の補助金を用意したからだ。BoschやInfineonも新工場を稼働させたほか、この法案を当てにしたSTMicroelectronicsもGFと組んだ工場新設へと動き出した。欧州は、いまは日本と同じ世界シェア10%しかないが、これを2030年までに20%に引き上げようという明確な目標を掲げている。

 米国は保険として、日本でもファウンドリや半導体製造を強化してほしい、ということが本音。軍事同盟国である日米が共に半導体製造を強化できれば、万が一、台湾が中国に侵略されても重要な半導体を確保できる。そのような体制を築きたいのが米国だ。

 こういった世界の動きに対して、日本でも日本政府の支援を当てにして、TSMCの熊本誘致だけではなく、ルネサスの古い甲府工場をリニューアルし直して300mmラインの新設や、キオクシアがWestern Digitalと共同運営している四日市工場への巨額の投資も始まっている。

 ただ、日本が世界と同等に戦っている半導体企業はこれらに加え、ソニーの3社しかない。これではなかなか日本の半導体産業の世界シェアを上げることは難しい。そこで、ファブレス企業やファウンドリ企業もこれから立ち上げれるように支援すべきだろう。それも3nmや2nmなどの微細なプロセスノードを狙うのではなく、40nmや、市場の広い28nmプロセスのファウンドリから始めてもよい。そして半導体を理解できるようなICユーザーがいなくなった今(かつては総合電機がユーザーだった)、システムを差別化するのはソフトウエアだけではなく半導体チップ(ハードウエア)でもあることを認識させる活動も必要だろう。

 例えばクルマは、今後ソフトウエア-デファインド・ビークル(Software-Defined Vehicle)になるといわれており、これを実現するハードウエアこそ半導体ICである。これって実はクルマのコンピュータ化のこと。コンピュータはSoftware-defined machine、つまりソフトウエアで機能を自由に変えられるマシンだからだ。コンピュータシステムの機能の差別化はソフトウエアであるが、実は性能の差別化は半導体によるところが大きい。

 となると、日本の半導体を強くするためには半導体を購入するIT機器メーカー、その先にいるITサービスプロバイダも活躍してくれなければできない。さもなければ、日本で作った半導体チップを買ってくれる外国企業と積極的にディスカッションし売り込める人材を育成する必要がある。半導体がITの3大要素(残りの二つはコンピュータと通信)の一つになった以上、ITをもっと活性化させることが半導体立国への復活につながる。ITはソフトだけではなくハードも重要であるからこそ、両方を強くする教育、すなわちSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育を充実させることが半導体やIT復活させ日本の復活のカギとなる。

 「微分積分なんになる」、「三角関数なんになる」というような政治家が国の中枢部にいるようでは、未来は全く開けない。STEM教育の充実こそ、将来の量子コンピュータや量子暗号、セキュリティ、バイオテクノロジー、ロボティックス、AI、自律化、メタバースなどの基礎的な学問に必要なのだ。これらの技術を使えばデジタルトランスフォーメーションやスマートシティ、スマート化を推進できる。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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