米カリフォルニア大学バークレイ校のデビッド・パターソン教授らを中心に開発されてきたRISC-V(リスクファイブと発音)というライセンスフリーのCPUコアの採用が増えている。ルネサスエレクトロニクスがRISC-Vコアを用いた64ビットマイクロプロセッサを開発し、バークレイ発スタートアップのSiFive(サイファイブと発音)がシリーズFで1億7500万ドル(約200億円)を調達、チェコに本社を持ち英仏のデザインセンターで本格開発を始めたCodasip社が日本にもオフィスを作り本格活動を始めた。

図1 CodasipのCEOとなったビジネスに強いRon Black氏 出典:Codasip Website
図1 CodasipのCEOとなったビジネスに強いRon Black氏 出典:Codasip Website

 RISC-Vそのものは、命令セットを必要最小限の47個にとどめ、カスタマイズで拡張できるように決めているのが特長だ。対して同じRISC(Reduced Instruction Set Computer)でもArmの命令セットは下位互換性を持たせることにより500程度にも膨らんでいる。もちろんCISC(Complex Instruction Set Computer)のIntelプロセッサのそれは1500個にも及ぶ。RISC-Vは誰でも自由にCPUを改変できるため、OSのLinuxに似ている。狙いはCPUコアの民主化にある。

 バークレイ校がRISC-Vを開発したのは、ライセンスフリーが目的ではなく、今後の高集積なSoC(システムLSI)にはCPUの他、GPU(グラフィックプロセッサ)やDSP(デジタル信号プロセッサ;積和演算専用のマイクロプロセッサ)、ISP(映像処理プロセッサ)などさまざまなプロセッサを1チップや1パッケージに集積するため、命令セットを統一しておこうという目的だった、と同校の教授でありSiFiveのチーフアーキテクトでもあるKrste Asanovic氏は語っている。基本命令セットを揃えておけば、いろいろなプロセッサコアを集積しても拡張しやすい。

 ルネサスのRISC-V汎用マイクロプロセッサには、台湾Andes Technologyが開発したCPUコアを用い、8段のパイプライン構造を持ち、最大4コアまで対象的なマルチプロセッシングができるレベル2キャッシュや共有キャッシュメモリを搭載している(参考資料1)。実は、AndesやSiFiveは、マイクロアーキテクチャレベルのRISC-Vコアを自社で加工し、パイプライン構造を設けたりキャッシュメモリを集積したりして、実用的に使えるレベルのCPUコアを開発し、ライセンス供与している。

 もちろんルネサスの開発力ならRISC-Vコアから使えるレベルのCPUコアに自前で仕上げる技術力はあるが、64ビットのMPUは開発期間の短縮を配慮してAndesのIPコアを利用した。SiFiveのコアを利用するプロセッサも開発中で、同時に自社でもRISC-VコアからMPUに仕上げる開発も進めている。

 SiFiveとAndesに加えてIPベンダーに参入してきたのがCodasipだ。元々RISC-V Internationalの創設メンバーの1社であったが、ビジネス的には遅ればせながら2018年にシリーズAで1000万ドルを調達、本格的に世界展開し始めた。Codasipの特長は、マイクロプロセッサのカスタム化をしやすくした自動化ツールCodasip Studioを提供できること。カスタム命令を追加しやすくして、アルゴリズムを高速化する用途に向く。基本命令47個から出発するため、より簡単に、より速く、より安く設計することに主眼を置いている。Codasip Studioを使ってコードを書くことで、HDK(ハードウエア開発キット)とSDK(ソフトウエア開発キット)を自動生成できる。

 IPベンダーのSiFiveは1.75億ドルの調達によって、同社の時価総額は25億ドルを超えるようになるという。来年IPO(株式上場)を目指し準備を始めている。

ArmはIPOへ

 RISC-Vの本格的な展開で、これまでとは全く異なる環境に晒されるのがArmだ。さまざまな企業からライセンスが高い、ロイヤルティも高い、と言われ続けてきた。成熟したCPUコアにはRISC-Vを意識してライセンスフリーの製品も発表してきたが、ここに来て社員数を最大15%削減することを検討している。

 Nvidiaへの売却を断念したソフトバンクグループがArmをIPOするための一環として社員の削減になったようだ。思えばArmがソフトバンクに買収された直後はまだよかった。株主からの期待とプレッシャーで長期的な開発ができなかったが、SBGに買収されてからはこのようなプレッシャーから解放された。また、英国政府からの要求もあり、Armの雇用を増やすという目標も買収条件に合った。このため従来とは違い、収支を第一に考えることなく研究開発費を増やしてきた。

 しかし、Arm Chinaの株式をソフトバンクが中国のファンドに売却、それも49対51でArmがマイノリティになった。Arm Chinaのトップが不祥事を起こし、解任決議を行ったものの、Arm Chinaの経営陣は何事もなかったとして業務を継続した。この辺りからSBGとArmとの間に秋風が吹くようになった。最悪の事態が、SBGが大きく出資しているSVF(ソフトバンクビジョンファンド)がWeWorkというシェアオフィスのスタートアップに何と1兆円もの大金をつぎ込み、SBGの屋台骨が揺らいでしまった。これを補填するためにArmを手放すことになったのだ。

 それもSVFが出資するNvidiaに売却することで、キャッシュを得ようとした。しかし、NvidiaによるArm買収はArmの中立性が崩れ独禁法に抵触する恐れがあるということで英国政府から拒絶された。そこで、SVFの錬金術として、ArmのIPOを企てることでキャッシュを得ることになった。しかし、IPOへの準備となると必要以上に採用したため、社員を15%カットするという手で財務の健全化を図ろうとしている。

参考資料

1. 64ビットRISC-Vマイクロプロセッサを出荷したルネサスが大きく変身、News & Chips、2022年3月2日