本来、製造技術に長けている日本には、いまだにファウンドリ(半導体製造を請け負うサービス業者)がなく、成長のエンジンを失ったまま30年が過ぎた。IntelはイスラエルのファウンドリTower Semiconductorを54億ドルで買収することを決めた。

 Towerの2021年売上額はわずか15億ドルしかない。にもかかわらず、その3.5倍の金額でIntelが買うのである。日本はなぜ、ファウンドリビジネスを始めないのだろうか。

 10年以上前にも筆者は、日本で一刻も早くファウンドリビジネスを始めるべきだ、と2010年10月に書いた(参考資料1)。これに対して、”Too late”(遅すぎる)という声もあった。しかし実態はどうだろうか。

TSMCでも売上の50%は16nm以上の製品

 ファウンドリビジネスは台湾のTSMCがずっと先を走り、もはやついていけない状態になっているから、これまでは誰も日本でファウンドリを設立しようと動かなかった。TSMCは確かに5nm、7nmでトップを行くが、こんな最先端のプロセスノードの製品だけを生産しているのではない。図1に見られるように16nmプロセスノードよりも緩いテクノロジによる製品売上は、50%もある。

図1 TSMCが発表している決算資料で見る2021年第4四半期の売上額 出典:TSMC決算資料
図1 TSMCが発表している決算資料で見る2021年第4四半期の売上額 出典:TSMC決算資料

 もう一つ、同じ台湾でもTSMCよりも圧倒的に引き離されてしまったファウンドリのUMCは、最も微細なルール22nm以上のプロセスノードで作る技術しか持っていない。それでも2021年の売上額は前年比20.5%増の76.98億ドル(約8853億円)も計上している。つまり、TSMCほどの最先端プロセスノードでなくても、儲かるビジネスなのだ。ちなみにUMCの営業利益は利益率24.3%の18.68億ドル(約2148億円)である。

Intelはクルマ用途を狙いTowerを買収

 IntelがTowerを買うことを決めた最大の理由はファウンドリが儲かるからだ。しかも自らIDM2.0でファウンドリに力を入れることを宣言していた。Intelはかつて、ファウンドリビジネスを始めたこともあった。2012~13年当時FPGAメーカーのAlteraがIntelをファウンドリとして使っていたからだ。しかしAlteraを買収して以来、Intelはファウンドリに興味を示さなくなっていた。2021年になってPat GelsingerがCEOに就任して以来、Intelは再びファウンドリビジネスに力を注ぐことを打ち出した。

 しかし、Intelはファウンドリビジネスを十分理解していない。Towerはここ1~2年売り上げが伸びていなかったが、ファウンドリビジネスを10年以上経験してきたベテランである。ファウンドリビジネスで欠かせない設計技術に関しても熟知しており、PDK(プロセス開発キット)を揃え、顧客をサポートしてきた。IntelがTowerを先生としてファウンドリビジネスを学んでいけば十分、成功する可能性はある。

ファウンドリと称する製造ラインはあるが

 残念ながら、日本ではファウンドリビジネスが理解されていない。単純に製造ラインさえあれば顧客が寄ってくると思っている節がある。残念ながら、待つだけの商売ならビジネスとして成り立たない。積極的に顧客を取りに行こうとすればするほど半導体設計の知識が必要となる。

 一般的な顧客は、自分はこんなチップが欲しい、と思ってもそのイメージを設計データに落とすことができない。半導体設計では、設計データに落とすためには、RTLと呼ばれる論理記述データが必要で、そのためにVerilogやHDLなどのLSI設計言語でプログラムする必要がある。そしてRTLにバグやミスがないかを検証し終えたら、論理合成を使って回路図に変換する。回路図をIPブロックなど小規模回路のレイアウト配置やIPコア間の配線層などに変換し、最終的にマスク形式GDS-IIを出力する。この出力データを元にフォトマスクを作成する。

 どの設計段階でもファウンドリは顧客の要求に対応できるようにしておかなければならない。このため設計作業を行うデザインハウスの存在が欠かせない。TSMCにはデザインハウスの役割を担う部門があった。この部門が独立してGlobal UniChip社となったが、TSMCは今でも35%の株式を持ち、最大株主となっている(参考資料2)。

クルマへの参入を狙いTowerを手に入れる

 IntelがTowerを買収したもう一つの理由は、自動車産業への本格的参入である。Intelは自動運転に使うカメラからの画像データを扱うMobileye社を手に入れているが、これだけでは何とも寂しい。そこで2月17日に開催されたIntel Investor Day 2022ではクルマ用市場を強化するためのテクノロジを3つ紹介している(参考資料3)。

 一つは、オープンセントラルコンピュートアーキテクチャと呼ぶ、ドメインコンピュータのアーキテクチャである。クルマのECU(電子制御ユニット)が増え過ぎたため数個のECUを一つにまとめるドメインコンピュータがこれからは欠かせない。Intelは自動運転部分のIT関係を受け持つドメインコンピュータを狙っている。もう一つが自動車グレードのファウンドリ製造ネットワークである。ここではTowerとMobileyeとのコラボが期待できる。そして最後が先端技術も使えるようにするパッケージ技術である。CPUやアクセラレータのチップレットやIPコアを駆使して実装する。

 Intelの新規参入を見ている限り、ファウンドリビジネスへの参入が遅すぎるとは言えないだろう。米国では、90nmプロセスがやっとのファウンドリSkywater Technology社が半導体製造に名乗りを上げ、トランプ政権で追いやられたGlobalFoundriesが復活するなど、半導体製造が活発に動いている。プロセスノードと関係なく、半導体のすそ野が広がっており、さまざまな分野でビジネスができるようになっている。

 半導体は今や回路から頭脳になり、基本的にコンピュート+アルファになってきた。半導体なしにDX(デジタルトランスフォーメーション)やメタバースはできない上、スマートシティやスマートファクトリのようなスマートxxは実現できない。今後のITの進展を見るにつれ、システム側は半導体なしでどうやって他社より有利に進めるのか、考えてみてほしい。もちろんソフトウエアで差別化できるだろう。しかしソフトウエアだけではスピードが劣る。システム性能で優位に立ちたいなら半導体は欠かせない。

 世界のシステム企業が半導体で差別化したいが、製造してくれるところが限られている、とGAFAMのように考えるのなら、日本がこのビジネスチャンスを捉えてもよいのではないか。一刻も早く、ファウンドリ企業が出てくることを強く望む。

参考資料

1. 津田建二、「一刻も早く日本はファウンドリを設立すべき」、セミコンポータル、(2010/10/29)

2.Overview on Global UniChip Corp.,

3.Intel Investor Meeting 2022