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新型コロナ医師団に福音、患者の容態を医師がリモートで観察可能に

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 新型コロナウイルス患者の呼吸波形や心拍波形(心電図のような波形)、歩行状況を自宅にいながら観察できるデバイス「Emerald」を米MIT(マサチューセッツ工科大学)のCSAIL(コンピュータ科学&AI研究所)が開発、大学発ベンチャーを数年前に設立した。このEmeraldが新型コロナウイルス患者の経過観察に有効な手段になることを、最近ボストンの医療機関が見出した。

図1 Wi-Fiアクセスポイントのようなデバイスで人体の生体データを測定しその結果を医師のスマホへ送信する 出典:MIT CSAIL
図1 Wi-Fiアクセスポイントのようなデバイスで人体の生体データを測定しその結果を医師のスマホへ送信する 出典:MIT CSAIL

 生体データを取得するEmeraldは、患者の自宅あるいは隔離部屋に設置され、患者の様子を無線でデータを取得し、そのデータを医師の元へ送信する。スマートフォンで受けることが可能であるため、医師は病院に行かずに患者を診ることができる。患者の具合が悪くなると、生体データが悪化することで医師はそれを把握できる。実験例では、2020年4月7日に呼吸は毎分23回だったが、11日には毎分18回に下がり、落ち着いたことがわかった。医師は患者に接することなく、スマホを使って呼吸数と心拍数、歩行、睡眠の様子を観察できる。

 しかも、患者にセンサなどを装着する必要がない。患者は普段通りに生活することができる。負担は極めて軽い。新型コロナウイルス患者だと直接触れようとすれば医師や看護師たちが感染するリスクが増す。患者の生体情報を取得し、医師に送るこのデバイスEmeraldは、部屋のどこかに置くだけでよい。

図2 Emeraldを開発したMIT CSAILのDina Katabi教授 出典:MIT CSAIL
図2 Emeraldを開発したMIT CSAILのDina Katabi教授 出典:MIT CSAIL

 ではどのようにして患者の生体情報を取得するのか。Emeraldを開発したMIT CSAILのDina Katabi教授(図2)は、その仕組みについてほとんど語っていない。わずかに、スマホの周波数の1000倍よりは低い周波数で動かす、とだけ語っている。

 最近、第2世代の5Gで主流になるであろうミリ波(波長が1mm~10mm)あるいはそれ以上のテラヘルツ波(数百GHz~THz)を使ったレーダーToFセンサで生体情報をつかむという実験や研究が盛んである。ミリ波のような超高周波を人体に発射し、その反射波を検出することでわずかな動き検出しようというものだ(図3)。反射波の情報から呼吸(肺の動き)や心拍(心臓の動き)を知ることができる。24GHzでもクルマのドライバーの心拍数を測定できたというデモがCEATECなどで見られている。

図3 ミリ波レーダーで心臓や肺の動きを検出する 出典:Vayyer
図3 ミリ波レーダーで心臓や肺の動きを検出する 出典:Vayyer

 ミリ波レーダーを使ったイメージング技術も登場している。例えば60GHzの周波数で帯域を4GHz程度取れば鮮明ではないが画像を取得できる。人が歩いているのか止まっているのが横になっているのか、という程度の画像は検出できるため、人を検出し人体をスケルトンでグラフィックスを作ればデータ量は軽くなり、AIで簡単に学習させることも推論することもできるようになる。リモートで患者がつまずいて倒れたのかどうかも検出できる。

 Emeraldを実際に使ってみたHarvard Medical SchoolのIpsit Vahia准教授は、「Emeraldは患者と一切触れあわずに、患者の生体情報が得られるため、医師や看護師が感染するリスクを最小にできる」と述べている。

 イスラエル政府のMAFAT(Israel’s Defense Research & Development Directorate)とIsrael’s Naval Medical InstituteがイスラエルVayyer社と共同で、リモートで人体の生体情報をリアルタイムで観察できたと発表した。新型コロナのリモート観察が可能になり医師団を守ることができると評価している。

 以上のようなミリ波テクノロジーを使って、新型コロナ患者の自宅や隔離した部屋で両用する場合も医師の病院からでも観測でき、直接触れずに済む。医師団が感染するリスクが少しでも減らせるため、今でこそ、このミリ波テクノロジーを医師団が評価するようになっている。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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