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経産省は産業界の支援者ではないのか

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

今回の日韓の貿易摩擦をみていて、経済産業省とはいったい何をする部署なのか、疑問に感じた。やっていることが日本の産業界を圧迫することだからである。強くするためのプレッシャーなら許せるが、全くそうではないからだ。

元通産官僚は、貿易管理の手順を厳しくするだけの問題なのだから、そもそも騒ぐことではないという傍観者的な観測を出しているが、残念ながら実質的にはそうではない。少し整理してみよう。

徴用工問題と無縁のはずがない

日韓関係は、政治的に対立が続いていきた。最近では、戦時中の徴用工問題で一企業に賠償させよという最高裁の判決があった。これに対して日本政府は、戦後処理は終わったという立場で一貫している。これは間違っていない。戦争という国家対国家の争いでは、一企業でさえ戦争の犠牲者であり、国家に背けば国内では犯罪者に仕立て上げられる。このため、企業といえども、国家に逆らわずに行動してきた。韓国は国家対国家の話し合いの中で日本と和解したはずである。だからこそ、政治家同士で政治決着すべき問題であった。今回はそれを日本の内閣が通商問題にすり替えたのである。

一方の韓国の現政権は、前大統領時代に国家対国家の交渉の末、決着した慰安婦問題を一方的にチャラにした。これこそ、国家の信用にかかわる事項であり、日本は国際調停にかけるべき問題だった。国家対国家で決まったことを一方的に反故にすることは戦争状態しかありえない。平和な時代には許されることではない。日本政府はこのことを交渉なり話し合いなりして説得すべきである。10回以上話し合いを首脳同士で繰り返したのにもかかわらず説得できなかったのなら、国際調停裁判にかけるべきだった。国家対国家で決めたことが一方的に破棄されたからだ。日韓関係を見る限り、現政権はここまでやってこなかった。

EUが作られ欧州がもう戦争を止めようと誓った陰には、第2次大戦で侵略したドイツのコール首相が何度も、侵略されたフランスのミッテラン大統領に会いに行き、欧州統一の話し合いを繰り返し説得した、という実績があった。だからこそ今はドイツが侵略するとは他の欧州の国々は思わなくなり、信頼を勝ち取った。EUは、ドイツの地道な努力があったからこそ成立できた。安倍政権が韓国に対してここまで努力をしているとは思えない。

加えて、慰安婦問題は「でっち上げ」の要素がある。10数年ほど前に民放テレビのニュース番組で、慰安婦と称する団体が日本にやってきてインタビューした場面で一人の元慰安婦だったという女性は次のように、なまりのある日本語で語っていた。「私は、日本に行くと良い仕事があるよ、と言われて日本にやってきたのに、あんなことをさせられた」と。この言葉を聞いて私は考えを改めた。従軍慰安婦とは、武器を突きつけられて強制的に日本に連れてこられた人たち、とそれまでは思っていた。ところが実際には、彼女は自分の意思で日本にやってきたのである。手配師にだまされたかもしれないが、自分で日本に行けば稼げる、と思ったから来たのである。誰がだましたかは不明だが(想像はつくが確証はない)、それを日本政府に賠償要求することは正しくない。ましてや、慰安婦像を設置することは事実を曲げることに他ならない。事実は、「慰安婦」は強制されて日本に来たのではなく、自分の意思で日本に来た女性だ、ということ。

日本のメーカーが機会損失を被る

そして、経済産業省は、7月1日に大韓民国に対して二つの規制を発表した。韓国を「ホワイト国」から外すことと、3種類の化学薬品を韓国に輸出する場合の検査を厳密に行い最大90日かかる可能性があること、である。

3種類の化学薬品の内、EUV(X線に近い波長の微細加工技術)レジストとフッ化水素(フッ酸)は半導体製造で使うが、もう一つのフッ化ポリイミドは有機ELディスプレイの製造で使う。フッ化水素はどのような半導体の製造プロセスでも使う。シリコンプロセスの途中で二酸化シリコンをエッチングで削るという作業が入るからだ。この材料なしで半導体を作ることはできない。だからこそ、半導体メーカーは材料を2社~3社から購買してグローバルを含め確保する。

フッ化水素(HF)の工場は韓国国内にもあり、半導体グレードに精製している。元々の原料の蛍石(CaF2)は日本も韓国も中国から輸入して、還元してフッ化水素を製造する。韓国で精製しても日本製並みの品質が得られないのであれば、日本のフッ化水素を使わずに日本メーカーにライセンスとロイヤルティを支払う仕組みを作ればよい。経済はグローバルに動き、グローバルなサプライチェーンが出来上がっているからだ。日本も政治家はトランプ大統領と同様、そのことを知らない。

またEUVレジストは、デザインルール7nm以下の製造工程で使われ始め、それ以下の超微細なプロセスで使われる。しかしEUVリソグラフィで半導体を製造できるメーカーは、台湾のTSMCと韓国のサムスンしかいない。しかもEUVリソグラフィ技術はこれから本格的に使われる超微細加工技術である。EUVレジストを製造しているのは日本メーカーが多く、一部、米国のデュポンも作っている。日本のレジストメーカーはTSMCとサムスンに出荷できたが、これがTSMCだけになる。

サムスンはメモリ最大手のメーカーであり、メモリ製品は半導体売上額の9割以上を占める。メモリにはEUVリソグラフィは使わないため、EUVレジストは残りのファウンドリビジネスで使われる。サムスンはEUVレジストを必要とするファウンドリビジネスに力を入れ始めたばかりだ。それもメモリビジネスは浮き沈みが激しいため、比較的安定なファウンドリビジネスを強化しようと昨年、事業部から事業本部に格上げしたばかりだ。その矢先にEUVレジストが入手できなくなると、サムスンの精神的な打撃は大きい。

こうなるとサムスンの選択肢はメモリをさらに強化しながら、ファウンドリの遅れを覚悟するしかない。その間、デュポンに増産を依頼することになる。一方、日本のレジストメーカーはサムスンへ実質的に出荷できなくなるため、機会損失を被ることになる。当面はメモリを強化するためサムスンの売上額が急に落ちることはないが、日本のレジストメーカーは直に影響を被ることになる。

また日本の半導体材料を手掛ける化学メーカーよりも、日本に韓国からの観光客が来なくなるなど別の要因で不利になる恐れが大きい。日本の政治家は政治問題を通商問題にすり替えず、政治決着を図るよう努力してほしい。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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