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DRAMメーカーだけが潤う半導体市場は不健全

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

6月5日の日本経済新聞の1面トップに「中国、米韓半導体を調査 3社、独禁法違反の疑い」という見出しの記事が載った。読んでみて、「やっぱり」という感想を持った。これは米国のマイクロンと韓国のサムスン電子とSKハイニックスのDRAMトップメーカー3社が独占禁止法の疑いがあるとして調査に入った、というニュースだ。

現在のDRAM市場は、この3社が世界市場の95%以上を占めている(図1)。それぞれのシェアは、サムスン電子が44.9%、第2位のSKハイニックスが27.9%、マイクロンが22.6%となっており、この3社だけで95.4%という数字である。マイクロンはかつて日本の旧エルピーダメモリ。リーマンショック後にエルピーダは銀行が融資してくれなかったために、会社更生法を適用せざるを得なくなり、マイクロンに買われた。

図1 DRAM市場は上位3社が95%のシェアを占める 出典:TrendForceの数字を津田建二がグラフ化
図1 DRAM市場は上位3社が95%のシェアを占める 出典:TrendForceの数字を津田建二がグラフ化

寡占化している3社がカルテルを結んでいるのではないか、意図的に生産量を増やさなかったのではないか、という疑いを持っても不思議ではない。世界最大のDRAMユーザーがいる国、中国がそのうちそういった疑いを表明するのではないか、と思っていた。今回の記事は、「やっぱり」と、合点がいった。

これらDRAM3社が寡占化しているからといってもカルテルを結んでいるという証拠はない。それも韓国の2社は犬猿の仲といわれるほどの強いライバル意識を持つ。ただ、DRAMは、これまで生産を始めてから、生産歩留まり(良品率)が習熟曲線に従って徐々に上がり価格は下がっていく、という性質のビジネスである。いわば昔ながらの大量生産による量産効果で値下がりしてきた。だから、値下がりしてくるのが当たり前の製品である。

メモリでは、単価が下がったからといっても歩留まりが上がるので、ほぼ同じ手間で生産量が増えることになる。このために価格を下げてもビジネスをやっていけた。さらに製品単価が下がってくると、パソコンやスマートフォンのDRAM容量を増やすことができ、システムを高速化できた。だからパソコンやスマホのメーカーはDRAMを多数使うようになってきた。加えて、単価が下がりパソコンやスマホ以外の用途も開けてきた。このため、メモリメーカーもそれを使って最終製品を作るユーザーも共に収益を増やすことができた。健全な経済成長であった。

ところがこの1年は、値上がりが続き、下げ止まらないという異常事態が続いてきたのである。半導体が今絶好調だと喜んでばかりいられない。2017年には3社の生産量はわずか3%しか増えていない。彼らの言い分は、NANDフラッシュに大きな投資を行い、DRAMに手が回らなかったということだ。NANDフラッシュは3D(3次元)化に進むことでメモリ容量を増やそうとしてきたが、いかんせん複雑なプロセスであったため、歩留まりが上がらず生産量を増やすことができなかった。ようやく今年に入り、歩留まりが上がり、十分な量を供給できるようになり、NANDフラッシュは値下がり始めている。

しかしDRAMだけは依然として値上がりが続いてきた。生産数量を増やさなければ値上がりするのは当たり前。これに対しても、実は今回の半導体メモリ不足が来る前の2015年6月から2016年6月までは、全世界の半導体産業は、対前年同月比でマイナス成長をほぼ1年間続けた(図2)。DRAMはその前の半年間在庫がたまりすぎて、はけ終わることを待っていたのである。

図2 世界の半導体は少しずつ健全な成長へ 出典:WSTSの数字を津田建二が加工、グラフ化
図2 世界の半導体は少しずつ健全な成長へ 出典:WSTSの数字を津田建二が加工、グラフ化

DRAMの在庫をいつ吐き終わり新たな生産増強はいつできるのか、半導体業界はDRAMユーザーの動向を見つめていた。図2はDRAMを含む半導体全体の売り上げ推移を表したものだが、この図からわかるように、2016年7月からようやくプラス成長に転じ、それ以降はずっとプラス成長を続けてきた。世界半導体市場は、2017年3月からほぼ20%増を1年間続けてきた。もちろんDRAMとNANDフラッシュがけん引してきた。

メモリの値上がりは、結局半導体ビジネスにおいて、自分で自分の首を絞めていることになる。メモリが高い→スマホも値上げ→さほど売れなくなる→数量が増えない→メモリ以外の半導体の量が増えない→メモリ以外の半導体の売り上げは減少、というサイクルに至る。例えばアップルのiPhone Xは売れない、売れないと言われ続けているが、iPhoneの生産量はそれほど増えなかったが売り上げは大きく伸びたのである。単価を上げたためだ。2017年にDRAMは前年比75%成長、NANDフラッシュは45%成長、メモリ以外の半導体は10%成長、という結果だった。メモリの恩恵を受けないTSMCには、仮想通貨のマイニングチップという特需があったために10%成長できたが、この特需がなければわずか一桁成長に留まらざるを得なかったのだ。

NANDフラッシュが値下がりしてきたことは生産量が上がったことを意味する。決して景気後退に入るとは限らない。メモリ産業特有の傾向だが、数量が増え単価が安くなるとみんなが使える価格になるため、用途が広がりビジネス環境は良好になる。メーカーもユーザーもみんなハッピーな状況になるのである。

ただし注意しなければならないことは、半導体ユーザーの在庫状況が適正かどうかという点だ。供給不足になるとユーザーは少しでも製品を手元におくため、二重・三重の発注を行う。今の段階では、どの程度二重・三重の発注をしているのかまだ把握できていないが、それほどひどくなければ成長は続くとみてよい。

                                                       (2018/06/07)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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