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半導体シェア7%、日本の一人負け

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

日本の半導体産業の世界シェアは2017年に7%まで落ちた。これは米市場調査会社のIC Insightsが調べたもの(図1)。本社の所在地別に、米国、欧州、日本、アジア太平洋(日本を除く)の市場シェアでは、2017年に米国がトップの49%、2位がアジア太平洋の38%、3位が日本7%、4位が欧州の6%という順位だった。

 図1 世界半導体シェア 本社のある地域ごとで表現 出典:IC Insights
図1 世界半導体シェア 本社のある地域ごとで表現 出典:IC Insights

1990年には日本が49%のシェアを占め、世界の頂点に立っていたが、それ以来ずっと下がりっぱなしだった。その10年後の2000年には25%と半分まで減ったのにもかかわらず、的外れのコンソーシアムを設立したり、得意な製造を捨て、安易にシステムLSIへ向かったりするなど、打つ手は戦略的ではなく全てチグハグなやり方に終わった。最大の責任は、半導体部門の経営者というよりもそれを常に一部門あるいは子会社として扱っていた総合電機や電機通信企業の経営者にあった。

2009年のリーマンショック後以降は、電機という親会社の業績が悪く、半導体を完全に見捨てた。しかし、電機の業績はいまだに回復していない。彼らは半導体を切り捨てれば電機本体は回復するという甘い期待を抱いていた。しかし残念ながら売り上げは落ちたままだ。V字回復を遂げ、勝ち組と言われる日立製作所やパナソニックでさえ、利益は出るようになったものの売り上げは上がっていない。つまりリストラして利益は出たが、成長していないのである。半導体がダメだから半導体を切り捨てたのにもかかわらず、電機本体が悪かったことにようやく気が付いた。しょせん、半導体のようなスピードが命の企業を経営することは、旧大蔵省の護送船団方式の財閥企業には無理だったようだ。

そして、半導体産業は2010年の17%から2017年の7%というさんざんな結果になった。図1を見る限り、半導体産業は日本だけが一人負けしている。米国はシェアを維持し、欧州はやや低下、日本のシェアが大きく低下した分、アジアが急成長している。これはサムスンやSKハイニクスのようなメモリメーカーが潤い、2017年に急激に伸ばした。この統計は半導体製品を扱っているため、ファウンドリは含んでない。つまりTSMCの業績は入っていない。

なぜ日本の一人負けか?戦略がなかった、あるいは中途半端だったからだ。メモリを続けるのであれば、IDM(設計から製造までを受け持つ垂直統合メーカー)は良いシステムだ。設計よりも製造に圧倒的な重きがあるからだ。しかし、システムLSIへと舵を切り替えたのであれば、ファブレスとファウンドリに分化すべきだった。世界の半導体でメモリ以外とIntel以外は全てファブレスとファウンドリに分化した。にもかかわらず、日本のメーカーはIDMにこだわった。その結果、工場の生産ラインが埋まらず、赤字を垂れ流した。筆者は、世界の半導体が水平分業に移ったことをいろいろな講演や書籍(参考資料1)で訴求していたが、残念ながら理解されなかった。「世界は水平でも、日本は従来通り垂直統合だ」、といつも言われた。メモリを捨てた日本なのに、垂直統合にこだわり負けた。

東芝はNANDフラッシュというメモリを作っていたから、まだ垂直統合でもやっていけた。垂直統合を推進し、メモリという大量生産製品を持っていればよかった。しかし、日本の半導体は、数量の出ない少量多品種のシステムLSIへとシフトした後でも垂直統合にこだわり、設備投資をやってきた。システムLSI=ファブレス=投資はソフトウエアと人に、という図式を描けなかったのである。では工場をどうするか。処分するか、ファウンドリを推進するかしかない。ファウンドリならば、様々な顧客からの注文を受け付けることで工場のラインが埋められる。

国内でも日本ファウンドリを作ろうという動きはあった。経済産業省の役人の天下り先となるべき格好の場であった。しかし、システムLSIメーカーは自分の製造工場を手放さなかった。これではファウンドリを作っても注文は来ない。しかもファウンドリ事業をやるからには、PDKや設計ツールを揃え、どのレベルの顧客にも対応できるようにしなければならない。TSMCは、Global Unichipという設計子会社を持っている。顧客のレベルに応じて、RTL、ネットリスト、配置配線レイアウト、などどのレベルの顧客にも対応できるようになっている。だから設計も、製造も注文を受け付けられ、強い。

昔、ルネサスやNECエレクトロニクス、富士通などがファウンドリも手掛けているとかつて言っていたが、これは「たばこ屋さん」と同様、ひたすら待っているだけの商売だった。しかも、注文が勝手にやってきて自社のラインが空いているときだけ受け付けるという殿様商売だった。これはファウンドリビジネスとは言わない。

では、日本は今後どうすべきか。日本はやはり製造業が得意である。本気でファウンドリをやる気があれば今からでも遅くはない。出資者を募り、天下り先にならないように「ビジネス感覚」を研ぎ澄ました人たちと、プロセス技術者や設計技術者を募る。同時に、徹底したファブレスを推進するため、ITのトレンドに集中して取り組み、時代の進展に乗った製品を開発する。常に世界の動きをウォッチして、トレンドを抑えるためのネットワーキングやセミナー、マーテケィングなどに投資する。トレンドに沿って今はソフトウエアでもいずれチップ化するようなAIやIoT、さらには最初から半導体が必要なクラウドや5G通信などに必要なシステムの動向を見て、何をソフトウエアで、何をハードウエアで、組み込むのかを見極める。そのためにはソフトウエアへの投資は欠かせない。ユーザーを増やすためのハードとソフトの開発キットを充実させる。もちろん、作り手の視点を捨て、顧客の視点に立つこと、は言うまでもない。

参考資料

1. 津田建二「半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞社、2010年4月

                                                      (2018/04/12)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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