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2018年はドッグイヤー

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

戌(いぬ)年の2018年はまさにドッグイヤーである。犬の寿命は人間の1/3~1/4と短いので、ドッグイヤーの1年は人間の3~4年に相当する。つまり、ドッグイヤーとは、3~4年の仕事を1年で終えることになる。犬の世界を人間の世界に置き換えると、世の中の動きが非常に速く、3~4倍の速度で仕事しなければならないことになる。

ITの世界は犬と同じスピードで動いている、と20年前から言われてきた。つまりITを企業に採り入れようとする場合には3~4倍もの速い経営判断が求められる。ソフトウエアを使ったサービスが中心のIT時代は、3~4倍の速度でもついていけた。しかし、今はソフトウエアだけではなく、ハードウエアも大きく変革する時期に来ている。ハードウエアの重要なインフラとなるコンピュータのアーキテクチャが基本的に大きく変わらざるを得ない時期に来ているからだ。コンピュータアーキテクチャの重要なインフラはもちろん半導体チップである。

米国では国を挙げて、Rebooting Computer(リブーティングコンピュータ技術)、すなわちコンピュータアーキテクチャそのものを再起動しよう、というキャンペーンを張っている。その候補がAI(人工知能)であり、量子コンピュータなどである。要は超並列コンピューティング技術だ。

従来のフォンノイマン型コンピュータは、演算部と記憶部に分けプログラムを書いて指定通りに動かすものだが、次の新しいリブーティングコンピュータ技術は全く新しい概念が必要となる。その一つが人間の頭脳を模倣するやり方だ。もちろん、ノイマン型コンピュータも頭脳を模倣したものではあるが、新型コンピュータは頭脳の仕組みの発展と共に生まれるものに違いない。

ただ、人工知能という言葉は非常にいい加減に使われてきた。昔はちょっとした自動制御も人工知能と呼んだことがある。現在は、ニューラルネットワークを利用するディープラーニングや機械学習をAIという呼び名を使っていることが多いが、それだけではない。頭脳を模倣するという意味のニューロモーフィック半導体チップも登場しており、IBMや最近ではIntelも開発している。これらは脳の神経細胞(ニューロン)とそれらをつなぐ節点(シナップス)でネットワークを構成したニューラルネットワークを基本とするアーキテクチャだ。これをベースにして機械学習やディープラーニングを行っているのがNvidiaなどのAI技術である。

頭脳の機能は最近になってわかってきたことも多い。例えば、人間の脳の一部である海馬は記憶をつかさどる役割を持つと言われてきたが、最近では過去の記憶やそのエピソードから新しいことやモノを生み出す創造力もあることがわかってきた。記憶と創造という役割を利用するAI技術も日本の小さなベンチャーが開発するようになってきた。つまり、AI技術といってもディープラーニングだけではない。

2018年はさまざまなAI技術が登場し、それをチップ化して性能を上げ、消費電力を下げる努力が世界中で行われるであろう。もはやハードだけ、ソフトだけ、は許されない。両方を理解する必要が出てくる。

さらに、何の目的でAIを利用するのか。その牽引力となるのはIoTやデジタル化に必須のセンサのアプリケーションである。それによってソフトウエアが決まり、ハードウエアはセンサとその応用、アナログフロントエンド回路、センサフュージョン回路、そしてデジタルのAIか従来型コンピューティングか、などを組み合わせることになる。最後は情報に変換したセンサデータを手元や顧客のもとに送る通信技術が必要になる。こういったシステム全体をデジタル化やデジタルトランスフォーメーションと呼ぶが、全体をセキュアに保つ技術も欠かせない。セキュリティ技術はどのようなアーキテクチャにも対応しなければならない。つまりここにも大きな市場があるという訳だ。

こういった新市場、新技術はできるだけ素早く開発しなければならないが、そのためには素早い経営判断が必要となる。過去の実績を求めるような幹部は、IT/エレクトロニクス市場から消えた方がよい。ドッグイヤーには、実績は不要。潜在市場や利用シーンなどの想像力は絶対に必要。そして投資するのかしないのか、素早い決断が勝負を決める。かつてのシャープや東芝の経営者のぐずぐずはこの時代にはそぐわない。だから負けたともいえる。

シリコンバレーではすでに毎日がドッグイヤーだ。日本ではこれまでのマインドセットを切り替え、素早い判断が必要で、そのためのスリムで透明な組織に変え、差別意識のないエコシステムに対応するなど、全く新しいビジネス手法が経営者に求められる。AIベンチャーを先頭にドッグイヤーにふさわしい企業が伸びる社会を志向することこそ、これからの日本に必要ではないだろうか。

                                                       (2018/01/03)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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