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LED街灯をスマートシティのハブに

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

LED街灯が各地に設置はされているようだが、あまり普及していない。理由はLED照明のコストが高いからだ。そのコストに見合ったLED街灯の設置は可能か。実はテクノロジーの進歩がそれを可能にしている。環境に厳しい欧州では、LED街灯を利用してそこをスマートシティのハブとしようという提案が出てきている。つまり街灯なのに、その役割を街灯だけではなく、センサを備えた駐車場や防犯灯、電気自動車の充電ステーション、携帯通信の基地局など、LED街灯にさまざまな未来志向の機能を持たせるのである(図1)。

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図1 LED街灯は単なる街灯ではない インターネットとつながるIoT端末・基地局・EV充電器を備えスマートシティのハブとなる 出典:Infineon Technologies

これまでも、経済産業省が音頭を取って、白熱灯や蛍光灯に代わるLED街灯の設置を進めてきた経緯はある。しかし、単なる電球や蛍光灯をLEDに替えただけでは機能が乏しく、コスト的にも見合わない。毎日点灯させても数時間程度ならコストの回収に何年もかかる。セブンイレブンやローソンなどのコンビニエンスストアの店内電灯をLED照明に替えたのは24時間運転すると2年以内で回収できるからだ。街のLED街灯となると、夕方から朝まで点灯するだけではせいぜい12時間。回収に4年はかかることになる。

ところが、この街灯の太さと容積なら、さまざまなセンサを付けられるうえにIoT端末やIoTゲートウェイ、LPWA(低消費電力広域)などのIoT基地局などにも使え、さらに携帯の基地局にも使えることができるようになる。つまり、半導体テクノロジーの進歩により、IoT端末やゲートウェイは言うまでもなく、非常に小型の基地局やアンテナ、EVの充電ステーションさえも収められるようになってきたのだ。これまでなら、引越しに使う大きな段ボールサイズの大きさだった装置が、やや長めの弁当箱程度に小型になれば、設置すべき場所はどこでも可能になる。基地局やIoTゲートウェイだけではなく、EVの充電ステーションさえも街灯の大きさに収めることができるようになっている(図2)。

図2 街灯のEV充電器 出典:Infineon Technologies
図2 街灯のEV充電器 出典:Infineon Technologies

図2 街灯のEV充電器 出典:Infineon Technologies

欧州では、数年前のMWC(Mobile World Congress:携帯通信業者の展示会)にスウェーデンの通信機器会社エリクソンがLED照明器具のフィリップスと共同で、街灯基地局を提案していた。このほど、LED照明のベンチャーであるエルミノシティ(eluminocity)がインフィニオンテクノロジーズとインテルがスマート街灯を共同で開発中であることが明らかになった。これはインフィニオンがスマート街灯プロジェクトに24GHzの準ミリ波レーダーシステム、高効率のパワー半導体、マイコン、セキュアマイコンOPTIGAなどを提供する。インテルはLTEや5Gに向けたIoT基地局向けモデム半導体(LTE Cat.1/M1/NM1/NB-IoT/5G-IoTなど)を用意する。

 エルミノシティのLED照明に24GHzのレーダーを使えば、近接センサとして働き、クルマや人の有無を検出できるため、駐車場のライトとしても使える。IoTのモデムを持っているためインターネットともつながり、スマートフォンで駐車場の空き状況や自分のクルマを止めた場所などを知ることができるようになる。これを街全体に適用すれば、クルマの混雑状況、空き状況など都市計画担当者や店舗の所有者にとって有益なデータを生かすことができるようになる。また、LED街灯にWi-Fiモデムを内蔵することによりWi-Fiルータにもなる。

 またこのLED街灯を一つのIoT端末としても利用すれば、温度計、湿度計、都市の大気汚染物濃度を測るガスセンサ、MEMSマイクを実装すれば騒音計にもなる。特別な場合かもしれないが、クルマ同士が唐突事故を起こした時の衝突音や発砲事件があればその音も銃に関するデータになりうる。また、LED街灯そのものの寿命データを保存しておけば、経時変化の調整に使う、あるいは交換時期を予め知ることができる。

 LED街灯は都市への集中が進むにつれ、都市問題解決の切り札になりうる。従来の単なる街灯ではなく、センサや通信手段、コンピュータ、IoT、充電器などを備えた都市の総合ハブとして機能する。環境問題に敏感な欧州では、これまで都市の景観という立場から電柱の地下化を定着させてきた。光ファイバを敷設する場合には地面を掘らなければならずコスト的に見合わないため、ほとんど普及しなかった。ところが5G時代になれば光ファイバの速度を無線通信で実現できることになり、無線通信設備の設置はマストになるが、都市の景観やCO2削減の環境目標を同時に達成することもマストになる。LED街灯設備への給電は地下のケーブルから取ればよい。提案されたLED街灯は、街灯という市民への安全、駐車場ビジネス、IoTシステム、環境への配慮、インターネットビジネスなど、これら全てを同時に達成する新しい都市作りのカギとなりうる。

                                                       (2017/08/06)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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