日本半導体が成長するために必要なこと

amsジャパンのデザインセンター開所セレモニー

先日、久しぶりに、デザインセンターを開設するという発表を聞いた。何年ぶりだろうか。欧州オーストリアをベースとする半導体メーカーams社が東京・品川にデザインセンターを開設(図1)、そのために必要な優秀な(talented)アナログ回路設計者を募集している。かつて日本の半導体メーカーは、ICチップを開発・設計するためのデザインセンターを各地に開いた。外資系半導体企業も東京や関西、名古屋にデザインセンターをよく開いた。

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しかし、最近では、「半導体=落ち目の産業」、という図式が経済産業省や産業界にあるようだ。半導体産業の本質を理解していない人間ほど、この傾向が強く、我々メディアの記者も同様だ。日本の半導体が製造を手放していくにつれ、本来ならコンテンツも製造から応用へとシフトしていかなければならないが、編集コンテンツを製造にこだわり続けた「電子ジャーナル誌」は3月末に廃刊した。

昨年、世界の半導体産業は10%成長したが、日本だけがマイナスだった。日本が世界の成長の足を引っ張らなかったなら、もっと高い11~12%くらい成長していた可能性がある。円安の影響は、ドルベースで外国企業と比べると低い数字になることを考慮すると、日本市場がたとえ横ばいでもマイナス成長となってしまう。

しかし、半導体産業の本質は、今や製造ではない。半導体チップにソフトウエアを組み込むことができるようになったこと、それによってシステムを半導体チップに組み込むことができるようになってきたことだ(参考資料1)。たとえ微細化技術が止まったとしても、ソフトウエアという人間の知恵を組み込むわけだから、その成長の可能性は無限にある。

外国の半導体がいまだに成長できているのは、チップに埋め込むソフトウエアの開発に力を入れ、そのソフトウエアを差別化技術(コアコンピタンス)にしているからだ。

日本の半導体産業は、得意だった製造技術を放棄し、ファブライト・ファブレスに向かってきた。その割にシステム設計できるエンジニアを養成してこなかったツケが不振を増長している。製造工場が必要なのは、大量生産が未だに強く求められるメモリ(NANDフラッシュやDRAM)とCMOSセンサくらいなもの。それぞれ東芝、マイクロン(旧エルピーダ)、ソニーが自前の工場を持っているのは、20世紀型の(ソフトウエアを必要としない)大量生産方式が必要な製品だからである。NANDフラッシュメモリとCMOSセンサはこれからも市場があるから大量生産が求められる。だから当分はしのげる。しかし、メモリもイメージセンサも十分足りるという時代が来ると、さあ大変になる。

韓国のサムスンは、NANDフラッシュもDRAMも大量生産しているメモリメーカーであるが、製造だけを請け負う「ファウンドリ」事業も持っている。ファウンドリ事業は自社のブランドを持たない、「黒子ビジネス」である。サムスンに続きインテルもファウンドリに力を入れ始めた。しかし、日本は得意な製造を捨て、ファウンドリビジネスに切り替えることができなかった。自社ブランドにこだわり続けたからだ。

一方の台湾は、昔から自社ブランドよりは「実」を取る企業文化がある。古くはパソコンの請負製造をエイサーやマイタック、エリートグループなどが請け負っていた。次に半導体ビジネスを始めた時、製造だけの請負というビジネスを選び、TSMCやUMCという世界的なファウンドリ企業を生み出した。かつてはパソコンのケーブルやコネクタを生産していた鴻海精密工業は今や、iPhoneの製造を請け負うEMS企業として世界一になった。いずれも自社ブランドを持たない。エイサーは今でこそ自社ブランドのパソコンを持っているが、ブランドにこだわらない。この柔軟さが台湾を一大IT/エレクトロニクス製品の巨大基地にのし上げた。

では、製造を捨てたこれから日本のファブライト半導体が生きていくためにはどうすべきか。システムソリューションを提案できるような、ソフトウエアとハードウエアを理解できる能力を持つことである。外国のファブライト/ファブレスメーカーは、これができるから成長できているのである。

幸い、ルネサスは5月12日の決算報告会で、ルネサスはこれからシステムソリューションを提案できる会社に脱皮する、と作田久男CEOが語っていた。もう、石(シリコン)の時代ではない。システムソリューションを握る企業が勝つ時代だ、という認識を持っている。だから、元日本オラクルの社長であり、長年IBMで活躍された遠藤隆雄氏を次期CEOに推薦した、と述べた。クアルコムやメディアテック、ブロードコム、ザイリンクスなどの成長するファブレス企業と同じようにシステムソリューションを提案できる企業を目指すのである。日本の半導体企業でここまで言い切った経営トップはいない。非常に頼もしい。筆者は、「システムソリューションの提案には優秀な人材が欠かせない。どうやって確保するのか。その選択肢の一つに企業買収は視野に入れているのか」と質問すると、作田氏は「企業買収の可能性はある」と強く答えた。エレクトロニクス業界にいる、ある外資系のエンジニアも私と同様なことを言う。ルネサスのエンジニアと話をしている彼は「最近のルネサスは変わった。日本の半導体の中で将来最も成長できる要素を持っている企業だと思う」と言っていた。

アナログとミクストシグナル半導体を手掛けるamsが日本にデザインセンターを開いたのは、日本市場が自動車製造と、産業機器の製造の大きな市場があるからだ。これまでの日本の半導体がだめだったのは、日本の民生エレクトロニクス業界を相手にしてきたからだ。日本の民生が沈みゆくから半導体も引きずられたのである。今のソニーやシャープがその好例だ。だから強い半導体メーカーは海外市場を見る。国内なら民生ではなく自動車と産業応用を見る。むしろ、民生なら外国市場を狙うべきなのだ。

世界をよく見て、日本をよく見て、自社の強みを伸ばし、顧客のシステムを理解し、世の中の動向(メガトレンド)をつかめば、日本の半導体は必ず復活する。30年以上も前にディスクリートのマイクロ波ダイオードを開発していた時、上司から「君たちはもう、半導体の勉強はやらなくていいから、システムの勉強をしろ」と言われた記憶が鮮明によみがえる。SoC(システムLSI)は今その時代に来ている。

参考資料

1.津田建二「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞刊、2010年4月