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海外出張旅費の価値とは何か

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

海外出張する時にいつも気になっていることがある。訪問した街にいると日本人をほとんど見かけないが、空港へ行くとどこからか来るのかと思うくらい日本人が大勢集まる。特にJALやANAのような日本の大航空会社の場合はなおさらだ。しかし、その街を歩いていても、ほとんど日本人を見かけないことが多い。多くの日本人観光客は旅行会社のツアーで来ているせいであろう。

西欧の人々は個人で行動することが多いせいか、大勢一緒にいるという状況をあまり見たことがない。特に英国は日本と同じように島国なのに、一人で海外へ行くことに全く抵抗がない。同じ島国なのに、日本は英国とはずいぶん違う。英国に限らず日本は外国とは考え方が大きく異なる。

最近の企業における海外出張はどういった行動パターンなのだろうか。私は昔からふつうは一人で出張してきた。かつて大会社にいた時は社長のかばん持ちのようなスタッフとして出かけたことが2~3度あったが、決して見聞を広められる楽しい出張ではなかった。

ここ10数年は、1人あるいは、せいぜい2人での出張が多い。それも最も安いUnited Airlineが多く、それなりに面白い。日本人が少なく、いろいろな人種の人たちと出会えることも面白い。先月米国からの帰りの便では、インド人の2人の幼い姉妹が隣に座っていた。私は通路側に座っていた。父親が時々心配そうに見に来るので、代わりましょうか?というと、いやいい、と素っ気ない。20席くらい前の座席に夫人らしき人と座っていた。

その父親は、時々見に来て、子供がうるさいかもしれませんがすみませんね、と言う。いや、子供たちは仲良く、「アナと雪の女王」に見入っていて、おとなしいですよ、と返す。父親はインドなまりの聞いづらい英語だが、子供たちは米国で育っているせいか、聞きやすい英語を話す。幼い姉妹は映画を見ながら楽しそうに時々笑い、こちらまで何かほのぼのとした気持ちになり、リラックスさせていただいた。日本の航空会社やビジネスクラスでは、こういった思いを経験したことがない。

日本の航空会社のビジネスクラスでは昔、嫌な思いを何度か味わった。それは、女性のキャビンアテンダントに威張り散らすオッサンが隣に座る場合だった。横柄な態度で女性のアテンダントに酒を注文する。なんでもすぐに「客」をカサに着る。こんなオッサンとは口も聞きたくない。結局、エコノミークラスの方がずっと楽しい記憶が多い。

考えてみれば、ビジネスクラスはわずか10~13時間の間に40~50万円も高い料金を払っている。エコノミーだと米国西海岸15~20万円で往復できるが、ビジネスだと少なくとも30万円以上上乗せることになる。その価値はあるだろうか。その分、1泊のホテル代を1万円上乗せしてビジネスに適したホテルに泊まる方がずっとお金を有効に使えるのではないか。

危険な安いホテルではビジネスの信用にもかかわる。仮に5泊してもアップするお金はわずか5万円だ。1泊3万円のホテルに5泊、エコノミーチケットで出張する場合の出張費は30~35万円。1泊2万円のホテルに5泊、ビジネスチケットで行く場合は55~60万円。ビジネスの信用と効率を考えれば、どちらが有効なお金の使い方なのか、一目瞭然だ。米国の代表的な通信機器企業のシスコシステムズの経営トップが安売りのエコノミーで日米を往復するという話は本当だ。そのほかにもエコノミーで米国出張する外国人社長を何人も知っている。利益率の高い企業は、「価値」をしっかり意識している。

ソニーのストリンガー元CEOは社長時代、毎週ロンドンの自宅からニューヨーク、東京をファーストクラスで出張し、ソニーが大赤字を出してもこのスタイルを変えることはなかった。誰も文句は言わなかった。言えなかった。「価値」を議論したことがないのだろう。

(2014/05/16)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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