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変化の激しい時代こそ、メガトレンドを捕まえることが不可欠

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

半導体/IT産業は激しく変化している。ついこの前まで携帯電話では断トツで世界ナンバー1だったノキアが、あらよ、あらよ、という間に沈んでいった。マイクロソフトがノキアを買収しようとしているが、この先はどうなるか。ノキアの前はモトローラが強かった。これも沈んでしまった。今はサムスンがトップだが、すでに陰りも見えている。サムスンの脅威は華為やZTEなどの中国勢だ。

変化の激しい時代や産業は時代の流れ、すなわちメガトレンドを見ながらではないと経営の舵をうまくとれない。大きな流れを見ながら、自社の強みを生かし弱い部分を強い企業と組み、世界最強の製品を作る。これが今、半導体の世界の勝ちパターンになっている。アーム、クアルコム、インテルなどはコラボとそれを通じたエコシステムを構築している。いかに最良・最強の企業と組むかが重要であり、水平分業か垂直統合化の違いはむしろどうでもよい。最強の相手が社内にいなければ社外と組む。日本にいなければ外国企業と組むだけの話である。このためにはやはり、世界の動きがどうなっているかを抑えることが決め手となる。メガトレンドは世界の動きそのものである。

世界の大きなメガトレンドをしっかりつかむ企業でなければ今は生き残れない。日本の半導体はかつて、世界のメガトレンドを無視した結果、大敗したという苦い経験がある。DRAMで世界のトップから見る見るうちに転げ落ちていった様は、まさにメガトレンドを無視した結果であった。コンピュータの世界で、ダウンサイジングという大きなメガトレンドを見ようともしてこなかったのである。

DRAMは1980年代前半から大型コンピュータ(メインフレーム)に使われるようになった。日本の半導体メーカーは、16Kビットまでの米国支配から64Kビット以降は我が世の春を謳歌した。1986年には世界半導体ランキングの1位NEC、2位日立製作所、3位東芝という圧倒的な地位を手に入れた。DRAMは64K、256K、1M、4Mとひたすら4倍の集積度を上げていけばよかった。マーケティングで顧客の声を聞かなくてもひたすら4倍の製品を開発すればよかった。当時の大型コンピュータから見るとDRAMの容量は小さすぎて、集積度を上げてくれさえすればよかったからだ。

ところが、コンピュータサイドは大きなトレンドを起こしていた。大型コンピュータでは、ユーザーがプログラムを書いても、大勢順番待ちを強いられ3~4日間待たされることが常だった。このためコンピュータユーザーは、性能が多少低くてもいいから、もっと安くていつでも使えるコンピュータが欲しい、という要求を強めていた。このためコンピュータは大型から、ミニコンやオフコン、ワークステーションと小型に向かっていた。その究極がパソコンだ。スーパーコンピュータでも同様にミニスーパーコンへの要求が高まっていたのである。ところが、パソコンに使うメモリとなればとにかくコストを下げることが最優先。このため誤り訂正回路を使った高信頼のDRAMよりも、低コスト重視のDRAMへとトレンドは動いていった。

この動きにいち早く飛びついたのが米国のマイクロン社だった。安く作るための設計技術・製造技術、全てをつぎ込んだ。デザインルールを小さくする微細化(リソグラフィ)技術、同じデザインルールでもチップを小さくできるコンパクトなレイアウト法、そして工程を短くするマスク削減、こういった技術を1985年前後から注ぎ込んだ。レイアウト設計の天才エンジニアをMostek社から引き抜いた。彼らはとにかく低コストで作ることに専念し、チップを大きくしない技術を最優先した。狙いはパソコンのみ。もしパソコンがソフトエラーを起こしてフリーズしたら再起動をかければすむ。ソフトエラーを防ぐための回路を集積するとチップが大きくなってしまうことを嫌った。

ところが日本のDRAMメーカーは相変わらず大型コンピュータ向けに誤り訂正回路、冗長ビット回路などエラーを起こさない回路を集積した高価なDRAMを作り続けた。マイクロンからライセンス供与を受けたサムスン電子が90年代前半にDRAMを出しても国内トップの責任者は「安売り競争に巻き込まれたくないから安いDRAMは作らない。人件費の安い国の企業とは競争しない」と明言した。ところがマイクロンが安いチップを製品化すると、初めて黒船が来襲したような大騒ぎになった。時すでに遅し。時代は大型コンピュータからパソコンへ主役が交代していた。日本メーカーは世界のトレンドを見ずにやってきた結果、大敗したのである。

この苦い経験を二度と味わってほしくない。このためには世界の大きなメガトレンドを知り、自社が向かうべき方向をつかみ、世界のトレンドと一緒に成長していけばよい。こう思っていた矢先、日経BP社未来研究所から半導体の未来を見据える本を作りませんか、という依頼を受け、二つ返事で引き受けた。12月17日に発行した「メガトレンド 半導体 2014-2023」は、メガトレンドから見える未来社会、未来のシステム、要求される半導体、といったストーリーで作った。

残念ながら、日本国内では半導体は落ち目の産業のように思えてしまう。新聞は、リストラや工場売却の話しか報道しないし、半導体企業の成功した仕事について全く報道しない。2013年に日本の半導体産業は円ベース決算で2~4%成長したのにも関わらず、である。

半導体はこれから先の成長分野の中核エンジンになる。医療・ヘルスケア、スマートグリッドやコミュニティ、スマートハウス、電気自動車やプラグインハイブリッド、全自律運転カー、ロボット、人工衛星、再生可能エネルギー、IoT(Internet of Things)、ワイヤレスセンサネットワーク、エネルギーハーベスティング、モバイル端末、通信インフラ、IT/クラウド・コンピューティング、NFCカード、ともかくこれから成長するビジネス分野の全てにおいて頭脳となり心臓となる。半導体がなければ、これらの成長分野は成り立たない。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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