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鉄人28号の正太郎少年は今も活躍中

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

年配の方なら、鉄人28号の正太郎少年を覚えているだろう。鉄人28号は、横山光輝氏が昭和30年代に描いた少年漫画の一つ。ラジコンを操作して、ロボット鉄人28号が悪をやっつけるというストーリーだ。鉄腕アトムと並んで、当時少年たちのヒーロー的存在だった。誰もが希望を持っていた時代のことだ。

その正太郎少年のモデルとなった人物に最近取材した。「正太郎少年」は今も健在だ。DC-DCコンバータや電源用IC、POLなどのパワーマネジメントICを開発している中堅企業、ベルニクス社の代表取締役社長、鈴木正太郎氏がその人だ。

彼と数年ぶりに話をしたのは、アルテラ社を取材したことがきっかけだった。同社はニュースリリース「アルテラ、電源回路技術のイノベーターであるエンピリオンを買収し、FPGA向けの画期的な電源ソリューションを提供」を発表した。このニュースを取材、その記事を「Alteraが高効率電源メーカーEnpirionを買収した理由とは?」としてセミコンポータルに掲載した。

アルテラやザイリンクスが手掛けるFPGAは高集積で、最近ではARMのCPUコアとその標準バスでFPGA論理ブロックをつなぐSoC(システムLSI)まで発展している。28nmないし22nmと微細なLSIは、電源電圧が低く、動作電流が大きい、という特長を持つ。ロジックの大電流が一気に流れると電源Vccラインや信号ラインが揺さぶられ、PCB基板上の他の回路がノイズの影響を受けやすくなる。FPGAの電源ラインが大電流で大きく変化するからだ。このため、プリント配線基板上では、できるだけLSIと電源を近づける回路トポロジーを採る必要がある。こういったDC-DCコンバータはPOL(point of load)と呼ばれ、FPGAの近くに配置するのが電子回路技術者の常識となっている。

アルテラにおいて、買収したエンピリオン社の話を聞けば聞くほど、ベルニクスの持つPOL製品を思い浮かべた。ベルニクス社のPOL電源は評判が高く、アルテラのライバル企業であるザイリンクスが一押しで採用した。ベルニクスの製品と比べ、いったいどのくらい優れているのか、あるいは劣っているのか知りたくなった。だからアルテラの取材が終わると、すぐにベルニクスも取材しようと思った。ベルニクスのホームページを見ると、なんとエンピリオンの製品を扱っている。ベルニクスはメーカーであるのにもかかわらず、商社機能も持っている。まるで東京エレクトロンのようだ。そこで、思わずベルニクスの鈴木正太郎社長に電話インタビューした、という訳だ。

彼がなぜ正太郎少年のモデルだったのか、数年前、鈴木正太郎社長に伺ったことがある。実は、彼の父親と横山光輝氏が飲み屋で知り合い、横山氏が鉄人28号の構想を鈴木氏の父親に話したそうだ。その少年の名前を付ける時に、父は息子の名前を提案したら横山氏はあっさりと受諾したという。

鈴木正太郎社長はアナログやパワーマネジメントのエキスパートだ。アナログ回路や電源回路はノイズとの戦いである。しかもノイズは、問題としているPCB基板で解決されたからといって、別のPCB回路基板でも解決できるとは限らない。スケーリング理論はない。統一的な理論がない。配線の幅やループになりやすい配線の配置・レイアウトによって発生する電磁波の挙動が異なるからだ。ノイズ対策には教科書はあるようでない。このため、経験がモノを言う。ノイズのエキスパートがPCB回路をチェックしない限り十分なノイズ対策を採ることは難しい。奥が深い。だから、ノイズに強い電源を設計製造できる中堅企業が成り立つ。「正太郎少年」は健在なのだ。

(2013/06/08)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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