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フランス人は10着しか服を持たないけれど恋人候補は多分10人は持っている件

大宮冬洋フリーライター

50万部超のヒットを記録している『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)を読んだ。本当に気に入っているモノだけを毎日のようにちゃんと使うことで暮らしを楽しく美しくできる、というノウハウを説いたものだ。

影響を受けやすい筆者はさっそくクローゼットを点検。15年以上前に買った皮ジャン、日焼けしてしまったジャケット、柄に飽きたマフラーなど、衣替えも兼ねてゴミ袋1つでは収まらない量の洋服や小物を処分した。

衣装ケースの奥からは去年の夏の終わりに買ったポロシャツを発見。けっこう気に入っていたのに何度か着たら肌寒くなってケース入りしたものだ。おかげでこの夏の買い物を1つ減らすことができた。

筆者はフランスに行ったことがないが、この本を読んでいると「フランス人は生き方上手だな」と感じる。ジムに行くよりも家事や歩行でカロリー消費、というくだりには大いに共感。見本や本物を知ったうえで労力を惜しまければ、あまりお金をかけずに快適で文化的な生活ができるのかもしれない。

しかし、在日フランス人と結婚している知人女性は、このようなフランス賛美を「話半分」だと感じているようだ。彼らのワードローブは確かに少ないらしいが、「あの人たちはケチで見栄っ張りで図々しいだけ。だからこそ、お金をかけずにオシャレに見せる工夫には長けている」とのこと。外食費も節約傾向にあり、大好きなのはホームパーティだ。

「驚くのは、家に招いた人が勝手にいろんな人を連れてくること。しかも、彼ら同士も深い付き合いじゃなくて、どこかのパーティで知り合ったばかりの仲だったりする。広くない家に20人も押しかけて来て、そこら中で飲んだり食べたりいちゃついたり。終電で帰ろうとはまったくせず、朝までグダグダしている。うちでは二度とパーティをやりたくない」

彼女は呆れ気味だが、筆者は「よく知らない人たちがぞろぞろ集まって来て勝手にいちゃついている」くだりに注目した。聞けば、フランスには「合コン」に相当する言葉はなく、たいていの人はカジュアルなパーティで恋人を見つけているという。

既婚者も蚊帳の外ではない。ケチだけどオシャレで遊び上手な人たちが集まり、気に入った人をつかまえて酒を飲みながら夜更けまでおしゃべりするのだ。自分の夫や妻が見知らぬ人と楽しげに会話する姿も目にすることだろう。「ホームの中」という安心感が前提にあるので、話が弾んで急接近することにもなりかねない。

実際に口説いたり浮気したりするかどうかは別の話である。このようにオープンかつ長時間のパーティは、「恋人候補になる素敵な異性が(配偶者を筆頭にして)身近にたくさんいる。できれば、その人たちにとっても自分は恋人候補でいたい」という感覚を呼び覚まし、普段の身だしなみや立ち振る舞いを洗練するだろう。日常生活にある程度の緊張感を強いるが、結婚した途端に内面も外面もオジサンオバサン臭くなってしまうよりははるかにマシだ。

服は10着しかないけれど恋人候補は10人いる――。このような覚悟と姿勢が大人たちを小粋に見せるはずだし、結果的に夫婦関係も長続きさせると思う。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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