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高齢者にとっての「生きがい」とは何か?『令和3年度 高齢社会白書』から読み解いてみる

斉藤徹超高齢未来観測所
高齢者はどのようなときに「生きがい」を感じるのか(写真:アフロ)

「生きがい」とは何か

内閣府が発表した今年度の『高齢社会白書(令和3年度)』(以下白書)では、高齢者の「生きがい」を特集テーマに取り上げています。

高齢者にとっての「生きがい」とはいったい何でしょうか。一般に「生きがい」とは、「生きることの喜び・張り合い」「生きる価値」であり、「生きがい」を持つことで、「生活の質(QOL)」が向上し認知機能や健康状態が改善するとも言われています。では高齢者はどのような時に「生きがい」を感じ、どのような人が「生きがい」を感じやすいのでしょうか。

白書では、「生きがいを感じる程度」とともに、近隣関係、友人関係、外出関係などと「生きがい」の関係性を分析しています。この分析の元となった調査は令和3年12月に実施された「高齢者の日常生活・地域社会の参加に関する調査」(※1)(以下調査)です。両者のデータを見ながら、高齢者にとっての「生きがい」を考えてみることにします。

高齢者の7割強は「生きがい」を感じている

まず白書では、多くの高齢者が日常的に「生きがい」を感じていることを紹介しています。「十分感じている」(22.9%)、「多少感じている」(49.4%)を併せると、およそ7割強の高齢者の方々が「生きがいを感じている」と答えています。(図表1)

「高齢社会白書」より
「高齢社会白書」より

さらに白書では、それぞれ「近所の人との付き合い方」「親しくしている友人・仲間の数」「外出の頻度」「情報機器の利用状況」「社会活動への参加状況」「健康状態」などの項目と、「生きがい」の有無の相関関係を見ています。その結果、近所の人との付き合いが濃密であるほど生きがいを感じる割合が高い、外出頻度が高いほど生きがいを感じる割合が高い、情報機器の利用リテラシーが高いほど生きがいを感じる割合が高い、といった結果を紹介しています。

この文章だけ読むと、近所の人と付き合ったり、外出の頻度を増やせば、「生きがい」を感じやすくなるとも理解できます。

しかし、果たして本当にそうでしょうか。この分析は、それぞれの項目の「相関関係」、つまり近所の人との付き合いが濃密である人ほど「生きがい」を感じる割合が高いという事実は示していますが、「因果関係」つまり、近所の人との付き合いが濃密になれば、「生きがい」を感じる割合が高くなる、ということを示してはいません。つまり、AがBの増加の要因かどうかはわかりません。本来は「因果関係」まで踏み込んだ分析が望まれます。

高齢者が感じる「生きがい」の中身

一方、人はどのような時に「生きがい」を感じるのでしょうか。白書には紹介されていませんが、調査では、「生きがいの有無」に加えて、「生きがい(喜びや楽しみ)を感じる時はどのような時か」という質問も行われていました。

その結果を見ると、「孫など家族との団らんの時」(55.3%)「おいしい物を食べている時」(54.8%)「趣味やスポーツに熱中している時」(53.5%)「友人や知人と食事、雑談している時」(52.6%)などが「生きがい」の時であると多くの人が答えています。(図表2)

出典:内閣府「高齢者の日常生活・地域社会の参加に関する調査」
出典:内閣府「高齢者の日常生活・地域社会の参加に関する調査」

「生きがい」を感じるのはどのような人か

このような「生きがい」を感じているのはどのような人なのでしょうか。これについては、調査の第3章「調査結果の分析・解説」でみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の藤森克彦氏がどの要因が高齢者の「生きがい」に影響を与えるかを詳細に分析しています。

それによると、「生きがい」を持ちやすい人は、「健康状態」が良く、「家計に心配事」がなく、「家族内で役割」があり、「社会活動に参加」している人に多く、一方で、「生きがい」を持ちづらい人は、「未婚者」や「離別者」、「人との付き合いが少なく、孤立を感じている」人に多いという分析を行っています。

このように見ていくと、「生きがい」を持っている人は、端的に言うと、ある程度、家族に恵まれ、ゆとりのある生活が送れ、さらには社会活動に積極的である人が多く、夫や妻に先立たれ、もしくは未婚のまま高齢を迎えた人、付き合いの苦手な人は、「生きがい」を持ちづらいということになります。以上の内容を改めて整理してみたのが図表3です。

図表3 「生きがい」を感じやすい人/感じづらい人

「白書」「調査」から筆者作成
「白書」「調査」から筆者作成

どのようにして「生きがい」を獲得するか

未婚者や離別者が、「生きがい」を感じづらい、すなわち「孤独」「孤立」を感じている、というのは別の調査結果でも明らかになっています。令和4年4月に内閣官房孤独・孤立対策担当室が実施した「人々のつながりに関する基礎調査(令和3年)」でも、「未婚者」「離別者」「同居人がいない」「仕事なし(失業中)」「電話・携帯・メールなどコミュニケーションツールを積極的に使っていない」人のほうが、孤独感を感じることが、「つねに・しばしばある」と答えています。

このように見てきた時、課題なのはすでに「生きがい」を感じている人ではなく、「生きがい」を感じづらい人が、「生きがい」を感じるようにするにはどうすればいいのかということがわかります。

端的に言うと、「生きがい」を感じづらい人は、人とのつながりを構築するのが苦手で、結果として社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)に恵まれない人であると言えます。こうした人たちに対して「友人をつくりなさい」「社会活動に参加しなさい」と積極的な活動を促しても、意志を簡単に変えるのは難しいでしょう。

むしろ、「生きがい」を感じている高齢者の側から、「生きがい」を感じづらい高齢者の方々に対して、時間をかけながらも、それぞれの人が抱える困難や課題に寄り添い、そして課題の解決を図ろうとする「アウトリーチ」型のアプローチが重要なのではないかと思います。そうした活動を行いながら、彼ら彼女らの「生きがい」の回復に寄り添う地道な姿勢が今、求められているのではないでしょうか。

(※1)

調査概要

調査名:内閣府「高齢者の日常生活・地域社会の参加に関する調査」

調査方法:郵送調査

調査期間:令和3年12月6日〜12月24日

有効回答数:2,435サンプル(うち65歳以上2,049サンプル)

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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