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シニアがこれからの人生に備えて学びたい10大項目

斉藤徹超高齢未来観測所
人生の後半期にも多くの学びが必要(写真:アフロ)

人生100年時代と言われるなかで高齢期・リタイア後の人生後半を、いかに無事に過ごしていくか、多くの人は漠然と不安が付き纏っているのではないでしょうか。最近、映画「老後の資金がありません」が話題となったように、いかにして老後の生活を安心・安全に過ごしていくかは中高年にとって最大の関心事です。

では実際に今の中高年の人々は、どのようなことを今後「知りたい・学びたい」と思っているのでしょうか。簡易アンケートシステム(「ミルトーク」)を利用し、回答を得た50代以上の男女370人の内容を解析して調べました。「高齢期の生活を送る上で、知っておいた方が良いと考える「暮らしの知識」や「学び」の項目について」自由回答で回答していただき、テキストマイニング(「見える化エンジン」)を活用し、大きく10の学んでおくべき項目として整理しました。以下、ベスト10順に解説を交えつつ紹介していきたいと思います。

自由回答に出てきたキーワードランキング(「見える化エンジン」から筆者作成)
自由回答に出てきたキーワードランキング(「見える化エンジン」から筆者作成)

第10位:認知症予防

中高年シニアが学びたい項目の第10位は認知症の予防法です。「認知症の予防(女性・58歳)」「健康法、認知症予防と節約法(女性・56歳)」「認知症によるボケ防止策(男性・72歳)」といった予防法に対する関心や、「認知症発症危険率(女性・61歳)」を知りたいなどの声が寄せられました。認知症については2025年には700万人を超えるという予測もある一方、まだその発生メカニズムが正確に掴めていないこともあり、確実な予防策は見つかっていないのが現実です。ただし、M C I(軽度認知症)段階で、運動と認知トレーニングを組み合わせた「コグニサイズ」運動の実施は、一定の抑制効果があることが判明しています。

「認知症」に関するワードマップ(筆者作成)
「認知症」に関するワードマップ(筆者作成)

第9位:終活

終活とは、生前のうちに自身のための葬儀や墓などの準備、生前整理、相続対策を進めておくことを意味するものですが、10年ほど前から次第に広がり、今では一般名詞化した感もあります。おそらく実際の終活実施時期は、70歳前後が多いと思いますが、「遺産相続。終活。墓じまい。(女性・51歳)」「お墓の購入など終活に関すること(男性・54歳)」など、関心層の若年齢化も窺えます。終活(活動)のエントリーとしては「エンディングノート」がおすすめです。現在さまざまなタイプのエンディングノートが販売されていますし、無料でダウンロードできるものもネット上にあります。そうしたところから一歩進めてみるのも良いでしょう。

「終活」に関するワードマップ(筆者作成)
「終活」に関するワードマップ(筆者作成)

第8位:相続

第8位は、「終活」の一部でもある「相続対策」です。相続は、近年相続に関する法律が大きく変わりつつあることも関係してニーズが上がっているのかもしれません。相続対策の知りたいニーズは、大きく2つに分かれます。「相続など勉強不足なので(女性・57歳)」といった自分自身の将来に備えて知りたいニーズ(主に5・60代)と、70代以降の「遺産相続で損しない方法(女性・73歳)」、「相続・贈与対策が必要と思う(男性・72歳)」といった自分自身の相続対策ニーズです。近年は毎年のように相続税、贈与税の改正が行われておりますので、そうした内容にも目を通しておくべきでしょう。

「相続」に関するワードマップ(筆者作成)
「相続」に関するワードマップ(筆者作成)

第7位:趣味

今までの項目はどちらかと言えば、今後知りたい、もしくは知っておきたい事項でしたが、第7位の「趣味」は、すでに高年齢の人が、趣味を持つことの大切さについて語ることが多いものです。「何でも楽しめる趣味を作る事(男性・75歳)」、「夫婦共通の趣味を持つ(女性・72歳)」などの声からは、趣味を持つことの大切さを学びとることができます。「男性は今日行くところと今日やる事がなくなると引きこもってしまうので、お金のかからない趣味やライフワーク、サークルなどを見つけてなじんでおいたほうが良いと思います(体験談です)(男性・66歳)」といった声は男性にとっては切実です。

「趣味」に関するワードマップ(筆者作成)
「趣味」に関するワードマップ(筆者作成)

第6位:資産運用

50代以上の学びたいこと第6位は「資産運用」です。長くゼロ金利時代が続き、退職金や年金を食いつぶすのではなく、いかに効率良く運用できるか、そのノウハウが、リタイアメント以降のQOLを左右すると言っても過言ではないでしょう。資産運用の知識を得たいというニーズは幅広い年代にあり、「退職金や年金などの運用知識(男性・52歳)」、「資産運用、年金もどうなるかわからないしモノの値段はあがっているし(女性・51歳)」といった50代から、「老後資金の運用 (男性・68歳)」、「老後の資産は最大関心事、そのための資産運用の情報をいかに得るか。(男性・72歳)」など70代までニーズは幅広いものと言えるでしょう。

「資産運用」に関するワードマップ(筆者作成)
「資産運用」に関するワードマップ(筆者作成)

第5位:(行政福祉)サービス

第5位は、行政の福祉サービスに関するニーズです。「福祉、公的なサービスの利用など。(女性・52歳)」、「住んでいる自治体の福祉サービス(男性・58歳)」、「介護サービスの種類と手続き方法(女性・62歳)」など、地元の自治体の福祉サービスの内容を知りたいというニーズです。これは女性に比較的高いニーズでした。サービス内容はホームページなどを通じて公開している自治体もあると思いますが、多くは縦割り行政で一覧性に欠けるものが多く、そのため「自分で申請しないと受けられない行政サービスや民間サービス等や、何か不慮の事態が有った時の相談先をまとめたものが有ると安心出来る(男性・56歳)」といったコンパクトな一覧情報を求める声もありました。

「サービス」に関するワードマップ(筆者作成)
「サービス」に関するワードマップ(筆者作成)

第4位:介護保険

第4位は介護保険サービスに関する情報ニーズです。「年金制度と介護保険制度(男性・51歳)」、「介護サービスの種類と手続き方法(女性・62歳)」、「介護が必要になった時や介護施設に入所した場合にかかる費用など年金で賄えるか知りたいです。(女性・56歳)」「両親がいるので、介護や福祉サービスについて(女性・54歳)」など、自分の将来や親の介護に備えて、公的介護制度がどのようになっており、サービスを受けるための費用や手続きに関して知りたいというニーズが多いものでした。

また、「遠方に住んでいる親の介護、施設の選び方、手続き方法、看取りなど(女性・52歳)」など、遠距離介護に関する情報ニーズも。「65歳になるとき介護保険がすごく値上がりした。老後の計算が狂って焦った。みんな知っておいた方がいい」(女性・65歳)」など、「第1号被保険者(65歳以上)」による費用増加を悩む声も見受けられました。介護保険制度は40歳から全ての国民が被保険者となり保険料支払いが生じる一方、利用方法についてはほとんど何のアナウンスも行われていないのは、保険制度として少し不親切であるという気もします。

「介護保険」に関するワードマップ(筆者作成)
「介護保険」に関するワードマップ(筆者作成)

第3位:老後資金

第3位は老後資金についてです。映画「老後の資金がありません」がヒットしているように、「老後にいくら必要か」(女性・50歳)、「老後のお金のこと(女性・50歳)」は多くの中高年にとって大きな関心事のひとつです。

老後資金不安の内容としては、まず、「普通の生活をするのに年金だけでは足りないのではないかと不安があります。いったい老後はいくら位必要なのか。」(女性・59歳)」「年金だけで安定した生活が送れるのか。今からでも貯蓄した方が良ければ、どのような方法があるのか」(女性・51歳)といった老後生活にいくらくらい必要なのかわからない、という不安。そして、「年金生活に入ってからどれくらいの生活補助費を用意しておけばよいか、予想して、50代から準備する計画を立てると安心できそうに思います(女性・69歳)」など年金生活に備えるための準備知識を得たいというニーズもありました。これらのことを考えるためには、ファイナンシャルプランナーに相談する方法が一般的でしょう。オンラインで相談できるサイトなどもあるので、まずはそうしたところにアクセスしてみるのもいいでしょう。

「老後資金」に関するワードマップ(筆者作成)
「老後資金」に関するワードマップ(筆者作成)

第2位:健康

第2位は、健康に関する情報ニーズです。一口に健康と言っても幅広いのですが、「健康維持の為の知識など(女性・57歳)」「健康維持のための秘訣・過ごし方・習慣(男性・52歳)」「これから起こりうる体調の変化、それに対しての健康維持法(女性・62歳)」といった健康を維持するための方法や秘訣。そして、「加齢による気力、体力の衰え、長年の生活習慣からくる病気とその予防法、健康寿命といわれる自立した生活の送り方(男性・76歳)」といった高齢期に起こりやすい病気や予防法についての知識を求める声が比較的多いものでした。世の中ではテレビ情報や新聞、ネットニュースなどさまざまな健康情報で溢れかえっていますが、そうした中にあっても健康情報に対するニーズがこれだけ高いというのは、何が確からしい情報なのか分からず、より正しい(と考えられる)情報を求めたいというニーズの現れであると理解することもできるでしょう。

「健康」に関するワードマップ(筆者作成)
「健康」に関するワードマップ(筆者作成)

第1位:年金

高齢期の生活を送る上で、知っておいた方が良いと考える「暮らしの知識」第1位は年金制度に関してです。年金がいくら受給できるかについては、毎年「年金定期便」が送付されているはずですが、「年金定期便見てもよくわからない・難しい(女性・50歳)」、「年金がいくらなのかよくわからない(女性・50歳)」「どれだけ年金や公的資金をもらえるか(女性・62歳)」といった声は非常に多いものでした。なかには、受給年齢になっているにもかかわらず、「何歳から年金をいくらもらえるのかを調べておく(男性・66歳)」「将来、何歳から年金をもらえるか、いくらくらいの額になるか、知っておくと老後の生活の計画や予定などを立てる時の参考になると思います(女性・69歳)」といわれる方もおり、少し不安になる方もいらっしゃいました。

公的年金や保険制度について、「健康保険や年金などの公的な社会福祉制度についてです。特に、健康保険については、国民健康保険のほか、組合健保の退職者加入制度とか、さらに介護保険制度、後期高齢者保健制度などいろいろな制度が並立しており、相互の関係等がよくわからないところがあります。保険料の負担関係もよくわかりません。(62歳・男性)」といった声もあり、医療・保険・年金といった社会保障制度の全体像がよく見えていない方々が非常に多いのではないかという印象を今回のアンケート調査を通じて実感しました。

「年金」に関するワードマップ(筆者作成)
「年金」に関するワードマップ(筆者作成)

中高年層の高齢期の生活を送る上で、知っておいた方が良いと考える「暮らしの知識」ニーズ・アンケートランキングは以上となります。アンケートを通じて、多くの中高年層の抱えている不安の源泉は、お金・健康が二大テーマであることがわかりました。またそうした不安をやわらげるのが、年金や介護保険などの社会保障制度になりますが、そうした制度全般に関する知識不足が、将来の生活設計を不確かなものにしているという面があるのではないでしょうか。いずれにしても、今後中高年を迎える層に対して、介護保険教育、年金教育といった社会保障制度教育の必要性は大いにあるのではないでしょうか?

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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