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好調な国際航空貨物、ANAはシカゴへ1日最大5便。背景にコンテナ船の大幅遅延、ロサンゼルスを現地取材

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
コンテナが大量に山積みになっているロサンゼルス港(8月12日、筆者撮影)

 コロナ禍で厳しい状況が続いている航空業界において、順調に売り上げを伸ばしているのが国際航空貨物。ANA(全日本空輸)では、コロナ前に比べて約2割程度の定期便の運航率に留まっているが、貨物機だけではなく、乗客を乗せない形での旅客機を使った貨物便を数多く飛ばし、ほとんどの便で貨物は満載で海外へ飛び立っている。

 これほどまでに航空貨物が堅調なのは珍しく、既に1年以上好調が続いているのだが、その大きな要因としてコンテナ船を使った海上輸送に異変が生じているからだ。今回、アメリカ最大のコンテナターミナルがあるロサンゼルスで現地取材してきた。

ANA成田~シカゴ、1日最大5往復の大型機が貨物を載せて飛んでいる

 まず今回取材したANAで驚いたのが、成田~シカゴにおいて1日最大5往復飛んでいる日があるのだ。コロナ前でも、ANAの機体が1日5便もシカゴに到着するというのは筆者の記憶でもない。

 その内訳は、貨物専用機(フレーター機)が1往復、乗客を乗せる旅客便(定期便)が1往復、そして旅客機を使用するが乗客なしで貨物スペースだけ使用する貨物便(航空業界では「ベリー便」と呼ばれている)が3往復で合計5往復となる。成田~シカゴ線では、全便ボーイング777型機という大型機を使用しており、ボーイング777Fと呼ばれる貨物専用機では約102トン、旅客機(ボーイング777-300ER型機)で約20トンが搭載できることから、5便で片道あたり約180トン近い貨物が成田からシカゴへ運ぶことができる。貨物は日本からだけでなく、中国からアメリカへ運ぶ荷物も搭載されている。

ANAカーゴで搭載量約102トンを誇るボーイング777F型機(2020年、成田空港にて筆者撮影)
ANAカーゴで搭載量約102トンを誇るボーイング777F型機(2020年、成田空港にて筆者撮影)

ボーイング777F型機(貨物専用機)の搭載光景(2020年、成田空港にて筆者撮影)
ボーイング777F型機(貨物専用機)の搭載光景(2020年、成田空港にて筆者撮影)

ロサンゼルス便も1日3往復。旅客機で貨物のみ搭載するベリー便

 ANAグループの貨物会社であるANAカーゴのホームページに8月31日発表の9月の運航スケジュールについて掲載されているが、 成田~シカゴにおいては9月の1ヶ月だけみると、1日5往復の日が17日間、1日4往復の日が13日間となっており(ANA及びANAカーゴ運航便のみ※他社運航のコードシェア便は含まず)、最低でも1日4往復が飛んでいることになる。

 同様にロサンゼルス線についても1日3往復となっており、旅客機で貨物スペースだけ使用する貨物便(成田~ロサンゼルス)が1往復、乗客を乗せる旅客便が2往復(羽田~ロサンゼルス、成田~ロサンゼルス)となっている。入国制限の影響で旅客数は限られているが、少なくても貨物スペースは満載の状態が続いている。

ANAのボーイング777-300ER型機。コロナ禍に入り、乗客を乗せずに貨物のみの便も多く運航されている(2019年、羽田空港にて筆者撮影)
ANAのボーイング777-300ER型機。コロナ禍に入り、乗客を乗せずに貨物のみの便も多く運航されている(2019年、羽田空港にて筆者撮影)

ロサンゼルス空港のANAチェックインカウンター(8月14日深夜、筆者撮影)
ロサンゼルス空港のANAチェックインカウンター(8月14日深夜、筆者撮影)

筆者が搭乗したANAのロサンゼルス発羽田行きのボーイング777-300ER型機。貨物も満載で出発した(8月14日深夜、筆者撮影)
筆者が搭乗したANAのロサンゼルス発羽田行きのボーイング777-300ER型機。貨物も満載で出発した(8月14日深夜、筆者撮影)

アメリカ最大のコンテナ船のターミナルは大混雑

 特にアメリカでは、航空機による国際貨物需要の高止まりが続いている。その理由のヒントがロサンゼルスにあるという話を聞き、筆者は8月12日に現地で取材をした。今回取材したのはロサンゼルス港。ロサンゼルス空港から車で30分ほどのサンペドロ湾(San Pedro Bay)に位置する。

 ロサンゼルス港湾局が管轄するロサンゼルス港には7つのコンテナターミナルがあり、また対岸のロングビーチ港にも多くのコンテナ船が入港している。2020年の1年間の貨物取扱量はロサンゼルス港で約920万TEU、ロングビーチ港でも約810万TEUとなっており、北米では1位、2位の貨物取扱量を誇る(JETRO発表資料より)。

 聞き慣れない「TEU」という単位は最も一般的なサイズである20フィートサイズのコンテナの数を示す。

広範囲にわたって大量のコンテナが保管されていた。日本では見られないくらいのスケールで保管されている(8月12日、筆者撮影)
広範囲にわたって大量のコンテナが保管されていた。日本では見られないくらいのスケールで保管されている(8月12日、筆者撮影)

高く積まれているコンテナ(8月12日、筆者撮影)
高く積まれているコンテナ(8月12日、筆者撮影)

コンテナの荷下ろしに時間を要し、沖合では1週間近い入港待ちの船が待機状態。直近では入港まで約8日間

 筆者が取材した際にも、入港している貨物船からコンテナを荷下ろししている光景が見られ、大量のコンテナが港に隣接する場所に積まれていたが、今、大きな問題となっているのが海上輸送をする荷物の大幅遅延である。お客様から預かった荷物を海上輸送で送った場合において、コロナ前に比べて、少しの日数の遅延ではなく、コロナ前の日数にプラスして、少なくて数週間、数ヶ月以上の日数を要していることも珍しくないそうだ。

 その理由について、現地で取材した関係者の話、JETROが今年7月に発表した資料、ロサンゼルス港湾局のホームページのデータなどを総合すると、入港した船のコンテナの荷下ろしに多くの時間を要しており、今までであれば数日で全てのコンテナを荷下ろしし、新たなコンテナを積み込むまでに数日で済んでいたものが、4日~1週間程度の時間を要することが当たり前になっているそうだ。結果、次に入港する予定の船がコンテナターミナルに入港できずにサンペドロ湾沖で待機するという状況が日常化している。直近の数字(9月2日発表のロサンゼルス港湾局のデータ)を見ても沖合に到着してから入港までの平均日数は7.9日で、21隻のコンテナ船が待機していた。

コンテナは大型トラックだけでなく、鉄道でも全米各地へコンテナごと輸送されている(8月12日、筆者撮影)
コンテナは大型トラックだけでなく、鉄道でも全米各地へコンテナごと輸送されている(8月12日、筆者撮影)

最大の原因はコンテナ船の大型化。アメリカの個人消費が好調で特に輸入品が好調

 コンテナの荷下ろしに時間を要しているのは、コロナ禍で人員が不足しているのではなく、コンテナ船がこれまで以上に大型化の影響が大きい。1隻あたり3万4000TEU(20フィートコンテナの数)近くも載せられるコンテナ船の入港が増え、過去3年間と比較しても1隻あたり1万3000TEUも増えているとのことだ。当然、荷下ろしに時間がかかることとなり、加えてコンテナを荷下ろしするスタッフに新型コロナウイルス感染者が出てしまうと、作業が更に遅れてしまうケースもあるとのことだ。

 物流自体は堅調に推移しており、特にアメリカでは、コロナ禍において世界的にネット通販などの個人消費が大幅に上昇し、これからハローウィンや感謝祭(サンクスギビング)、クリスマスなどへ向けての動きもあることで、海外で製造したものをアメリカ国内へ輸入する荷物も増えている。もちろんそれ以外の自動車部品、電化製品、アパレル、家具、食品などの輸出入品も多い。ロサンゼルス港における貨物取扱量を2020年と比較すると、2021年1月~5月の5ヶ月では前年比48%増、5月単月では前年比74%増となっている。

ロサンゼルス港では、大型のコンテナ船の荷下ろしが複数箇所で行われていた(8月12日、筆者撮影)
ロサンゼルス港では、大型のコンテナ船の荷下ろしが複数箇所で行われていた(8月12日、筆者撮影)

コンテナ運賃も大幅値上げで日本の食生活にも一部影響が出始めているなか、物流スケジュールが読めずに飛行機にシフト

 更に海上輸送でのコンテナ運賃の上昇も続いており、日本国内でも9月に入り、輸入食料品やワインなどの値上げも相次ぐなど、日常生活においても影響が出始めている。同時に従来は海上輸送していた輸出入品においても、あまりにも日数がかかることに加え、最終的にどのタイミングで商品が受け取れるのかの物流スケジュールが読めないことで、運賃が高くても日数が確実に読める飛行機輸送にシフトするケースが増えている。

航空会社にとって大きな収益が出ている国際貨物。今年度はコロナ前の2倍以上の収入に

 ANAホールディングスの第一四半期(4月~6月)の過去4年間の国際貨物の輸送重量と国際貨物収入を比較してみた。(数字は3ヶ月合計)

■4月~6月の国際貨物輸送重量、国際貨物収入

2018年4月~6月:24万5000トン、320億円

2019年4月~6月:21万3000トン、261億円

2020年4月~6月:9万8000トン、254億円

2021年4月~6月:23万3000トン、660億円

 国際貨物の輸送重量だけ見ると、コロナ前の2018年・2019年と大きくは変わらないが、乗客+貨物を輸送する国際線定期便がコロナ前の2割程度に留まっており、加えて貨物定期便、貨物臨時便、旅客機で乗客を乗せない便(ベリー便)を加えても、コロナ前に比べると便数自体は少ない。

 今年4月~6月の3ヶ月間では貨物専用機(フレーター機)の便が2748便、国際線定期便が3061便、旅客機で乗客を乗せない便が3499便の合計9308便となっている。貨物運賃が上昇したことで国際貨物収入は、輸送重量がほぼ同じのコロナ前の2018年・2019年と比べて2倍以上になっている。JAL(日本航空)は、貨物機は保有していないが、積極的に旅客機で乗客を乗せずに貨物を運んでおり、国際貨物収入は堅調に推移している。

国際線利用者の予約動向を見ながら、旅客機を使う便では乗客ありと乗客なしの便を設定

 ANAでは予約数の推移・予測を考えながら、旅客機においては乗客を乗せる便と貨物のみの便に分けている。貨物のみで運航する場合には、パイロットは通常の人数が必要であるが、客室乗務員が乗務する必要がなくなるメリットがある。これはJALも含めて、貨物を取り扱う世界のフルサービスキャリアの多くが同様の対応をしている。

 この数ヶ月の傾向としては、日本~北米線においては、日本とアメリカとの限られた往来だけでなく、中国をはじめアジアの各都市から成田もしくは羽田乗り継ぎで北米へ向かう乗客の需要があることで、10月よりニューヨーク、ヒューストン、ワシントンDCへの旅客便の増便を発表している。

 今後、入国制限が日本も含めて世界各国で緩和されることになれば、旅客機で乗客を乗せていない便を乗客を乗せる旅客便に戻すことになるだろう。

約20トンの貨物が搭載できるボーイング787-9型機もボーイング777型機と共に貨物輸送の主力機になっている(2021年3月1日、成田空港にて筆者撮影)
約20トンの貨物が搭載できるボーイング787-9型機もボーイング777型機と共に貨物輸送の主力機になっている(2021年3月1日、成田空港にて筆者撮影)

ファイザーのワクチンもベルギーのブリュッセルからANA機で輸送された(2021年3月1日、成田空港にて筆者撮影)
ファイザーのワクチンもベルギーのブリュッセルからANA機で輸送された(2021年3月1日、成田空港にて筆者撮影)

国際貨物の運賃は、海上輸送・飛行機輸送共に少なくても今年度中は現在の状況が続く可能性が高い

 次に、2018年~2021年の各4月~6月における1トンあたりの国際貨物における単価を比較してみた。

■4月~6月の1トンあたりの国際貨物収入

2018年4月~6月:約13万円

2019年4月~6月:約12万円

2020年4月~6月:約26万円

2021年4月~6月:約28万円

 コロナ前の2018年・2019年に比べると、コロナ禍に入った2020年・2021年は約2倍に貨物運賃が高騰していることが読み取れる。航空会社の単価としては約2倍程度だが、荷主である顧客と輸送交通機関の間に入り、荷主である顧客と契約して物流をトータルコーディネートする「フォワーダー」が最終的な価格を顧客に提示することから、実際の輸送費が3倍~5倍以上になっていることも珍しくない。関係者に取材をすると、海上輸送、飛行機輸送ともに少なくても今年度いっぱいは現在の状況が続くことになると話す。

 航空会社にとってもコロナ禍で確実に収益を出している国際貨物に今後も力を入れていくことになるが、海上輸送における遅延問題が解決しない限り、少なくても数年の間は航空機を使った貨物輸送の好調は続くことになりそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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