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東京オリンピック延期で東京で予約済みのホテルや航空券はどうなる。特に返金不可ホテルの対応が問題に

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
IOCバッハ会長と電話会談で1年程度の延期を確認したことを明らかにした安倍首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 3月24日に東京オリンピック・パラリンピックの延期が正式に決まり、2021年夏までに開催することでIOC(国際オリンピック委員会)と合意し、IOCの臨時理事会で正式に承認された。2020年12月までの開催の可能性は見送り、遅くとも2021年夏までの開催という合意内容だ。

 7月24日~8月9日に東京オリンピック、8月25日~9月6日に東京パラリンピックが開催される予定だったことから、既に観戦チケットを持っていたり、マラソンなど沿道で観戦することも含め、国内各地、そして海外から東京や札幌(マラソン会場)を目指すべく、航空券やホテルなどを予約している人も多いなかで、観戦予定者における今後の問題点について考えた。

観戦チケットの権利は維持される可能性が高い

 観戦チケットについては、昨日(3月24日)の大会組織委員会の会見の中で、チケットの取り扱いについて今後協議することを表明しており、後日改めて発表されることになるが、購入済みの観戦チケットの権利は維持される可能性が高そうだ。

 現在のところ、規模は縮小しないということに加えて、万が一観戦が難しい場合でも、大会組織委員会の公式リセールで再販売することも可能である点を考えても、購入者への影響は観戦チケット自体は最小限になるだろう。観戦が難しい場合の対応も含めて、今後チケットの取り扱いについての発表を待ちたいところだ。まだ会場に入る際に必要な入場券の発行が始まっていなかった点は不幸中の幸いと言える。

3月20日に宮城県の松島基地に聖火輸送機が到着した。聖火リレーは延期されるが、開催が決まった段階で再度実施することになり、当面の間、福島県で聖火は保管されることになった(筆者撮影)
3月20日に宮城県の松島基地に聖火輸送機が到着した。聖火リレーは延期されるが、開催が決まった段階で再度実施することになり、当面の間、福島県で聖火は保管されることになった(筆者撮影)

観戦チケット付きツアーは原則全額払い戻しに

 今後、大きな問題になりそうなのが、航空券やホテルの取り扱いがどうなるのかである。まず、観戦チケット付きの交通機関(飛行機や新幹線)やホテルなどがセットになっている観戦ツアーについては、当初予定の観戦日程が大幅に変更されることで、原則全額の払い戻しになるだろう。

 ただ、高倍率の抽選で購入する権利を得て、観戦ツアーを予約した人もいることから、払い戻しせずにそのまま日程をスライドすることが可能か否か、今後旅行会社で協議されることになる。予約済みの人は旅行会社からの連絡を待った上で、どのような選択肢があるのか精査した上で、判断することが望ましいだろう。

一番の問題は返金不可で高額のホテル予約。ホテル毎の独自対応に

 一番大きな影響が出そうなのがホテルだ。オリンピック開催期間中の7月下旬~8月上旬の東京都内や東京周辺、更にはマラソンが行われる札幌のホテルを予約している場合だ。オリンピック期間は、宿泊料金も通常の2倍~10倍程度、更にはそれ以上に跳ね上がっているが、楽天トラベルやじゃらん、一休.comなどの宿泊予約サイトでの予約も含め、カードでの事前決済&返金不可で販売しているケースが多いことだ。通常時も返金不可を条件に安い金額で販売することは珍しくないが、今回は高額かつ返金不可というオリンピックを理由にホテル側は強気に出ているが、それでもホテルの予約が難しい状況になっていた。

 開催期間中は、ビジネスホテルでも1泊3万円を超える価格も出ていたほか、都心のシティホテルの多くで1泊10万円以上で販売され、ホテルの事前支払だけでも、場合によっては50万円・100万円近く支払い済みのケースもある。

 オリンピック史上初の延期というケースであることから、返金不可で予約しているケースの取り扱いがどうなるのか、今後はホテル側で対応を考える必要が出てくる。過去に2011年の東日本大震災の際には返金不可のホテルであっても全額払い戻し対応をしてくれたホテルもあったことから、全額返金になる可能性も十分に考えられるが、この点においては、ホームページ上で確認すると「オリンピック・パラリンピックの中止や延期の場合は払い戻す」という表記はないことから、法律的に無料でキャンセルするという解釈をすることはできず、各ホテル独自の対応となる。

 まだ4か月先ということもあるが、場合によっては利用者側とホテル側でトラブルになる可能性もある。ホテル側には柔軟な対応をして欲しいと思う。この点については、ホテル側の方針決定にある程度の時間がかかることから、4月以降にキャンセルについての相談をするのが適切だろう。ホテル側にとっても、オリンピック期間中の収入を見込んでいた分が最大1年延期で、新型コロナウイルスによる客室稼働率の大幅低下による影響も大きく、経営的にも厳しい部分があるなかでの対応が迫られることになる。

東京都内のホテルはオリンピック期間中は満室で客室単価も高騰していたが、1年程度の延期によりキャンセルが相次ぐことになるなかで、返金不可で予約したホテルの対応はどうなるのかが大きな課題に(筆者撮影)
東京都内のホテルはオリンピック期間中は満室で客室単価も高騰していたが、1年程度の延期によりキャンセルが相次ぐことになるなかで、返金不可で予約したホテルの対応はどうなるのかが大きな課題に(筆者撮影)

国内線航空券は現時点であれば片道440円の払戻手数料のみ

 次に国内線航空券については、現状では新型コロナウイルスに関連して、ANA(全日本空輸)とJAL(日本航空)、AIRDO、ソラシドエア、スターフライヤーは4月28日まで、スカイマークは4月30日までの搭乗分において、運航の可否にかかわらず、手数料なしでの払い戻しや日程変更が可能な特別対応を実施している(航空券の購入日などの一部条件あり)。LCC(格安航空会社)についても、同様の対応を行っている。

 ただ当初、東京オリンピックが開催される予定だった7月24日~8月9日を含む日程については、航空券の特別対応については現時点では発表されておらず、今後の新型コロナウイルスの状況次第だが、東京オリンピック・パラリンピックの観戦予定だった飛行機利用者に対して特別対応を行うかどうかは未定となっている。過去に前例がないことから、航空券の取り扱いがどうなるのかについては、しばらく時間がかかりそうだ。昨年からANAやJALの早期購入型割引運賃の多くが、便出発55日前までは取消手数料は無料となり、払戻手数料のみ1区間につき440円かかるだけなので、特別対応を待たずに払い戻しをするという選択肢もあるが、しばらく様子を見て、出発55日前の直前まで待って判断するという方法もある。

 ANAやJAL以外においては、航空会社によって払い戻しルールが異なることから、購入した運賃の払い戻し条件を確認しておく必要がある。LCCにおいては、払い戻しできない可能性もあることから注意が必要だ(払い戻しは不可であっても、変更手数料の支払いで変更できる場合もある)。今まで、イベントが中止になることで航空券の特別対応を実施したケースは聞いたことがないなかで、日本で開催される大型イベントが延期という世界的な大きなニュースであることから、ANAやJALなどでは国際線も含めて、オリンピック・パラリンピック期間中に日本を訪れる予定で航空券を購入した人への対応がどうなるのかについても考える必要が出てくるだろう。

 航空券とホテルがセットになったダイナミックパッケージについては、旅行商品となることから、原則は出発21日前まではキャンセル料がかからないことから、現時点でキャンセルしてもキャンセル料がかからないほか、JRの新幹線については、乗車日の1ヶ月前からの発売が原則となるので、発売前ということで影響はないだろう。

国際線の運休が相次ぎ、閑散とする羽田空港第3ターミナル(旧国際線ターミナル)のチェックインカウンター(3月9日、筆者撮影)
国際線の運休が相次ぎ、閑散とする羽田空港第3ターミナル(旧国際線ターミナル)のチェックインカウンター(3月9日、筆者撮影)

過去に前例がないオリンピックの延期で対応に苦慮

 過去に戦争などを理由に中止になったオリンピック・パラリンピックはあったが、今回のようなケースで延期されたのは初めてであり、基本的には絶対にスケジュールが変更されないことを前提にホテルや航空券の予約が行われていた。まさに想定外の事態であり、延期が正式に決まったことで、ホテル・航空会社・旅行会社共に対応に苦慮することになる。

 今回、1年後の延期が決まったが、正式な日程が確定するまでに時間を要することで、次の予定が決められない状況にある。航空券は国内線・国際線共に約1年前からの予約となっていることから、開催1年前にはオリンピック・パラリンピックの日程が決められるくらいに、夏前には新型コロナウイルスが終息へ向けて動き出していることを願いたい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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