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JALの国際線LCCは「ZIPAIR」に。アジアの後は北米へ「太平洋を飛ぶ最初のLCCになりたい」

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
新ブランド「ZIPAIR」を発表した西田真吾代表取締役社長(筆者撮影)

 3月8日、日本航空(JAL)が出資・設立した成田空港を拠点とした新たな国際線中長距離LCC(ローコストキャリア)のブランド名を「ZIPAIR」にすることを発表した。国際線中長距離LCCの設立は2018年5月に発表していたが、2020年夏ダイヤ(2020年3月末)の就航予定を前に航空会社名が明らかになると共に、会社名も株式会社ティー・ビー・エルから株式会社ZIPAIR Tokyoに社名変更し、同日に国土交通省に対して航空運送事業許可の申請を行った。

2020年夏ダイヤに成田からバンコクとソウルの2路線に就航へ

 就航路線については2020年夏ダイヤに成田~バンコク(スワンナプーム)線と成田~ソウル(仁川)線の2路線に就航することを明らかにした。会見の中でZIPAIR Tokyoの西田真吾代表取締役社長は「太平洋を飛ぶ最初のLCCになりたい」と意気込みを話した。

 「ZIPAIR」という名前の由来については、英語で矢などが素早く飛ぶ様子を表した擬態語「ZIP」から生まれた造語で「フライトの体感時間が短い」エアラインであることを表現しているほか、郵便番号のZIP CODEが持っている「さまざまな場所に行ける」というイメージや、デジタルファイルフォーマットの「zip」のイメージを盛り込み、「至る所に日本人らしい創意工夫をつめて、計算し尽くされた移動体験を目指す」という想いを込めた名前になっている。

航空会社名は「ZIPAIR」、会社名は「ZIPIAR TOKYO」となった(筆者撮影)
航空会社名は「ZIPAIR」、会社名は「ZIPIAR TOKYO」となった(筆者撮影)

国内LCCで唯一、国際線のみのLCCが誕生

 日系のLCC航空会社は現在、ピーチ、ジェットスター・ジャパン、バニラエア、春秋航空日本(スプリングジャパン)、エアアジア・ジャパンの5社が就航しており、ZIPAIRは国内6社目のLCC就航となる。現在就航している5社は全て国内線・国際線の双方を運航しているが、ZIPAIRは国際線のみの就航することになる。使用する機材は国内LCCでは初めてとなるボーイング787-8型機で2機からのスタートとなる。

 運航する機材においては、現在就航している国内LCCのうち、ピーチ、ジェットスター・ジャパン、バニラエア、エアアジア・ジャパンはエアバスA320シリーズ(180席仕様の航空会社が多く、エアアジア・ジャパンで一部186席仕様がある)、春秋航空日本はボーイング737-800型機(189席)で運航している。ただ、A320の場合だと、搭載燃料の関係などから航続距離に限界があり、飛行時間で5時間程度までとなることから、成田からだと香港やフィリピンあたりまでしか飛べない。ピーチはバンコクへも就航しているが、最大拠点の関西空港からだとノンストップでは飛べないことから、那覇空港からバンコク便を運航している。

ZIPAIRは欧米路線就航を目指す。アジアの後はまずは北米路線

 このような状況の中で、ピーチとジェットスター・ジャパンも中距離国際線市場に参入することを明らかにしており、両社ともに約9時間近く飛ぶことができるエアバスのA321LR型機の導入を表明している。最大244席までの座席数を設定することが可能で、航続距離は7400キロとなることから東南アジアへ成田・関西の両空港から飛ばすことが可能となる。しかしながら将来的な路線展開の方向性が異なる。

 「太平洋を渡っているLCCはない。我々がパイオニアを目指していきたい」という西田社長が発した言葉にあるように日本からアメリカ本土へのLCCはない(ハワイまでは関西空港からエアアジアXとスクートが就航している)。ZIPAIRでは、中型機となるボーイング787型機を使用することは、近い将来の欧米路線を念頭に置いている。この点がアジアを中心とした路線網を考えているピーチやジェットスター・ジャパンとは異なる点である。ボーイング787型機を投入し、太平洋線で洋上飛行に必要な信頼性認定「ETOPS」の取得を目指し、就航当初はバンコク線とソウル線で実績を積むことになる。

 「ETOPS」とは、2機のエンジンのうち1機が停止した際、洋上飛行中に規定の時間内に最寄りの空港に着陸できるルートで飛行できる許可で北米線では必須となるが、ETOPSの取得はLCCにとって高いハードルになる。ZIPAIRではJALのサポートも含めて早期の承認を目指すことになる。西田社長は「ETOPSの基準を満たしたのち、関係省庁などの協力・理解を得た上で太平洋を渡りたいと思っている。まずは北米に飛ばして、その後はヨーロッパを目指す」と意気込みを語った。

太平洋を渡る最初のLCCになりたいと熱く意気込むZIPAIR Tokyoの西田真吾代表取締役社長
太平洋を渡る最初のLCCになりたいと熱く意気込むZIPAIR Tokyoの西田真吾代表取締役社長

太平洋路線への就航は早くても2021年以降

 既に日本に乗り入れている海外のLCCの中で中距離LCCとして、エアアジアグループのエアアジアX(マレーシア)とタイ・エアアジアX(タイ)はエアバスA330型機、スクートはボーイング787型機を投入している。エアアジアXとスクートは関西空港からホノルルへの便も既に就航しているが、ZIPAIRの北米へのノンストップ便の就航は、アジア線を飛ばして実績を積んだ上でのETOPSの取得となることから早くても2021年以降となる。まずは2020年春の就航が最初のステップになる。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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