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1時間あたり最大15本の東海道新幹線。飛行機のようなセキュリティチェックは可能なのか?

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
東海道新幹線は1時間あたり最大15本で全列車が16両編成となっている(ペイレスイメージズ/アフロ)

 6月9日の夜、東海道新幹線の東京発新大阪行き「のぞみ265号」において、新横浜駅を発車した数分後に20代の男性が刀物で乗客3人を襲い、男性1人が死亡、女性2人が負傷した。今回の事件で問題となったのが刃物を新幹線車内で持ち込んでいた点であり、新幹線にも手荷物検査を実施すべき声が出ているが、セキュリティチェックは可能なのだろうか。

海外の鉄道では一部で保安検査はあるが・・・

 飛行機の場合は、ハイジャック防止の観点から国内線・国際線問わず、保安検査場で手荷物のチェックとボディチェックが受けなければ飛行機に搭乗することはできない。これは世界共通であるが、鉄道の場合には国によって対応は大きく異なる。海外ではロンドンとパリやブリュッセルを結ぶユーロスターをはじめ、中国では新幹線だけでなく地下鉄に乗る際にも荷物チェックやボディチェックが行われている。ただ、台湾の台湾新幹線も含めて高速列車でも保安検査なしで乗車できる列車の方が現状では圧倒的に多い。

台湾新幹線(以下筆者撮影)
台湾新幹線(以下筆者撮影)
台湾新幹線の改札口では保安検査は特に行われていない
台湾新幹線の改札口では保安検査は特に行われていない

仕事などで使う場合は包丁やナイフなどの所持は禁止されていない

 飛行機利用と新幹線利用で大きく異なるのが大きな荷物の取り扱いである。飛行機の場合には機内持ち込み手荷物の重量及び大きさが定められており、規定以上の大きさの荷物はチェックイン時に預けることになる。

 また、はさみやカッターなどは、機内持ち込みはできないが、預ける手荷物の中に入れる分には特段問題ない。しかし、海外の鉄道では一部で荷物を飛行機のように預けることができるケースもあるが、日本の新幹線では荷物を預けるという概念やサービスがなく、自分の荷物は全て利用者自身において車内で管理することになることから、仮に荷物チェックなどを行っても預ける仕組みがない以上は運用は難しい。

 警視庁のホームページを見ると、銃砲刀剣類所持等取締法においては「本来、武器として製作され、殺傷能力も高い刀剣類(例えば刀や剣など)については、教育委員会の登録を受けたもの等を除き、所持することが禁止されています」と定められているが、一方で「包丁、ナイフ、はさみ等の刃物は、仕事や日常生活を営む上での道具として必要なものであることから、所持禁止にはなっていませんが、理由なく刃物を外に持ち歩くなどして携帯する行為は、人の生命、身体に対する侵害を誘発するおそれが高いので禁止されています」と定義されている。

 例えば、調理人が仕事場へ向かう際に包丁をバックに入れて移動することなど、正当な理由があって所持をして新幹線を含む鉄道に乗ることは問題ない。逆に料理人が包丁を持っているだけで新幹線に乗れなくなってしまうことになれば逆に問題になるだろう。

東海道新幹線は全列車16両編成で1列車あたりの定員は1323人

 東海道新幹線では、東京駅発着の「のぞみ」「ひかり」「こだま」は全て16両編成で1列車あたりの定員は1323人。1時間に最大15本の新幹線が発車することで、繁忙期になれば東京駅・品川駅を合わせると1時間あたり1万人以上の人が新幹線改札口を通過することになる。JR東海によると、平成28年度の1日あたりの東海道新幹線利用者数は東京駅で9万8000人、品川駅で3万5000人とのことで、全員に保安検査を実施することは、スペースの部分においても、時間を要する点においても現状では難しいのは明らかである。

2027年のリニア開業時も現実的には難しい

 強いて言えば、2027年開業予定の中央リニア新幹線(品川~名古屋)で実施できるかどうかになるだろう。ただ、名古屋駅で新大阪方面からの東海道新幹線から品川行きのリニアに乗り換える際に保安検査が実施されることになれば、乗り換え時間も当初想定よりも時間を空ける必要が出てくることから、利便性の観点からもハードルは高いだろう。

JR東京駅
JR東京駅

国内空港では便出発15分前でも定時出発できる保安検査体制を確立

 飛行機においては、特に日本の国内線における保安検査の迅速さは世界でもトップレベルと言える。ANA(全日本空輸)やJAL(日本航空)などでは便出発の15分前に保安検査場を通過すれば乗り遅れることなく搭乗便に乗ることができる。

 航空会社としては、早めの保安検査場通過を呼びかけているが、15分前まで間に合うというのは、保安検査場をスムーズに通過できる仕組みが既に構築されているからであり、海外では国内線でも1時間前のチェックイン締め切りが多い中、新幹線に乗るのに近い感覚で飛行機に乗れてしまうのは日本くらいだろう。

羽田空港第2ターミナルの保安検査場
羽田空港第2ターミナルの保安検査場

羽田空港で国内15空港の保安検査会社参加のコンテストを開催

 6月13日には、航空保安の強化と保安検査品質の向上を目指し、ANAやJAL、スカイマーク、更にはピーチやジェットスター・ジャパン、バニラエアなどのLCCも含めた国内航空会社が加盟する国内定期航空保安協議会主催による保安検査コンテストが羽田空港で開催された。

 全国の空港から選出された15空港の保安検査会社が参加し、模擬ハイジャック検査場を見立てた舞台を設け、10分間の制限時間で2名1組で実技を行い、航空保安検査マニュアルに記載のある「確実」「迅速」「丁寧」の3つのポイントで競った。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて互いの検査対応力を高めあう場を提供することにより、国内空港全体の保安レベル強化の意識を高めるコンテストとなった。

6月13日に羽田空港で開催された保安検査コンテスト
6月13日に羽田空港で開催された保安検査コンテスト
コンテストには国内15空港から30人の保安検査員が参加した
コンテストには国内15空港から30人の保安検査員が参加した

東海道新幹線では保有車両の9割に防犯カメラが設置済み

 2015年6月に発生した東海道新幹線での放火事件を機に、JR東海、JR西日本、JR東日本では全ての新幹線に防犯カメラを設置することを表明し、JR東海によると、今回事件が起きた東海道新幹線では既にN700Aについては全車両に防犯カメラが設置済みで、6月11日現在ではJR東海が保有する133編成のうち約9割の120編成に防犯カメラが設置されている。2020年度までには全車両に防犯カメラが設置される計画となっている。

 日本の航空会社では機内に防犯カメラの設置はないが、新幹線においては保安検査がない分、防犯カメラを全ての車両に設置し、車内での異変を指令室などで瞬時に確認できる体制を整えることが求められるだろう。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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