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エアアジアのトニー・フェルナンデスCEOに、日本マーケットにおけるエアアジアグループの戦略を聞いた

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
インタビューに応じるエアアジアグループのトニー・フェルナンデスCEO(筆者撮影)

 エアアジアグループ(本社:マレーシア・クアラルンプール)を率いる、LCCの風雲児トニー・フェルナンデスCEOが来日し、3月21日に名古屋市内でインタビューに応じた。日本国内には現在、楽天やノエビアホールディングス、アルペンなどが出資しているエアアジア・ジャパンが昨年10月から中部~新千歳線に就航している。

 また、現在勢いがあるのは、エアアジアの中距離国際線を運航するエアアジアX。グループ会社も含めて、マレーシア、タイ、インドネシアから日本への直行便を運航しているほか、昨年6月には関西~ホノルル線も就航した。

中部~新千歳線を1日2往復しているエアアジア・ジャパン(エアバスA320型機)
中部~新千歳線を1日2往復しているエアアジア・ジャパン(エアバスA320型機)

現在、日本に就航しているエアアジア関連の路線は以下の通り。

■エアアジア・ジャパン(本拠地:中部国際空港)

中部~新千歳(1日2往復)

■エアアジアX(本拠地:クアラルンプール国際空港)

羽田~クアラルンプール(1日1往復)

関西~クアラルンプール(週11往復)

関西~ホノルル(週4往復)

新千歳~クアラルンプール(週5往復)

■タイ・エアアジアX(本拠地:バンコクのドンムアン空港)

成田~バンコク(1日2往復、3月25日より3往復に増便)

関西~バンコク(1日2往復)

新千歳~バンコク(4月11日から1日1往復で再就航)

■インドネシア・エアアジアX(本拠地:バリ島のデンパサール ングラ・ライ国際空港)

成田~デンパサール(バリ島)(1日1往復)

成田~ジャカルタ(5月1日から新規就航※成田発は2日から 1日1往復)

 今回、今後の日本マーケットにおけるエアアジアグループの戦略を中心にトニー・フェルナンデスCEOに話を聞いた。

中距離国際線のエアアジアX。ビジネスクラスは、ビジネスクラスという位置づけではない

筆者:まず、好調な中距離国際線のエアアジアXについてですが、全路線が377席(補足:エアバスA330-300型機で全377席。うち12席がビジネスクラス相当の「プレミアム・フラットベッド」)という大型機並みの座席数で運航しているのに、いつも混んでいます。毎日高い搭乗率で運航し続けることができるのはなぜですか?

トニー・フェルナンデス氏:料金、よい商品、強固なマーケティング、そしてクアラルンプール(マレーシア)からバリ島、プーケット、カンボジアへ乗り継げるということで非常に素晴らしいネットワークを持っているからだと思います。安さについては、値段を10円にしても、誰も行きたがらない場所にネットワークを持っていても誰も乗らない。しっかりとしたマーケティングが出来ている。

 我々は日本で雇用を創出している会社であり、日本に(アジアからの)観光客を運んでいる会社です。我々の便は、東南アジアを中心にアジアの方々に多く乗ってもらってますが、ネットワークだけが理由ではなく、マレーシアをはじめアセアン諸国から日本に来たい方が多いというのも(搭乗率が高い)理由だと思います。

エアアジアXの特別塗装機(エアバスA330-300型機)
エアアジアXの特別塗装機(エアバスA330-300型機)

筆者:エアアジアXには、プレミアム・フラットベッドを12席設置し、フルサービスキャリアに近いシートを使いながらお得な運賃で販売してますが(補足:セール販売時には片道3万円台で販売されることもある)、こういったシートを投入した理由については?

トニー・フェルナンデス氏:「プレミアム・フラットベッド」はビジネスクラスではないんです。あくまでも追加のサービスという形で提供しています。3~4時間程度なら私も含めて人々は席にはあまりこだわらないが、7~10時間の長時間のフライトとなると、もう少しお金を払ってでも座席をよくしたいという方が多いので、こういったシートを設けている。12席しかないですけど利益も非常に出ています。

 サービスは、他の座席(エコノミークラス)と全く同じで、シートだけが違っている。私どもにとっては、追加のサービスをするなら、サービスを変更するのではなく、シートが一番重要だと思っているので、そこに工夫を凝らしている。シートをよくすることが追加の付加価値をもたらすと考えているんです。

エアアジアXに12席搭載されている「プレミアム・フラットベッド」
エアアジアXに12席搭載されている「プレミアム・フラットベッド」
若干の傾斜はあるが、フルフラットシートで深夜便でもぐっすり眠れる
若干の傾斜はあるが、フルフラットシートで深夜便でもぐっすり眠れる

エアアジアXは今年9月から順次、機内Wi-Fiのサービスを開始

筆者:現在、同じく中距離LCCを運航するスクートには機内Wi-Fiが搭載されてますが、エアアジアXのフライトに搭載されてません。導入の予定は?

トニー・フェルナンデス氏:今年9月から導入する予定で、現在は承認待ちの状況です。9月の導入後、約1年くらいかけてエアアジアXの全機で使えるようにする予定で考えています。

日本からアメリカ西海岸、インド、ヨーロッパへも飛ばしたい。まずは名古屋からのホノルル便に意欲

筆者:エアアジアXの日本路線の今後についてはどのように考えてますか?

トニー・フェルナンデス氏:2018年は我々にとって優先順位は日本が高く、今後もっと、東京、大阪、名古屋への路線を増やし、できれば福岡、更に札幌には路線を持っているが、沖縄もやりたい。以遠権を使ってホノルルと名古屋を結ぶ路線も近い将来にできればと思っています。

昨年6月には関西~ホノルル線の運航を開始した
昨年6月には関西~ホノルル線の運航を開始した

筆者:将来的に日本発の中距離国際線路線専門のエアアジア・ジャパンXの構想はあるんですか?

トニー・フェルナンデス氏:是非やりたいです。ライセンスを取るのに時間がかかるので、ワイドボディ(中大型機)機を使った国際線はエアアジア・ジャパンで運航したいと思ってます。エアアジア・ジャパンの中長距離路線で、東京や名古屋からバリ島をはじめ、アメリカ西海岸、インド、ヨーロッパへ飛ばしたいですね。

エアアジアXのエコノミークラス
エアアジアXのエコノミークラス

1路線しかないエアアジア・ジャパンの今後は。理想は1日平均14時間の稼働

筆者:さて、ここからは名古屋の中部国際空港を拠点とするエアアジア・ジャパンについてですが、昨年10月に就航して以降、現在も1路線(中部~新千歳)のみで、どうして路線の拡大などができていないんですか?

トニー・フェルナンデス氏:おっしゃる通りです。航空局に聞いてください(笑)。私もフラストレーションが溜まっています。時間がかかり過ぎですし、過度に慎重という印象があります。我々はもっと飛ばせます。

昨年10月29日に中部~新千歳線を就航。現在も1路線のみで機体も2機体制と変わっていない
昨年10月29日に中部~新千歳線を就航。現在も1路線のみで機体も2機体制と変わっていない
エアアジア・ジャパンの就航前々日の昨年10月27日に中部国際空港(セントレア)で行われたレセプションでは侍の姿で登場したトニー・フェルナンデスCEO
エアアジア・ジャパンの就航前々日の昨年10月27日に中部国際空港(セントレア)で行われたレセプションでは侍の姿で登場したトニー・フェルナンデスCEO

筆者:LCCのビジネスモデルでは、飛行機の稼働は1日何時間必要だと考えてますか?

トニー・フェルナンデス氏:14時間必要だと思います。エアアジア・ジャパンは1日8時間くらいしか飛んでませんが、エアアジア・ジャパンを除いたエアアジアグループ全機体の稼働時間の平均は13時間です。一番多い機体で14時間、少ない機体で12時間です。

筆者:エアアジア・ジャパンは現在1路線ですが、この2~3年のレベルでどのくらいの規模(路線数・機体数)にしたいと考えてますか?

トニー・フェルナンデス氏:私のビジョンだけを語りますと、機体は3年後に最低でも20機を持っていたいと思う。例えば、エアアジア・インディアの場合は2年半から3年で20機、エアアジア・フィリピンも3年で20機になった。日本は航空局に大きく左右されることもあるが、私自身のやり方で出来ていれば1年間で7機は増やせると思います。

エアアジア・ジャパンの機内
エアアジア・ジャパンの機内

ピーチとバニラエアの統合報道については「理にかなっている」

筆者:かつてパートナーを組んでいたANA(全日本空輸)は、グループLCCのピーチとバニラエアの両社を統合へ向けて協議しているという報道が流れているが、この点についてどう考えているか?またエアアジアグループへの影響はあるのか?

トニー・フェルナンデス氏:いいアイデアだと思いますし、理にかなっていると思います。私が彼らの立場だったら同じ選択をすると思いますが、この統合の話に2年もかかったことは興味深いです。個人的には、日本の消費者がANAとJAL(日本航空)の2社しかないという状況に気づいて欲しい。スプリング・ジャパン(春秋航空日本)でさえもJAL絡みということで日本にはもっと競争が必要だと思います。

 観光客をより多く日本に来てもらう為に、考え方を変えて色々とトライをしていかなければいけないと思います。日本には真のLCCというのがいないのではないかと思う。私どもは(日本マーケットで)戦って、成功してより多くの選択肢と雇用を増やしていきたいと思います。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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